All Chapters of 隣の彼 じれったい近距離両片思いは最愛になる、はず。: Chapter 81 - Chapter 90

92 Chapters

9月定例議会 爆弾投下

9月最終金曜日。金沢市議会9月定例議会が開会される。 犀川沿いのアパート、302号室。小鳥と近江隆之介の部屋には、涼しい川風が心地よく流れ込む。夜になると窓を少し開ければ、風鈴のチリンチリンという音が響き、小鳥モチーフのモビールがゆらゆら揺れる。部屋は二人だけの小さな世界だった。「・・・ん?」 朝、肌寒さに目が覚めると、近江隆之介の背中がない。小鳥はノーフレームの眼鏡をかけ、時計を確認。5:30。外は白々しい光に包まれている。タオルケットで素裸の胸を隠し、上半身を起こす。シャワールームから水音が聞こえ、キュッ、バタン、ギィとドアが開く。近江隆之介がタオルで頭を拭きながら現れた。「お、起こした? すまねぇ」「いいですけど、せめてパンツ履いてください」「もう見慣れたろ」「そういう問題じゃないです」 パイン材のベッドがギシッと軋み、近江隆之介がにじり寄る。「ちょ」「ちょも何もねぇって、黙ってろって」「また遅れますよ! 朝は・・・しないっ」 濡れた髪から水滴が小鳥の首筋を伝い、下へ落ちる。「あっ」小鳥の頬が赤らむ。近江隆之介の舌先は繊細な動きで彼女の肌を滑り、茂みに埋めた。「あっ、だめ」「ダメじゃねえだろ、もう濡れてるぜ」「やっやめてよ!もう!」 恥じらう小鳥は両手で顔を隠す。近江隆之介はニヤリと笑い、鼻先に軽くキス。「残念でした、続きは今度な」「え」「小鳥パワーチャージ完了ってな」「う、うん」 近江隆之介はボクサーパンツを履き、インナー、Yシャツのボタンを留める。靴下、濃紺のスラックス、ベルトをカチャカチャ。臙脂色のネクタイを締め、グリーンウッドの整髪料で髪を整える。姿見でチェックし、毛先をパラパラ。久我今日子の第一秘書の完成だ。ビジネスリュックを掴む。「じゃ、姉ちゃん迎えに行ってくるから」「うん」「行って来る。また後でな」「うん、行ってらっしゃい」 真剣な顔でネクタイを締めた近江隆之介は、投げキッスを二つ残して出勤して行った。「また今度って・・・」 小鳥はベッドに座り、頬を赤らめたまま呟いた。抱擁妖怪も気を引き締める、9月定例議会。キーンコーンカーンコーン。 始業のチャイム。市議会の建物では、エレベーターの黄色いランプが5、6、7階と上昇する。有権者や記者がふかふかのカーペットを踏み、傍聴席受付へと集まり始め
last updateLast Updated : 2025-07-05
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9月定例議会 爆弾投下②

 テレビには議長や市長に頭を下げる議員たち。田辺、藤野が着席、氏名標を立て、バインダーを開く。議場入口に菖蒲の花。豪奢な久我今日子が、臙脂色のバッジ、紺のタイトスーツ、白い開襟シャツ、黒のローヒール、黒縁眼鏡、巻き髪を紺のバレッタでまとめ、立っていた。「姉ちゃん、化けたな」「すごい。議員さんに見える」「そりゃ失礼だろ。あれでも議員なんだぜ」「ご、ごめんなさい」 久我今日子の目は議長席を鋭く睨む。「あ、あの人」「あぁ、キツネな。あいつお前に言い寄っただろ」「は、はい」 煙草臭い息、太ももに割り込むスラックスの感触が蘇る。「議会で一番偉いとか、信じられない」「まぁ見てなって」「はい?」 楠木大吾、通称キツネが久我今日子を一瞥。不快な目で身体をなぞる。「起立、礼!」9月定例議会が開会。静かな廊下、テレビの前で近江隆之介と小鳥が中継を見守る。