Semua Bab 隣の彼 じれったい近距離両片思いは最愛になる、はず。: Bab 61 - Bab 70

92 Bab

好きです!④

 雨が降っている。半円形のガラスの壁に水滴が付いては流れ、銀色に光る鏡のオブジェにどんよりとした鈍色の雲、市役所が幾つもの角度を見せて映っている。 小鳥は一列にずらりと並んだうさぎの耳の背もたれの椅子に座り、職員出入口をぼんやりと眺めていた。携帯電話を見る、約束の時間ちょうど。職員玄関のアルミスチールの扉が開き、地下駐車場からの横断歩道、次に21世紀美術館へ渡る横断歩道で左右を確認して近江隆之介が濡れたスーツの肩の雨を手で払いながら自動ドアを潜った。「よ、お待たせ」「ううん、さっき来たところ」「そうか」 小鳥から一つ離れたうさぎの耳に座る。なんとなく無言。思い付いたように同時に あ と言葉を発してしまい、どうぞどうぞと譲り合った。「にしても、驚いたな」「どれがですか?」「どれって、久我が田辺議員と繋がっていたって事だよ」「しっ、声が大きいですよ」「ヤベェ?」「やばいです」 小鳥の視線がじっとりと湿り気を帯びて目が座っている。「それよりも驚きました」「な?」「な、じゃないです」「は?」「久我議員が近江さんのお姉さんだとは、びっくりです」「声、でけえよ」「不倫じゃなかったんですね」「信じてたの」「信じますよ、そりゃ」 近江隆之介の顔がうんざりした面持ちから、晴れやかな表情にコロリと変化した。「驚いたのはこっちだよ」「何がですか?」「何がって」 ニヤニヤと緩んだ口元から、あの事だと察した小鳥は顔を真っ赤にしていきなり椅子から立ち上がった。「うお、いきなりなんだよ」「じゃ、じゃあ!時間なので戻ります!」「まだはえぇじゃん」「さよなら!」「え」「じゃ!」「おい、小鳥、お〜い小鳥ちゃ〜ん。」 小鳥は振り向きもせず、雨でぐちゃぐちゃになった芝生を横断し、道路で左右安全確認をして市役所の裏出入り口へと走った。「おお〜い」
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ベランダ飲みの告白

 小鳥が部屋に帰ると、玄関ドアに製薬会社ロゴ入りの白いメモが貼られていた。議員控室のメモ用紙らしい。ドアノブにはコンビニの白いビニール袋にハイボール二缶。少し温かかった。『20:15 ベランダで待つ』(・・・果たし状ですか、これ)20:13隆之介と小鳥は冷蔵庫からハイボールを取り出した。小鳥の缶は温かかったので、氷を入れたグラスでオンザロック。カーテンを開け、網戸を引く。ベランダにスリッポンとクロックスを置く音。 「よぉ」「はい」 昼までの雨も上がり、夜空には星が輝いている。「あ」「どした」「夏の大三角形」「どれさ」「あれ、あれ。お寺の屋根の上と、卯辰山、あとその天辺」「あぁ、あれか」 そして無言。「飲まねぇの」「近江さんだって」「飲もうぜ、折角買って来たんだし」「う、うん」 プシュ、プルタブを引く。べこんと鳴る凸凹と柔らかいハイボールの缶。カランと乾いた氷の音。「ほれ。乾杯」「何に」「まぁ、色々と?」「はぁ」 救急車のサイレンが寺町大通りから城南大通りへ遠ざかる。夏らしいパラリラと賑やかなオートバイの音が遠くから聞こえ、季節の風物詩のようだ。「近江さん」「何」「近江さんと久我議員って不倫関係じゃなかったんですね」 ブハッと吹き出す音がベランダに響いた。「ま、まだそれ言う?」「だって。秘書の長野さんたちが話していて」「あぁ、それな」「はい」「身内だから優遇されてるんじゃ無いかって言われるの腹立つから大っぴらにしていないだけだし」「そうなんですね」 グラスが汗をかき、雫が滴る。足元に一滴。「あぁ、だからか」「何がですか?」「おまえ、いつも久我議員って言う時、こえぇ顔してたし」「だって。不倫とか、あり得ないし」「ま、そうだわな」「はい」「他の奴に言うなよ」「はい」ジジジジ駐車場で夏の終わりの蝉が転がる音。 「なぁ」「はい」「好きってことは、付き合ってくれる?」(藤野はどうした?)「え、と」 「付き合ってくれる?」「はい」「男女として?」「生々しい言い方やめてください!」「へい。ちょっと二缶目取ってくる」「はい」 隆之介が冷蔵庫を開け、ガチャン、パタン。プシュとプルタブを開け、ゴクゴク飲みながら戻る気配。 「お前、不倫してるかもしれない男に告白?」
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ベランダ飲みの告白②

