9月最終金曜日。金沢市議会9月定例議会が開会される。 犀川沿いのアパート、302号室。小鳥と近江隆之介の部屋には、涼しい川風が心地よく流れ込む。夜になると窓を少し開ければ、風鈴のチリンチリンという音が響き、小鳥モチーフのモビールがゆらゆら揺れる。部屋は二人だけの小さな世界だった。「・・・ん?」 朝、肌寒さに目が覚めると、近江隆之介の背中がない。小鳥はノーフレームの眼鏡をかけ、時計を確認。5:30。外は白々しい光に包まれている。タオルケットで素裸の胸を隠し、上半身を起こす。シャワールームから水音が聞こえ、キュッ、バタン、ギィとドアが開く。近江隆之介がタオルで頭を拭きながら現れた。「お、起こした? すまねぇ」「いいですけど、せめてパンツ履いてください」「もう見慣れたろ」「そういう問題じゃないです」 パイン材のベッドがギシッと軋み、近江隆之介がにじり寄る。「ちょ」「ちょも何もねぇって、黙ってろって」「また遅れますよ! 朝は・・・しないっ」 濡れた髪から水滴が小鳥の首筋を伝い、下へ落ちる。「あっ」小鳥の頬が赤らむ。近江隆之介の舌先は繊細な動きで彼女の肌を滑り、茂みに埋めた。「あっ、だめ」「ダメじゃねえだろ、もう濡れてるぜ」「やっやめてよ!もう!」 恥じらう小鳥は両手で顔を隠す。近江隆之介はニヤリと笑い、鼻先に軽くキス。「残念でした、続きは今度な」「え」「小鳥パワーチャージ完了ってな」「う、うん」 近江隆之介はボクサーパンツを履き、インナー、Yシャツのボタンを留める。靴下、濃紺のスラックス、ベルトをカチャカチャ。臙脂色のネクタイを締め、グリーンウッドの整髪料で髪を整える。姿見でチェックし、毛先をパラパラ。久我今日子の第一秘書の完成だ。ビジネスリュックを掴む。「じゃ、姉ちゃん迎えに行ってくるから」「うん」「行って来る。また後でな」「うん、行ってらっしゃい」 真剣な顔でネクタイを締めた近江隆之介は、投げキッスを二つ残して出勤して行った。「また今度って・・・」 小鳥はベッドに座り、頬を赤らめたまま呟いた。抱擁妖怪も気を引き締める、9月定例議会。キーンコーンカーンコーン。 始業のチャイム。市議会の建物では、エレベーターの黄色いランプが5、6、7階と上昇する。有権者や記者がふかふかのカーペットを踏み、傍聴席受付へと集まり始め
Last Updated : 2025-07-05 Read more