Se connecter「絵里、本当に綺麗だ……」 煌びやかなグランドクリスタルのピアノの上で、氷川北斗(ひかわ ほくと)に何度も口づけされながら、深山絵里(みやま えり)は全身の力が抜けていくのを感じていた。 こんなふうにされるなんて、ただでさえ恥ずかしくてたまらないのに―― そんな言葉までかけられて、絵里はつま先まで恥ずかしさが伝わり、思わず身体が強ばる。 「絵里、もっと力を抜いて……もう限界だよ」 北斗が耳元で囁いた。 絵里は顔を赤らめて、そっと視線を逸らす。どうしても彼の顔を正面から見られなかった。 でも、北斗は優しくも強引に、絵里の顔を自分のほうへ向けさせる。 整ったスーツ姿なのに、ふいに見せる強引さと野性味。 狼のような眼差しが、絵里のすべてを奪っていく。 そのとき、彼はドイツ語で……
Voir plus詩織は、心の底から絵里を憎んでいた。四年前、絵里に命を救われたあの日から、運命は大きく動き始めた。その現場に北斗も駆けつけた。彼は端正な顔立ちで、何千万もする高級車に乗っていて、一目で金持ちだと分かった。その瞬間、詩織は彼に強く惹かれた。そして、あらゆる手を使い、どうにかして北斗の腕の中に転がり込み、ついには彼の子どもまで身ごもった。これで自分も、富と名声に溢れる氷川家に嫁げる――そう信じていた。けれど、絵里のせいで、その夢は無残にも打ち砕かれる。北斗は自ら、詩織のお腹の子どもを奪い、さらにありとあらゆる手段で彼女を追い詰めた。彼女は悪評をばらまかれ、大学を追い出され、ネットでも誹謗中傷の的になった。どこにも就職できず、いい結婚相手も見つからなかった。もともと贅沢な暮らしに慣れていた彼女にとって、貧しさは耐えがたい苦しみだった。やがて彼女は、年配の金持ちの愛人として生きるしかなかった。そんな生活は屈辱にまみれていたが、それでも耐えていた。しかし、ある日年配の男の子どもを身ごもった直後、その男の裏社会の妻に路上で襲われ、激しく暴行されて流産し、二度と子どもを産めない身体になってしまった。その妻は彼女の命まで狙っていると公言し、詩織は、本当に殺されるのではないかと恐れていた。なぜこんなにも不幸になったのか――こんな目に遭ったのは、全部絵里のせいだと、彼女は心の底から思い込んでいた。もう後がない、死ぬ前に必ず絵里を道連れにしてやる――絵里が帰国したと知ると、詩織は彼女のマンションの周辺でずっと機会をうかがっていた。そしてついに、絶好のチャンスが訪れた。怒りと憎しみで目を真っ赤に染めながら、彼女は果物ナイフを握りしめ、ありったけの力で、絵里の胸めがけて突き立てた!「お姉さん!」晶哉は、こんな突発的な事件になるとは思いもしなかった。反射的に絵里を腕の中にかばう。もともと身のこなしがいい彼は、一瞬で詩織を蹴り飛ばしてしまうこともできた。けれど、今回は少しだけ作戦を変えた。絵里の心をもっと自分に向けたくて、あえて詩織の果物ナイフを自分の背中で受け止めたのだ。「晶哉さん……!」詩織にとって、晶哉は「憧れの人」だった。その彼が、命がけで絵里をかばった姿に、胸が締めつ
「早瀬、妻と今一緒にいるのか?絵里をどこに隠したんだ?俺の妻を返せ!」晶哉は本当に体力がありすぎる。晶哉の熱に包まれて、ただ彼に乱されるまま、身を任せていた。北斗の必死で不安げな声など、まったく耳に入っていなかった。ただ本能のまま、甘えた声で囁く。「晶哉……もう、少しは手加減して……」「絵里!」北斗は、女の扱いに慣れている男だった。絵里の声を聞いた瞬間、彼女と晶哉が何をしているのか、すぐに悟ってしまった。無数の痛みが心臓をぎゅっと締めつけ、息苦しさに胸が押しつぶされそうだった。彼女が晶哉と関係を持っていると聞いたときも、心が切り刻まれるようだった。だが、そのときの痛みなど、今この瞬間の絶望には到底及ばなかった。空港で、彼女が「晶哉と寝てる」と言ったのは、ただのはったりだと思っていた。まさか本当に、彼女が晶哉とすべてを受け入れるとは――自分は、ただ彼女が他の男に抱かれている声を聞いただけで、心に何本もの矢が突き刺さるような痛みを感じ、生きているのがつらいほどだった。三年前、彼女は自分と詩織が親密にしているところを、目の当たりにしていた――そのとき、彼女の心はどれほど傷つき、どれほど絶望したのだろうか。耐えがたい痛みが北斗の胸を引き裂き、思わずその場に膝をついた。そして、なんとか声を振り絞り、今にも泣き出しそうな、情けない声で叫んだ。「絵里、あいつに触らせるな!早瀬、俺の妻に指一本触れるな!」だが叫んでいるうちに、声には情けなさと、どうしようもない悲しみがにじんでいた。「絵里、本当に俺が悪かった……お前に他の男ができても、怒ったりしない……二度とお前を悲しませない。お願いだ、どうか戻ってきてくれ……」「ふざけるな!」晶哉はわざと北斗に二人の声を聞かせて、完全にあきらめさせようとした。だが、どんなに声を聞かせても、北斗は最後まで手放さなかった。晶哉はそれ以上無駄口を叩くことなく、冷たく電話を切ると、すぐに絵里の唇に深く熱いキスを落とした。晶哉には誇りがある。どんなに貧しくても、決して女に養われるような男じゃなかった。けれど、三年前に自分を「囲った」のが絵里だったから――子どもの頃からずっと忘れられなかったあの人だったから、彼女に養われることに、屈