パイプ椅子がギシッと鳴った。質疑応答は事前に準備済み。下水道施設の不備、産廃埋立地の賛否、子育て支援の課題が粛々と進む。「もう終わりそうですよ?」「これからだよ」「これから?」 久我今日子が手を挙げる。「久我くん、どうされました?」「議長、一つ伺いたい件があります」「事務局を通して」「通せば有耶無耶になります」 国主党8名、自主党の田辺、藤野が立ち、資料を配布。議場がざわめき、傍聴席が身を乗り出す。市長が事務局長に耳打ち。「久我さんの姿が見えない。どうします?」 テレビの中継画面に久我今日子の姿が映らない。「傍聴席に入れるか聞いてみるか」近江隆之介が廊下に出るが、お手上げで戻る。「途中入場はダメだって」「近江さんでも?」「決まりだからな。ここで見るしかねぇ」 ようやくテレビ画面に久我今日子が現れる。壇上には上がらず、楠木大吾を見上げる。紺のスーツが赤いカーペットに映える。「これは国主党一部議員の政務活動費の調査です」 重鎮議員たちが顔を見合わせ、耳打ちを始める。政務活動費は調査研究や住民相談の経費で、余剰は返却義務がある。田辺、藤野、久我らが集めた《爆弾》は、国主党の一部議員の架空請求の証拠。一般市民の告発から始まり、自主党の田辺と藤野が情報公開請求で領収書や報告書を洗い出し、国主党の8名と協力して不正を暴いた。「わぁ、久我さん、堂々としてる」「女議員だからって舐められ
last updateLast Updated : 2025-07-05
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その案、可決します!

波乱の9月定例議会は閉会した。 その夜小鳥は冷蔵庫を開け、青白いライトに浮かぶガラスの器を取り出す。底を確認。カラメルソースが二層に分かれ、上出来。ひんやり心地良い。ベージュのギンガムチェックのトレーに木製スプーンを添え、リビングへ。ふと見下ろすと、カーペットで胡座をかく近江の髪から水滴がポタポタ。「もう! 近江さん、髪ちゃんと拭いてください!」小鳥は焦茶色のフェイスタオルを近江の顔に叩くように投げる。「おい、最近雑だな!」「そうですか?」「初々しいお前はどこ行ったんだよ。ん、ここか?」小鳥のルームウェアの裾を摘み、突起をツツツツと円を描くように撫でる。「あ、ん! もう、やめてください!」 「へっへっへっ」 「その変な笑いやめてください!」 「へっへっへっ」 「近江さんこそ、シュッとした近江さんはどこ行ったんですか! 詐欺ですよ、詐欺!」 「シュッシュッ」 近江隆之介は両頬で手を握ったり開いたり。まるで頭にエラが伸びた両生類。 「変なポーズやめてください! もう!」 「シュッシュッ」 テーブルのプディングがプルプル揺れ、早く食べろと笑う。 「これ、作ったのか」 「はい、誰かさんに朝早く起こされて時間があったので」 「ふーん」 「時間があったので!」 「何、あの続き、する?」 「た・・・食べてからにしてください!」 「食べてからするんだ」 小鳥は膨れっ面で顔を赤らめた。 「しなくてもいいです!」 「ふーん」 近江隆之介はプディングを小鳥のぽってりした唇に運ぶ。冷たく甘いバニラビーンズの香り。柔らかな眼差しに頬が赤らむ。 「美味い?」 「美味しいです、って、私が近江さんのために作ったんですよ!」 「俺のため」 「はい」 「シュッシュッ」 近江隆之介はまたウーパールーパーの真似をした。いつも以上におかしい。(熱でもあるのかな、このハイテンション)小鳥は無言でプディングを食べながら首を傾げる。近江はその姿を頬を緩めて眺める。空気感に耐えかね、上目遣いで睨むも効果なし。 「近江さん、温くなりますよ!」 「おう」 「早く食べてください!」 「小鳥が食べたい」 「もう、何言ってるんですか!」 「へいへい、ありがたくいただきます」 「そうしてください!」 近江隆之介がなかなか食べないので苦手かと肩