 プシュっとプルタブを開ける音、氷がグラスでカラカラと響く。ぎしっ。ベランダの窓枠が軋んだ。「おかえり」「ただいま」「ん」「藤野さん、ど、どうしてそうなるんですか!?」「いや、見ちゃったし」「何を!?」「ケータイ」  小鳥の中でぐるぐる回る白い携帯電話。近江隆之介の部屋に落とした、あの携帯。「携帯って、携帯電話!?」「ん」「ロック解除したんですか!?」「0601、みたいな?」「どうやって!?」「議会事務局の職員名簿、的な?」「ストーカー!」「否定しない。すんません」「信じらんない!!」「静かにしろよ」「あ」 チリーン。 指を唇の前に立てる。「で、携帯で何を見たんですか?」「壁紙」「どんな?」「藤野が笑ってた」「あぁ」 小鳥が立ち上がり、スリッポンが転がる。カタカタ、ジッパーの音。間仕切りの隙間から青白い光が漏れ、携帯のパスワードを解除したらしい。「これ」   間仕切りの下、広報誌の上に携帯が差し出される。「それ以外は見ないで下さいね」「おう」「見たら絶交ですからね」「小学生かよ」   画像フォルダの写真一枚。ムカつく笑顔。「それ?」「クソ藤野が笑ってるコレ」「よく見て下さい。藤野さんの肩の向こう」「待て、見えねぇ。コンタクト外してくる」  近江隆之介が立ち上がり、クロックスが転がる。バタンと洗面所の扉が閉まり、足音が近づく。「で、どこ?」「藤野さんの右後ろです」「何」  隆之介が息を呑む。「それです」「マジか。俺じゃん」「そう」  一瞬の沈黙。「盗撮?」「人聞き悪いこと言わないで下さい。返して」「おう」 間仕切りの下、広報誌の上に携帯を返却。「これ、偶然映っただけなんです」「そか」   動揺が隠せない。「これが今の壁紙です」  再び広報誌の上に携帯が差し出される。「これ」「デモの日に撮ったら、偶然写ってました」「偶然、多すぎだろ」「偶然なんです!」「狙ったな」「狙ってなんかいません!!」「しっ、声でかいよ?」「あ」 チリーン。 近江隆之介と久我今日子議員の不倫疑惑が晴れ、小鳥の片思いの相手が藤野建議員という誤解も解けた。久我と藤野の密会は、不貞ではなく門外不出の資料の受け渡しだった。「なんだ」「何だ、とは、なん
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お部屋でデート

