「小林さん、本当に来月の尊厳死プログラムを予約して、献体同意書に署名なさるんですか?」「はい、そうです」小林純歌(こばやし すみか)は、数値がめちゃくちゃな検査結果を見下ろしながら、苦々しい口調で言った。「このまま生きていても、資源を浪費するだけです」全身の臓器が不可逆的に機能不全を起こしており、彼女の命はあと一年も持たない。ただベッドの上で、残された日々をかろうじて延命するだけなら、いっそ潔くこの世を去って、社会の役に立ったほうがいい。医師が名残惜しげに見送る中、純歌は病院を後にした。彼女が家に戻り、玄関のドアを開けた瞬間、寝室から甘く乱れた吐息が聞こえてきた。元から青ざめていた純歌の顔は、さらに血の気を失った。彼女は検査結果の紙を隠した後、寝室のドアに寄りかかって、中から漏れる喘ぎ声を聞いていた。気づけば、彼女の爪は掌の肉に食い込んでいた。陸村志之(りくむら しの)がこれまでに連れ帰った女は、これで何人目になるのか。もはや彼女には分からなかった。結婚して二年、志之は毎日のように別の女を家に連れ込み、彼女の目の前で情事にふけった。純歌はそれを避けることすら許されなかった。ようやく一時間が過ぎ、室内の声も静まり返った頃、志之が上半身裸のまま、寝室から出てきた。そして、ドアのそばに立ち尽くす純歌を見下ろし、冷たく言い放った。「何をボーッとしてんだ?雫が喉乾いたってさ、水でも持ってってやれ」純歌は胸が高鳴り、一瞬、自分の耳を疑った。「……雫?」彼女は急いで寝室のだドアに駆け寄り、ベッドの上を見やった。そこには、純歌とよく似た顔立ちの小林雫(こばやし しずく)が、力なく横たわっていた。彼女は純歌のシルクのスリップを身にまとっていたが、今はすでにボロボロに裂けていた。純歌の手が小さく震えた。彼女はゆっくりと顔を上げ、赤くなった目で志之を見据えた。「あなた、頭おかしいの?雫は、私の実の妹よ!どうして、こんなことができるの!」志之は彼女の手首をつかみ、乱暴に壁に押し付けた。その深邃の瞳には、嘲笑の色を浮かべた。「だから何だ?ああ、そうだな。唯一の家族に裏切られるのは、さぞキツいだろうな?」彼の声は冷たく、瞳の奥に暗い怒りが滲んでいた。「純歌。これは全部、お前への報いだ」
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