last updateLast Updated : 2025-07-05
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その案、可決します!②

「どうしたんですか。真剣な顔、変ですよ」 「俺、変?」 「はい」 近江がスーッと大きく息を吸い、吐く。「一つ議案があるんだけどな」 「議会ごっこでもするんですか?」 「ウルセェな」 「うるさいって」 「議会中は私語慎めよ、基本だろ」 小鳥は面倒なことだとゲンナリ。 「資料配布します。目、閉じて」 「その丁寧な言葉、気持ち悪いですよ」 ゴソゴソと動く気配。温かな手が小鳥の左手を持ち上げ、硬く冷たい感触が薬指に伝わった。(え、もしかして) 「目、開けていいぞ」 「は、はい」 薬指に輝石が散りばめられたプラチナの指輪。 「これって・・・、あの」 「石はダイヤモンド、本体はプラチナ」 「素材じゃないです!」 「サイズ、ぴったりだろ」 「いつの間に」 小鳥は指輪を光にかざして見る。 「お前がグースカ寝てる間に測ったからな」 「グースカって」 「喜べよ」 「それで近江さん、議題は何ですか?」 近江のニヤニヤした顔がキュッと引き締まる。 「議題は『俺と小鳥が結婚する案』、賛成の議員は挙手で」 小鳥は目を見開き、息を吸い、右手をそっと上げる。「遅ぇな!」 「さ、賛成、です」 「全員一致で可決します」 「い、いいんですか」 「いいも何も、お前しかいらねぇって言ったろ」 小鳥の目が潤み、ポロポロと涙。 「ちょ、泣くなよ、そういうの苦手なんだよ!」 「へ、ヘタレですね」 「泣くなって!」 「あ、ありがとうございます」 「お、おう」 「う、嬉しい・・・」 「マジでやめてくれ、そーゆーの!」 小鳥の嬉し泣きに耐えかね、近江はタオルケットをかぶって顔を隠す。小鳥は涙を堪え、タオルケット越しに唇に軽くキス。ふふっと笑う。302号室の9月定例議会は無事可決した。プロポーズの余波リビングの空気が柔らかくなる。風鈴の音が響き、小鳥は指輪を眺めながら頬を赤らめる。近江はタオルケットをはぐり、照れ隠しにビールをゴクリ。「ったく、お前、泣くの早すぎだろ」「だって、こんな大事なこと急に言うんだもん」「急じゃねぇよ。だいぶ前から考えてた」「え、いつから?」「お前がキツネに絡まれて、めっちゃ怖がってた顔してたじゃん。あの瞬間、なんか…守りてぇって思った」 小鳥は目を丸くする。あの日の記憶は、恥ずかしさと恐怖で曖昧だ
last updateLast Updated : 2025-07-05
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お嬢さんをください

高梨家は、津幡町の老舗和菓子店。木造の、時代を感じさせる一軒家だった。「いらっしゃいませ!」と書かれた手作りプレート。だが、隆之介の背中はすでに汗でびっしょりだ。「よ、よし、気合入れていくぞ・・・!」「頑張って!」と、小鳥に励まされた近江隆之介は、自分を鼓舞し、インターフォンを押す。「はーい、いらっしゃいませ」と、小柄な女性が暖簾をあげて顔を出した。笑顔が小鳥によく似た母親・百合香だった。「あら! 近江さんね! いらっしゃい、ささ、上がって上がって!」と、まるで息子のように迎え入れる。隆之介、ほっと一息。だが、次の瞬間。