 カタカタ、室外機が回る。ミーンミンとアブラゼミの鳴き声。小鳥は悶々とした夜を過ごし、羽毛布団に抱きついてベッドでゴロゴロ。 インターフォンが鳴る。(近江隆之介?) 忍び足でインターフォンへ。 「は、はい」「よ、おはよう!俺、髪切ってくるわ」「はぁ」(なぜいちいち報告?)「2時間くらいで帰る。じゃあな!」(待ってろってこと!?) 画面から消える隆之介は満面の笑顔。(昨夜の今朝でこの余裕…2時間後に何!?) 歯を磨き、顔を洗い、化粧水を叩く。寝癖を水で整え、クローゼットを開ける。ハンガーを手に、1分悩む。「え、なに、嬉しそうな顔してるのよ!」 姿見に映る小鳥の頬は緩む。ワンピースを手に取るが、「お待ちしてました」みたいで恥ずかしい。チェストから黒の半袖パーカーと半ズボンを選び、着替える。(普段着で平常心…2時間) 時計は9:30を指す。(お昼は素麺でいいかな) フライパンにオリーブオイルを敷き、卵を割り入れて薄焼き卵を作る。生姜をすりおろし、茗荷を薄切り。 「て!何、料理!?」薄焼き卵を細切りにし、冷蔵庫からそうめんのつゆを出す。鍋に水を張り、ザルと器を準備。 「て!鼻歌!?」リビングテーブルにギンガムチェックのランチョンマットを2枚敷き、箸を置く。カーテンがエアコンの風に揺れる。「お迎えする気、満々じゃん」ピンポーン。2時間より早くインターフォンが鳴る。「よっ!ただいま!」(ただいま!?)「は、はい」   隆之介の手には缶ビールの入った袋。隆之介は黒い半袖シャツとハーフパンツ、クロックスを揃えて裸足で上がる。「暑かったわ」「そ、そう」「ビールと枝豆買ってきた。飲もうぜ」(飲む前提!?)「じゃ、温めますから」「ほれ」  コンビニで買ったらしい霜付きの枝豆を大皿に移し、レンジへ。プシュ。キリンラガーのプルタブが開く。「素麺でいいですか?」テーブルに生姜、茗荷、薄焼き卵を並べる。 「最高!卵、小鳥が焼いた?」「まぁ」「すげ、薄い、細い、感動」「ちょっと待って下さい、素麺茹でますね」 ガスコンロに火をつけ、素麺の紙を剥がす。 「何束食べますか?」「俺も手伝う」   隆之介が背後に立ち、腕を伸ばす。背中に肌の熱、襟元に息遣いを感じる。隆之介の息遣いが近い。「小鳥」
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隆之介仕事する

 9月定例議会が近づいていた。エレベーターの電光掲示板で、久我今日子、田辺五郎、藤野建のランプはグレーで消えている。自主党の議員控室は鍵がかかり、蛍光灯も消されていた。 しかし、ガラス窓から差し込む広坂大通りの陽光で部屋は明るい。書類のチェックやデータ入力には十分な光だ。「久我さん、これ資料に添付します?」「ええ、お願い。」「藤野さん、ここどうします?」「削除でいいよ。」 機密バインダーの付箋は剥がされ、資料は田辺、藤野、近江隆之介の手に渡っていた。久我は資料から数字や文字を抜き出し、ノートパソコンに打ち込む。「近江くん、そのファイル取って。」「はい。」 小鳥はFacebookの更新、電話対応、アスクルの伝票整理をしていた。エクセルに金額を入力しながら、ふと近江を見ると、真剣に資料にマーカーを引いている。普段の軽い雰囲気とは別人のような横顔に、小鳥は思わず見惚れた。目が合う。(うわっ!) 慌ててパソコンに向き直る。顔はきっと真っ赤だ。キーンコーンカーンコーン昼休憩のチャイムが響く。久我今日子が時計を見上げ、田辺が肩を叩き、藤野が両手を上げて欠伸した。「ひと休み!」「お疲れさま!」 近江隆之介は資料を三つの山に分け、ペーパーウェイトを乗せた。(近江隆之介、ほんとに秘書だ…) 小鳥はまた彼の横顔に見惚れる。ふと、久我と目が合い、彼女はニヤリと笑う。「小鳥ちゃん、ヨダレよ?」「えっ?」「口、閉じてなさいね。」 小鳥は慌てて口元を擦る。「冗談よ、可愛いわね。」田辺が立ち上がり、腰を叩く。「私は、タヌキうどん。」「俺はカツカレー。」「私はカレー。」 久我が近江隆之介に五千円札を渡す。「え、いいですよ。」「気にしないで。」「でも」「いいの、秘書へのお小遣いよ。経費で落とすわ。」「ありがとうございます。」「隆之介、小鳥ちゃんと好きなもの食べておいで。私たちの分は先に届けてね。」「はい。」「おまえ、どっち持つ?」「ええと。」「俺、階段から行くから、カツカレーとカレー持って行くわ」「何で、階段?」「俺が7階(野党)までエレベーターで行くとかおかしいだろ」「あ、そうか」 そして、普段の近江隆之介に戻る、と。「おまえ、先に行ったら地下食堂で食券買って座るとこ取っとけ」(とけ!?命令かーーい)「う、うん
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思い出しました

