雨が降っている。半円形のガラスの壁に水滴が付いては流れ、銀色に光る鏡のオブジェにどんよりとした鈍色の雲、市役所が幾つもの角度を見せて映っている。 小鳥は一列にずらりと並んだうさぎの耳の背もたれの椅子に座り、職員出入口をぼんやりと眺めていた。携帯電話を見る、約束の時間ちょうど。職員玄関のアルミスチールの扉が開き、地下駐車場からの横断歩道、次に21世紀美術館へ渡る横断歩道で左右を確認して近江隆之介が濡れたスーツの肩の雨を手で払いながら自動ドアを潜った。「よ、お待たせ」「ううん、さっき来たところ」「そうか」 小鳥から一つ離れたうさぎの耳に座る。なんとなく無言。思い付いたように同時に あ と言葉を発してしまい、どうぞどうぞと譲り合った。「にしても、驚いたな」「どれがですか?」「どれって、久我が田辺議員と繋がっていたって事だよ」「しっ、声が大きいですよ」「ヤベェ?」「やばいです」 小鳥の視線がじっとりと湿り気を帯びて目が座っている。「それよりも驚きました」「な?」「な、じゃないです」「は?」「久我議員が近江さんのお姉さんだとは、びっくりです」「声、でけえよ」「不倫じゃなかったんですね」「信じてたの」「信じますよ、そりゃ」 近江隆之介の顔がうんざりした面持ちから、晴れやかな表情にコロリと変化した。「驚いたのはこっちだよ」「何がですか?」「何がって」 ニヤニヤと緩んだ口元から、あの事だと察した小鳥は顔を真っ赤にしていきなり椅子から立ち上がった。「うお、いきなりなんだよ」「じゃ、じゃあ!時間なので戻ります!」「まだはえぇじゃん」「さよなら!」「え」「じゃ!」「おい、小鳥、お〜い小鳥ちゃ〜ん。」 小鳥は振り向きもせず、雨でぐちゃぐちゃになった芝生を横断し、道路で左右安全確認をして市役所の裏出入り口へと走った。「おお〜い」
Terakhir Diperbarui : 2025-07-04 Baca selengkapnya