「誰だ、その男は!」と、リビングからドスの効いた声。現れたのは小鳥の父親・賢一郎、細身で身長はさほど高くはないが眼光鋭く、隆之介を上から下まで値踏みする。「ふん、こいつが小鳥の・・・婚約相手だと?」 近江隆之介、早速ピンチ! 「お、お父様! 初めまして、近江隆之介と申します! 小鳥さんと・・その・・結婚を前提に・・・!」と、緊張で言葉がカミカミ。賢一郎は腕を組んで「ふん!」と一喝。「小鳥はまだ25だ! 結婚なんて早すぎる!」 一方、母親はキッチンからクッキーを運びながら「まあまあ、賢一郎さん、若い二人の愛を応援してあげましょ!」とニコニコ。早くも両親の意見は真っ二つだ。 リビングに通された隆之介、ソファーに座るも背筋はピンと伸びたまま。父親の「質問タイム」が始まった。「隆之介、年収はいくらだ?」「え、そ、その、450万・・・くらい・・・です」「ふん、450万で我が家の小鳥を養えると思うなよ!」 父親の圧がすごい。隆之介、汗だくで「努力します!」と叫ぶも、「努力? そんな曖昧な言葉で小鳥の未来が保証できるか!」と一蹴。 そこへ母親が救いの手を。「賢一郎さん、昔のあなたは年収300万で私を幸せにするって豪語してたじゃない!」 父親は、むっと黙る。近江隆之介、心の中でガッツポーズ。 次に父親は、「趣味はなんだ? 小鳥は絵本が好きだぞ。お前も絵本読むのか?」と畳み掛ける。近江隆之介、実は絵本なんて読んだことない。焦った彼は、咄嗟に「は、はい! 『ぐりとぐら』が大好きです!」と答える。父親は、「ほほう、じゃあ『ぐりとぐら』のテーマはなんだ?」とニヤリ。「え・・・テーマ? えっと・・・パンケーキの・・友情?」とテキトー
last updateLast Updated : 2025-07-05
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披露宴会場の乱

 金沢の春、桜の花びらが兼六園の松をくぐり抜け、卯辰山をピンクの絨毯に変える。4月のこの日、近江隆之介と高梨小鳥の結婚式が、金沢の老舗料亭「桜花亭」でドタバタと進行中だった。 桜花亭の式場は、和のしつらえがバッチリ決まってるが、どこか緊張感が漂い・・・・いや、むしろカオス感が漂っていた。 母親と父親が心配する中、白無垢姿の小鳥は、綿帽子に隠された黒髪がまるで「助けて!緊張で固まってる!」と叫んでいるようだった。彼女の背中は、まるで小さな子犬がブルブル震えるようにプルプルしていた。 隣に立つ近江隆之介は、黒紋付袴でキリッと決めているが、普段は金沢市議会議員の秘書として冷静な彼も、今日は目がキラキラしすぎて「これ、恋の輝き?それとも緊張の汗?」といった状態。両親は不安げにその顔を見た。 式場の一角には、近江隆之介の姉で金沢市議会議員の久我今日子が、スーツ姿でドーンと座っている。彼女の鋭い目つきは、議会で「予算案却下!」と叫ぶそのままで近寄りがたかった。でも、弟の晴れ舞台には姉貴の優しさ全開!・・・と思いきや、彼女の脳内では「隆之介、袴の裾踏むなよ、転ぶぞ」と心配モード発動中。 後方には、藤野健がこっそりと立ってる。同じく金沢市議会議員で、久我今日子の同僚。なぜか彼の視線は小鳥にロックオン!その目は(小鳥ちゃん、僕のハートはまだ君のファンクラブ会員No.1だよ・・・)と切なげに語っているが、内心は「今日で引退かな、はぁ」と諦めムード。 神前式が始まり、祝詞が響く中、小鳥が近江隆之介の手をギュッと握ると、彼は「よし、俺の手、滑り止めバッチリ!」とばかりにニヤリ。式は厳かに・・・いや、なんとか始まった! 披露宴会場は、九谷焼の器や加賀友禅といった豪華な設だ。