また天宮美結(あまみや みゆ)から「遺書みたいな電話」がかかってきた。一条悠真(いちじょう ゆうま)は一切迷わず、私たちの結婚式をまたストップさせた。純白で高価なウェディングドレスの裾を握りしめて、私は顔色も悪いまま彼の前に立ちふさがる。「せめて、式が終わるまで待てないの?これ、八十八回目なんだよ」目頭がじんじん熱くなる。悠真は深くため息をついて、申し訳なさそうに私を抱きしめた。「もうちょっとだけ、待っててくれないか。紬、お前も知ってるだろ、あの事故以来、美結の心がずっと不安定で……俺、本当に彼女が何かしでかさないか怖いんだ。大丈夫。今回はちゃんと話すから。それが終わったらすぐ、式をやろう」――この言葉、八十八回も聞いた。最初の八十七回は、私もバカみたいに信じて、何度も自分に言い聞かせてきた。「悠真が好きでいてくれるなら、式が延びたっていい」って。だけど毎回、式はキャンセルされるし、先延ばしになるばかり。実際、八十回も式をやったのに、神父の前に立てたことは一度もなかった。美結は、いつだって完璧なタイミングで何かしら起こしてくる。事故を起こしたり、突然「鬱だ」って騒いだり、自殺未遂したり。そのたびに悠真は、必ず一番に彼女のもとへ駆けつけて、なぜか毎回彼女の「死にたい」気持ちを落ち着かせて帰ってくる。……おかしいよね?リストカットして、睡眠薬を飲んで、叫びながら死のうとする女の子が、私の未婚夫が来た途端に正気に戻るんだよ。生きる気力が一気に戻るんだ。私はもう何も言えなくなって、せめてもの願いを込めて、必死で彼を抱きしめた。せめて、今だけでも傍にいてほしかった。悠真はまだ私をなだめていたけど、母が我慢できずに急かし始める。「紬、もうやめろ。悠真を早く行かせて。美結、もうベランダに登ってるのよ!」父は険しい顔で私を睨んだ。「何をまたごねてるんだ。あの時、お前を助けるために美結はあんな目に遭ったんだぞ。普段お前が自分勝手なのはまだしも、今は妹が命の危機だ、少しは空気を読め」スマホがまた鳴った。悠真は私の手を離すのが名残惜しそうだった。「紬、俺は行かなきゃ。お前も許してくれるよな?」私は返事をする間もなく、ヒールがぐらついて転んだ。腕が花台の金属装飾にぶつかり、思いきり切れてしまった
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