 小鳥は味噌汁を啜り、絹ごし豆腐をつまんで口に入れた。ふと、思い出したように言った。「近江さん、『あの夜』のこと、思い出しました。」「何だよ、それ。」「『好きなんだ、一目惚れだ』って言いましたよね?」ブフォ!近江隆之介がオムライスを吹き出す。「汚い!」と小鳥が叫ぶ。彼は水を飲むが、むせる。「ここで言うなよ・・・・」「やっぱり言ったんですね。」「そ、それは・・・・」「恥ずかしいこと、よくベラベラ言えましたね。」「・・・全部思い出した?」「はい、結構。」「そうか・・・」「近江さん、酔ってない時に聞きたいな。」「無理。酒なしじゃ言えない。」「弱虫。」「絶対無理。」 近江隆之介は視線を下げ、オムライスをすくう。耳はほんのり赤い。二人は黙って箸とスプーンを動かす。「もっと早く言えばよかったのに。」「そんなの言えるかよ。」「バカみたいに逃げ回って。」「バカって言うな!」 再び沈黙。近江隆之介が福神漬けをスプーンで集めていると、小鳥がまた爆弾を投下した。「キスに至る過程なんですけど。」ブフォ!「な、こんなとこで何!?」「順番にクリアしたいんです。」「クリアって何?」「この前、一緒にご飯食べましたよね。」「うん、うまかった。」「朝は手をつないで出勤してるし。」「そうだな。」「次はデートして、その後に…キスしたいんです。」 小鳥が味噌汁を飲み干す。「それ、味噌汁すすりながら言うこと?」「まぁ、そんな感じで。」 近江隆之介が身を乗り出し、囁く。「デート、いる? 毎日メシ食ってるじゃん。」「まぁ・・・」「21世紀美術館歩いて、犀川見てるだろ? 普通のデートコースだぞ。」「はい、毎日・・・」「ほら、デートじゃん。」「はぁ。」 小鳥は鯖の味噌煮を頬張る。「何、モシャモシャ食ってんだよ。」「昼休憩、終わりますよ?」「大事なミッションだろ?」「そうですね。」 小鳥は水を飲み干し、箸をトレーに置いて手を合わせた。「検討します。ごちそうさまでした」
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ちょ、マジやべえって。

 田辺議員と藤野議員は外回り、久我議員は百貨店前で街頭演説中。重要機密作業は休止。小鳥は来客対応を終え、湯飲みと茶托を片付けた。昼休憩まであと30分、議員控室の電話が鳴った。「自主党議員控室、高梨です」 電話の向こうは騒がしい。久我議員の声、沿道のざわめき、車の音。街頭演説の光景が浮かぶ。「もしもし!近江さん?」「お前、携帯の電源切ってるのか!?」「勤務中なんで」「電源入れろ、着信履歴見ろ!」 携帯をONにすると、マンション管理会社から10件の着信。「大変だ!今すぐマンションに行け!」「何、どうしたの!?」「俺とお前の部屋、水浸しかもしれねぇ!」「え!?」「タクシーで行け、後で金やる」 小鳥は藤野議員に断りを入れ、昼休憩を利用してマンションへ急いだ。 小鳥はタクシーを降り、エレベーターで3階へ急いだ。そこには田辺議員似の青いスーツに黄色いネクタイの男性。手に大東南建託のバインダー。名刺を渡され、営業の中田さんと知る。「302号室の高梨さん?」「はい」「お部屋、拝見してもいいですか?」「どうぞ」 中田さんは焦った様子。小鳥はバッグから鍵を取り出しつつ尋ねる。「何かあったんですか?」「401号室の配管工事で漏水が…」 歯切れが悪い。鍵を開けると、昼の室内はむわっと暑い。(掃除しておいて良かった) 窓とカーテンを開け、日差しの中、天井と壁を確認。シミは見当たらない。コンコン。「失礼します」作業員二人が養生シートと脚立を持ち入室。シートを敷き、脚立で天井を叩き、懐中電灯で点検。ソファを動かし、カーペットを捲り、風呂場とトイレも確認。中田さんは気まずそうに見守る。「大丈夫ですか?」「少々お待ちを」 作業員は中田のバインダーに記入し、退出。「高梨様、異常はありませんでした」「良かった・・・」「今後、カビや異常があればご連絡を。壁紙の張り替えも対応します」「はい」 小鳥が安堵の息をつくと、革靴の音。近江隆之介が慌てて現れた。エレベーターホールから響く革靴の音は慌ただしい。中田さんが外廊下に出て近江隆之介に名刺を渡す。額の汗を拭う近江が小鳥に叫ぶ。「お前の部屋は!?」「大丈夫だった」「良かった・・・」 近江隆之介が鍵を差し込むと、足元に水が滲み出す。中田さんが慌ててドアを開けると、惨状が明らかに。「す、す
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初めてのデート

