エレベーター左上の電光掲示板。 久我今日子、田辺五郎、藤野建のランプはグレーで消えている。彼らはこの議員控室には《いない》。7階一番奥、自主党の議員控室は鍵がかかり、蛍光灯も消されたまま。小鳥は物音を立てないよう、Facebookの更新と自主党金沢市議団のインスタグラム用の画像を選んでいた。(この写真もいいけど、ポスターが写り込んでるからダメ) 最近、田辺議員と藤野議員の政治活動が目に見えて増えた。毎朝の街頭演説、公民館での市政報告会を精力的にこなし、午後3時には議員控室にこもる。久我今日子が「9月定例議会の爆弾になる」と言い切る資料を、三議員で派閥を超えてまとめている。当然、近江隆之介も久我の第一秘書としてその作業に没頭している。(こうしてる時の近江さん、冷酷って言われるだけある。別人だ) トランクスを頭にかぶってふざけていた男や、同じ部屋に住むあの男と同一人物とは思えない。土曜の夜の激しいキスを思い出し、小鳥の手元が狂い、マウスを机の下に落とした。「うわ、わわわ!」「小鳥ちゃん、大丈夫?」「は、はい!」 昨夜は《何もなかった》。小鳥のセミダブルベッドで一緒に寝たが、近江隆之介のいびきと互いの体温に耐えきれず、小鳥は隣の無骨なベッドに移った。(この匂い)近江隆之介の匂いをタオルケット越しに感じながら、小鳥は頭からかぶって寝た。 そんな熱い夜を思い出し、慌てる小鳥をよそに、近江隆之介は淡々と仕事を進める。藤野議員が電卓を叩くと、近江隆之介はピンクの付箋を貼り替え、シャープペンシルで数字を書き込む。(やっぱり別人) 小鳥の様子をチラチラ見ていた久我今日子が、腕を組んだ。キーンコーンカーンコーン。 終業のチャイムが響く。近江隆之介は書類を茶封筒にまとめ、軽く封をした。「高梨さん、これ預かって下さい」「は、はい」 スチールラックに片付け、施錠してほしいと手渡された。聞き慣れない敬語と真顔の近江隆之介に戸惑い、小鳥は茶封筒を落とし、書類をフローリングにバラまいた。「あ、すみません!」 幸い、書類はクリップで留めてあり、散乱は最小限。小鳥は慌ててしゃがみ、必死に拾った。すると、近江隆之介も自然にしゃがみ、書類を集めるふりで小鳥の指先をキュッと握った。「・・・・・!」「どうしたの?」「え、何でもないです!」 あ 驚い
Terakhir Diperbarui : 2025-07-04 Baca selengkapnya