窓の外の桜は「いやいや、ここの主役は俺たち桜だろ!」と自己主張。司会の久我今日子がマイクを握った。「皆さん、弟の隆之介と小鳥さんのハチャメチャな門出を祝いに来てくれてありがとー!」 と叫ぶと、会場は「え、なにがハチャメチャ?」と来賓客がざわついた。新郎新婦入場!小鳥は色打掛で登場。色打掛は水面に映る御所車と桜吹雪で、溜め息が出るほどに鮮やかだった。隆之介は彼女の手を握りながら、「よし、転ばないように歩幅3cmで進むぞ!」と真剣な表情で唇をギュッと結んだ。参列者は拍手喝采で迎えたが、誰かが「新郎、袴の
last updateLast Updated : 2025-07-05
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新居探しでまさかの喧嘩

 近江隆之介と小鳥は、結婚してまだ3ヶ月だが、金沢の街で夢の一戸建て住宅を探していた。近江隆之介が来春の金沢市議会選挙に立候補する前に、地盤を固めておこうと考えた。 けれど、意見の食い違いから毎回ドタバタの展開に。さて、今日もまた、近江夫婦の家探しは波乱の予感。「隆之介さん、絶対に和風の家がいいよ!金沢っぽい雰囲気の、瓦屋根で庭に石灯籠があるようなやつ!」 小鳥が不動産屋の待合室で、目をキラキラさせながら言う。彼女は地元の老舗和菓子店の娘で、伝統的な美意識にこだわりがある。対する近江隆之介は、現代的で機能的な家を希望していた。「小鳥、和風もいいけどさ、モダンな家の方がメンテナンス楽だし、エコ仕様の最新設備も魅力的だよ。議員として環境問題にも取り組んでるんだから、そういう家の方がイメージいいし」「イメージって何!? 家は住むためのものよ! 心が安らぐ和の空間がいいの!」 不動産屋の担当者、山田さんが苦笑いしながら間に入る。「おふたりとも、まずは今日の物件を見ていただければ。金沢らしい素敵な一戸建てを3軒、厳選しましたよ!」1軒目:伝統の極み!金沢の古民家最初の物件は、金沢の奥まった住宅街にある築80年の古民家。黒瓦の屋根に白壁、庭には立派な松の木と石灯籠が佇む。小鳥は一目で目を輝かせた。「これ! これよ! 隆之介さん、ほら、縁側! 」 「ここでお茶飲んだら最高じゃない?」小鳥はさっそく縁側に腰掛け、庭を眺めてうっとり。だが、近江隆之介は眉をひそめる。「いや、待てよ。確かに雰囲気はいいけど、床がギシギシ言うし、断熱材入ってなさそう。冬、めっちゃ寒そうじゃない?」「寒さは気合で乗り切るの! 金沢の冬は厳しいけど、それが風情ってもんでしょ!」「風情で凍死したらどうするんだよ!それに市役所から遠いし!」 山田さんが慌ててフォロー。「こちら、改装すれば断熱性もアップできますよ! 補助金も出ますし!」 しかし、近江隆之介は「改装費用がバカにならない」とつぶやき、小鳥は「風情を金で買えない」と譲らず、早くもバトル勃発。結局、1軒目は保留に。2軒目:近未来のスマートハウス 次に訪れたのは、金沢郊外の新興住宅地にある最新式のスマートハウス。太陽光パネル、AI搭載の家電、音声で全てをコントロールできるハイテク住宅だ。隆之介の目が輝く。「小鳥、これ
last updateLast Updated : 2025-07-05
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隆之介選挙に出る