 柔らかな日差しが差し込む静かな土曜の朝。目覚ましなしでゆっくり起きるはずが、すさまじい騒音で小鳥は飛び起きた。 (近江隆之介、こんなにいびきうるさいなんて・・・・!)   地響きのような「ふごっつ!」といういびき。「ふごじゃねえよ」と心の中で突っ込みつつ、小鳥はベッドから這い出て洗面所へ。顔を洗い、歯を磨き、コンタクトを装着すると、目の前には金曜の朝とは全く別物の光景が広がっていた。 へそ出し、片膝立て、両腕を万歳した状態で豪快にいびきをかいているのは、付き合いたての恋人、近江隆之介。小鳥は呆然と立ち尽くす。 (これからどうすればいいのよ・・・)   ひとまず朝ごはん。冷凍庫から食パン二枚、冷蔵庫から卵二個とハムを取り出し、ハムエッグを準備。ティーポットにアッサムの茶葉をたっぷり入れ、濃いめのミルクティーを淹れる。トースターにパンを放り込み、フライパンにオリーブオイルを引いて火をつけた。 ハムを剥がしていると、背後に人の気配。振り返ると、朝食の音で目を覚ましたらしい近江隆之介が近づいてくる。 「こっとり〜こっとり〜」「またその歌ですか」「おはよう!」「おはようございます」「何そのロボットみたいな挨拶、冷てえな」「近江さんは寝起きからなんでそんなご機嫌なんですか」「別のトコもご機嫌になっちゃったりして?」「顔、洗ってきてください!」「へいへい」   自分の部屋に誰かがいる違和感。(近江隆之介が四六時中一緒とか・・・おならもできないじゃん!) 落ち着かない。心が休まらない。  グゥ。  まあ、いいや。ハムエッグの準備を続ける。ハムを追加で二枚。近江隆之介はもしゃもしゃとトーストを頬張り、ミルクティーをズズッと飲む。すでに三枚目だ。 「なぁ」「飲み込んでから話してください」「ゴックン」「・・・それ、言わなくていいです」 「今日、無印行こうぜ」「無印良品?」「いいじゃん、俺の衣装ケース欲しいし」  近江隆之介が指差す先には、彼のインナーや靴下が山積みに。 「買った衣装ケース、どうやって運ぶんですか?」「タクシー」「金銭感覚おかしいですよ」「そういや、昨日のタクシー代」 近江隆之介はスーツのポケットから千円札を一枚渡してきた。 「ごちそうさん。はー、食った食った!」「お粗末さまでし
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初めてのデート②

