なるほど、近江隆之介が言ったように、議員控室のホワイトボードには自主党議員二人のスケジュールが書き込まれていた。田辺五郎 市議団 長野視察 二泊三日藤野建 外回り 小鳥は急な来客に備えてポットの湯だけは準備したが、今日一日は気楽に業務に励む事が出来る。取り敢えず、facebookの更新と郵便物の仕分け。そして分厚いバインダーに挟まれた重要書類のコピー。(でも、なんで三部なんだろう?) 藤野議員に依頼された業務は資料一枚につき、三部コピーして毎日14:00にクリアファイルに挟んで手渡し。議員不在の時はスチール棚に施錠して管理。他言無用、口外すれば解雇だと釘を刺された。『田辺さんには一部、僕には二部、クリアファイルに入れて渡して』 保存用なのかなぁ、と思いつつ今日も小鳥は延々とコピー作業に励んだ。そして議員不在の折、あの件に関して考える余裕に恵まれた。「近江さん、何だかこれまでと違う、ような気がする」 さて、どうしたものか。301号室の彼が近江隆之介だと判明し、裸体を晒した相手を探す必要も無くなった。酔いに任せてセックスに至った事も、その行為は他言無用だと互いに約束を交わした。醜態が職場に広まる事は無い、その点は安全が確保された。そして良好な隣人として接する事も確約された。その点は何ら問題は無い。(で、でもこの感情はどうしたら良いの!?) 初出社日、小鳥はエレベーターホールで振り返った近江隆之介に一目惚れをした。以来、四ヶ月間、恋焦がれてその背中を追い、近江隆之介に女性として認識して貰いたいが為に眼鏡からコンタクトレンズに変えた。それが既に、セックスしていたなんて。しかもこれまで色々と接点があったにも関わらず、近江隆之介は301号室での夜の出来事はひた隠しに小鳥から逃げ回っていた。(やり逃げとまでは言わないけれど、一夜の過ち的な?) それに近江隆之介には久我今日子議員という不倫関係の恋人が居る。なのに、私に付き合おうとか、親睦を深めようとか意味が分からない。あまり会えない久我議員の代わりに、隣室の女とバンバンやりたい放題の二股関係だとしたら余りにも虚しすぎる。「どうしたら良いの〜」 そんな酷い男であっても、あの瞬間に芽生えた恋心は枯れる事がない。好きで好きで忘れる事など出来ないのだ。もういっその事、二番目の女でも良いか
Last Updated : 2025-07-03 Read more