 桜咲く金沢の街に、街頭演説の声が響く。金沢市議会議員、久我今日子の第一秘書を務めた近江隆之介は、遂に、金沢市議会議員選挙に立候補した。 近江隆之介の妻・小鳥は、穏やかでほんわかした性格。地元の老舗和菓子店「加賀の月」の看板娘だ。小鳥の笑顔は、どんな頑固親父の心も溶かすと評判だった。「隆之介さん、選挙なんて大変なこと、ホントにやるの?」 小鳥は朝食の味噌汁をすすりながら、心配そうに夫を見た。食卓には小鳥お手製の加賀野菜の煮物が並び、金沢の伝統が漂う。近江隆之介は箸を2本頭に立てると、「ガシャーン、ガキーン」と言い出した。小鳥は、またかという顔でご飯を茶碗によそった。「ハッ! 俺がやらなきゃ誰がやる? この金沢を、俺の手でガラッと変えてやるぜ!」 近江隆之介は、箸を振り上げて宣言。味噌汁がちゃぽんと跳ね、テーブルクロスに小さなシミを作った。「でも、対抗馬の楠木大吾って、あのキツネの楠木さんでしょ? 議会の議長だし、支持者も多いし・・・SNSもバッチリ使ってるみたい・・・」小鳥はスマホを手に、楠木の公式アカウントをスクロールしながらつぶやく。そこには、楠木大吾が地元の子供たちと笑顔で写る写真や、「金沢の未来を一緒に!」というキャッチーな投稿が並んでいた。「ふん!あんな化石みたいなジジイ俺が捻り潰す!」 近江隆之介は胸を張り、彼の目はすでに勝利のビジョンでキラキラしていた。 楠木大吾のスマート戦術は選挙要員の若手支持者が担っていた。SNSでのフォロワー数はすでに1万人を超え、熟年層を中心に「豊な老後、金沢の希望の星」と呼ばれていた。彼の選挙事務所は、まるでカフェのようなおしゃれな空間で、ボランティアの大学生たちがパソコンをカタカタ叩きながら、最新の選挙戦略を練っていた。「近江さん、ちょっと・・・独特ですよね」 楠木大吾の秘書が、隆之介の演説動画を見ながら苦笑いした。動画では、隆之介が街頭で「金沢を日本一の城下町にするぜ!」と叫びながら、なぜか腕まくりをして筋肉をアピールしていた。「確かに派手だな。でも、侮れん。あいつの若さと熱量は本物だ」 楠木大吾はコーヒーを飲みながら冷静に分析した。
last updateLast Updated : 2025-07-05
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隆之介選挙に出る②

 楠木大吾のキャンペーンは、まるでスタートアップ企業のプレゼンのようだった。「私たちはスマートに、データ駆動型でいく。金沢の課題は子育て環境と安定した老後。そこを押さえて、若者と高齢者、両方の心をつかむんだ」 インフォグラフィックを使った政策説明、インスタライブでのQ&A、そして地元YouTuberとのコラボ動画。対する隆之介は、昔ながらの街頭演説とビラ配りに全力を注いでいた。そこには新妻の小鳥の姿もある。選挙カーのマイクを握り、「金沢の魂を俺に預けろ!」と叫ぶ姿は、まるでプロレスラーの入場シーンだ。 近江隆之介のキャンペーンは予想外の苦戦を強いられていた。演説は熱いものの、政策の具体性が乏しく、若者からの支持が伸び悩んでいた。「金沢をデカくする!」というスッキリしすぎるスローガンも、市民には「具体的には?」と突っ込まれがちだった。 ある日、小鳥が事務所にやってきた。手に持っていたのは、和菓子屋「加賀の月」の新作スイーツ「五色だんご」。金沢の伝統的な五色生菓子をモチーフに、赤・白・緑・黄・紫の小さな団子が串に刺さっている。パッケージには「みんなで笑顔!」と書かれた可愛いシールが貼られていた。「隆之介さん、これをみんなで食べたらどうかな? 甘いもの食べて、元気が出るよ!」小鳥はニコニコしながら提案。隆之介は最初、「そんな子供だましで人が喜ぶかよ!」と鼻で笑ったが、試しに駅前で仲間と一緒に食べてみると・・・みんなの笑顔が広がり、効果は絶大だった。