爽やかな笑顔の近江隆之介。バス停で待つと、赤信号が二回変わる頃にバスが到着。広小路の右折レーンで体が左に傾く。このバス、相変わらず運転が荒い。ふと横を見ると、近江隆之介がニヤニヤしている。 「ラッキー」「何がですか?」「小鳥の胸、触っちゃった」 見ると、近江隆之介の左手が遠心力で小鳥の胸に軽く触れている。 「くだらない」「へっへっ」   小学生かよ。 バスは犀川大橋を下り、片町の金劇パシオンビル前を通過。ここで二人の関係が始まったのだ。小鳥が感慨深く眺めていると、近江も身を乗り出して外を見る。 「ここで俺、小鳥をお持ち帰りしたんだよな」「私が飛び跳ねる近江さんをタクシーに押し込んだんですよ」「え、俺、飛び跳ねてた?」「はい、『手ぇ繋いじゃう?』とか言いながら」「マジか」「マジです」  香林坊の雑踏、南町の静けさ、武蔵ヶ辻の喧騒を抜け、バスは金沢駅へ。 「店でもう一個買いたいんだよな」「何を?」「ふっふっふ」「その顔、気味悪いです」「お揃いのルームウェア欲しいなって」「お揃いの・・・・ルームウェア?」「うん」「近江さん、いつまでうちにいるつもりですか?」 「え、いつって?」「なんで疑問形!?」「ま、置いといて。降りるぞ」 プシュー。「金沢駅、終点です」 「はー、混んでんな」「土曜の昼ですから」「だよな。メシ食おうぜ」   金沢駅の鼓門をくぐり、もてなしドームへ。観光客向けの物産館「あんと」に立ち寄るが、どこも行列だ。 「8番ラーメンどうですか?」「混んでない?」「じゃ、ゴーゴーカレー。空いてますよ」「カレー、胃にもたれるんだよな」「年寄りですか」「年寄りだよ、敬え」「ゴーゴーカレー」「8番ラーメン」   譲らず、じゃんけんに。 「最初はグー、じゃんけんポン!」「ポン!」「あ、ずるっ!」「政治は駆け引きが必要なんです」   後出しで負けた小鳥は、仕方なく8番ラーメンを啜る。熱々のスープ、ちぢれ麺、キャベツともやし。 「はー、美味かった!」「・・・そうですね」  次は近江の希望で無印良品へ。フォーラスのエスカレーターに乗り、アロマの香りに包まれる。 「これ、よくね?」「パイル生地、秋まで着れますね」「手触り最高じゃん」「柔軟剤で洗うともっと
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初めての夜

 その夜はピザ。8種類のトッピングが賑やかなLサイズが、デリバリーで20分と予想より早く到着した。シャワーを交互に済ませ、お揃いのルームウェアに着替えた二人は、猫の額ほどのリビングのフローリングに腰を下ろした。 「やっぱ狭いな、ここ。エアコンつけてても、なんか暑苦しいよな」「酸素不足ですよ、絶対」 「いや、冬なら暖房費節約だろ」「いつまでいるつもりなんですか!」「まぁまぁ、ほら、乾杯しようぜ!」 「何に乾杯ですか?」「初めての夜に、カンパーイ!」   近江隆之介はさっさと缶ビールのプルタブを開け、音頭を取ると、マルゲリータピザをガツガツ口に放り込んだ。「初めての夜って、昨夜もここで寝たじゃないですか」「ンゴンゴ」「ゴックンしてから喋ってください」「ゴックン」「それ、言わなくていいですから!」 小鳥も缶ビールのプルタブに指をかけた。「セックスしてねーじゃん」 チリリーン。  時間が凍りついた。小鳥は気を取り直し、プルタブを開けてビールをグイグイ流し込むと、近江隆之介の真剣な顔を睨み返した。「初めての夜って、そういう意味ですか?」「それ以外に何があんだよ」「何って・・・・」「ピザ、食わねぇの?」「た、食べますよ!」  小鳥はホワイトソースが垂れるシーフードピザを手に取った。チーズがだらりと伸び、小指に絡まる。「ボーイスカウトの合宿じゃねぇだろ」「そ、それは・・・」「男女が一つ屋根の下、起こるに決まってんだろ」「そ、そう…ですけど」「だろ?」   二人は向かい合って頷き、缶ビールをグビグビ飲み干した。 洗面所で小鳥が歯を磨いていると、鏡に映る近江隆之介が背後に立つ。まるで抱擁妖怪の出現だ。「ンググ」「何だよ」  近江隆之介は小鳥の背後から手を回し、青い歯ブラシに歯磨き粉をニュルリと絞り出す。そして頭上でゴシゴシ歯を磨き始めた。鏡に映る二人は、まるでトーテムポール。小鳥が口をゆすいでうがいをすると、飛沫が近江隆之介の顔にペッペッと飛んだ。「お、顔にかかったじゃねぇか!」「近江さんが後ろに立つから悪いんです!」「きたねぇな!」「うるさい!」   小鳥は自分のベッドに腰掛け、近江隆之介は自分のベッドで胡座をかく。壁時計の短針がカチャリと音を立てた。「なぁ」「何ですか」「そっち、行って
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