北斗が詩織の話を口にしたとき、絵里はわずかに眉をひそめた。まさか三年前、あれほど詩織とそのお腹の子どもを大切にしていた北斗が、自分で手放すなんて――絵里は思いもしなかった。でも、もうそんなことはどうでもいい――絵里の心の中では、とっくに彼との関係は終わっていたのだから。「絵里……三年前、お前が妊娠していたなんて、知らなかったんだ……」北斗の瞳には深い痛みが浮かび、目尻は今にも血の涙がこぼれそうなほど赤く染まっていた。その声はかすれていて、まるで心が擦り切れてしまったようだった。「本当に後悔してる。あれは、俺が、俺があの子を殺したんだ。でも、絵里……これからは、たくさん子どもを作ろう。お前と子どもを、全力で愛する。だからお願いだ、どうか俺を捨てないでくれ!」「……氷川さん」北斗がすがるように手を伸ばしかけたその瞬間、絵里は迷いなく晶哉の手を取り、そっと一歩下がった。その冷ややかな態度と警戒心が、北斗の胸に鋭く突き刺さる。「氷川さん」と呼ばれたこと――もう「北斗」とも「あなた」とも呼ばれないことが、彼の心を何本もの矢で貫いた。まだその痛みから立ち直れずにいる北斗に、絵里は静かに告げる。「訂正しておくけど、私はあなたの妻じゃない。三年前、あなたが結婚式から逃げようとしていると知ったあの夜、私はすべてに失望した。結婚式の日、自分の意志で逃げ出して、その瞬間から、あなたとの関係は完全に終わったのよ。だから、もう妻なんて言わないで。そんなふうに呼ばれると……」晶哉は本当は絵里の恋人ではなく、ただ貧しい大学生を「囲っている」だけ。けれど、北斗にこれ以上関わってほしくなくて、絵里は言い切った。「そんなことをされたら、私の彼氏が誤解するじゃない。私は、彼のことを愛してるの。もし彼が傷ついたら、私も胸が痛む」「彼のことを愛してる……」絵里が「愛している」と言った瞬間、北斗の胸にはナイフのような痛みが走った。彼女が他の男を愛しているなんて、どうしても受け入れられない。それでも、北斗は震える声で、なおも縋りつこうとした。「何年も一緒にいたのに、そんなに簡単に他の男を好きになるわけがない。お前がこの男を彼氏だと言うのは、俺を嫉妬させたいからなんだろ?本当に後悔してる。もう二度とお前を傷
四千万円で彼を百年も「囲える」なんて――なんてお得なのだろう、と絵里はふと思った。もちろん、男性を「囲う」なんて決して誉められたことじゃないと、心のどこかでは分かっていた。それにしても、晶哉は本当にイケメンで、しかも料理も上手だ。一度お金を払ったのなら、今さら余計な遠慮をする必要なんてない、そう思ってしまうのだった。だから今夜、晶哉がシャワーを浴びて出てきて、濡れた髪から水滴が鎖骨を伝うのを見たとき、絵里はもう我慢できずに彼に飛びつき、あっという間に二人は熱く溶け合っていった――そして、そのまま朝まで止まらなかった。絵里は、もう「囲う」なんて話をすることもなくなっていた。だけど二人の間には、言葉にしなくても「そういう関係」が自然と続いている、そんな不思議な絆が生まれていた。晶哉は、当然のように絵里のアパートに住み着いた。「あなたが故郷に戻るとしても、海外に残るとしても、ずっとそばにいる」そう言ってくれる晶哉の横顔を見て、三年前に彼を「囲った」ことが、自分の人生で一番の選択だったと、絵里は心から思った。本当に、コスパが良すぎるのだ。外では冷たく清らかで、誰も近寄れない「高嶺の花」のような彼も、絵里の前では本当に優しく、思いやりに溢れている。日中は散歩や運動に付き合ってくれ、食事の時間には当たり前のようにキッチンに立って手料理をふるまってくれる。そして夜――二人は息の合った恋人同士になった。毎晩、晶哉は強引に絵里を天にも昇るほどの快感へと導き、彼女はその甘い世界から抜け出せなくなっていった。たった一週間で、絵里はもう晶哉と一緒にいることが当たり前になってしまった。むしろ、いつか彼が結婚して家族を持ち、「この関係を解消したい」と言い出す日が来るのかと思うと、胸がきゅっと締めつけられるような寂しささえ感じるのだった。もう少しなら、お金を上乗せしてもいい――できれば、晶哉を一生『囲って』いたい……そんなことまで、ふと考えてしまう。帰国の前夜、晶哉はいつもより激しく絵里を求めた。バレエを専攻していた絵里は体力には自信があったが、彼の情熱の前ではさすがに腰が砕けそうになり、翌朝には全身がぐったりと力が入らないほどだった。ほとんど夢うつつのまま、晶哉に抱きかかえられて車に乗せられ、そのま
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