「これ、めっちゃ美味しい!」 市民たちが団子を頬張りながら、小鳥と隆之介の楽しい会話に耳を傾けるようになったのだ。しかも、小鳥の明るい笑顔と丁寧な接客が、年配の方々の心をガッチリ掴んだ。「小鳥、お前・・すげえな・・・」 近江隆之介は妻の活躍に目を丸くした。「えへへ、ただお団子焼いてただけだよ」 小鳥は照れ笑いしたが、彼女のアイデアは確実に票を動かし始めていた。 テレビ討論の大波乱選挙戦の中盤、候補者たちによる公開討論会が金沢市内のホールで開催された。楠木大吾はスーツ姿でクールに政策を語り、子育て支援やデジタル化のビジョンを分かりやすく説明。会場は拍手喝采だ。一方、近江隆之介は・・・。「金沢はもっと熱く、もっとデカくなきゃダメだ! 俺は金沢城を世界遺産に登録させ、観光客を倍増させる!」 隆之介はマイクを
last updateLast Updated : 2025-07-05
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ウエルカムベイビー

 金沢市議会議員、近江隆之介は、今日も市役所の会議室で熱弁を振るっていた。テーマは「金沢の伝統工芸を若者にどう伝えるか」彼の人懐こさは市民からの人気も上々で、支持者も増えている。 しかし、彼の人生が一変する出来事が、この日の夕方に待ち受けていた。近江家は、金沢市内の閑静な住宅街にある一軒家に住んでいる。妻の小鳥は、元気で少し天然な性格の持ち主。彼女は地元の小さなカフェでパティシエとして働いており、彼女の作る加賀棒茶のシフォンケーキは地元でちょっとした名物だ。その日、近江隆之介が議会から疲れて帰宅すると、リビングで小鳥がソファに座り、なぜか神妙な顔で小さなプラスチックの棒を持っていた。「隆之介さん、ちょっと座って。重大な話があるの!」 小鳥の声はいつもより1オクターブ高く、近江隆之介は一瞬「また何かやらかしたか?」と身構えた。小鳥は過去に、洗濯機に赤い靴下を混ぜて隆之介の白いシャツをピンクに染めたり、議会用の資料を間違えてシュレッダーにかけたりした前科がある。「なんだよ、小鳥。まさかまた俺のスーツを縮めたとか言うんじゃないだろうな?」 近江隆之介が半笑いで言うと、小鳥はムッとした顔で棒を突き出した。「これ見て!プラスよ!プラス!」 近江隆之介、棒をじっと見つめる。棒には小さなディスプレイがあり、確かに「+」のマークが。「・・・プラス? 電卓でもないのにプラスって何? まさか」 近江隆之介の顔がみるみる青ざめていく。「小鳥、これ・・・妊娠検査薬!?」「そうよ!隆之介さん、私、妊娠したみたい!」 その瞬間、近江隆之介の頭の中で金沢城の石垣が崩れ落ちる音がした(比喩)。彼は議会でどんな難題にも冷静に対応してきた男だが、この「妊娠」という二文字には完全にノックアウトされた。「やった!やったぞ!俺、父親になるのか!」 喜びの雄叫びを上げた直後、彼は勢い余ってソファから転げ落ち、テーブルに置いてあった小鳥の手作りクッキーを床にぶちまけた。「隆之介さん、クッキー!私の新作の加賀棒茶スペシャルが!」「ごめん、ごめん!でもクッキーより赤ちゃん!赤ちゃんだよ、小鳥!」 こうして、近江家の新しい物語が始まった。金沢の街を背景に、近江隆之介と小鳥のドタバタな妊娠・出産劇が幕を開けたのだ。 妊婦生活は想定外の連続妊娠が分かった翌日から、小鳥の生活は一変し
last updateLast Updated : 2025-07-05
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