知世は、鏡の前に立ってふんわりとした真っ白なウェディングドレスをまとう自分を見つめ、ふと胸の奥に苦いものが込み上げてきた。ウェディングドレス姿の自分を、そして結婚式の光景を、彼女は何度も夢見てきた。数えきれないほどの空想を巡らせてきた。けれど、今、いざその姿を目の当たりにすると、隣に立つべきだったのは、かつて思い描いたあの人ではなかった。過ぎ去った日々を思い返すと、知世にはまるで他人事のような、それでいて深く共感してしまった一本の映画を見終わった後のような、現実味のない感覚がただよった。今、彼女は新しい人生を選んだ。空想の世界から抜け出し、新たな一歩を踏み出そうとしている。そしてこれからずっと、彼女のそばにいてくれるのは、界人だけになるのだ。かつて優太に心をズタズタにされ、これ以上の絶望はないと思った。しかし、いざ本当の結婚を目の前にして、これからのことが少し見えなくなっていた。界人との結婚を後悔するだろうか?この政略結婚、いわば契約とも言える結婚生活は、いったいどれほど続くのだろうか。だが、この短い一ヶ月間、界人と過ごしてきて、彼にはこれといった欠点が見当たらなかった。「二宮様、ご不満な点はございますか?もしお気に召さなければ、他にもご用意がございますので……」試着室のドアをノックする音と、スタッフの呼びかけで知世は我に返った。「ありません」そう答えると、知世はドレスの裾を軽く持ち上げて外へ出た。その物音に界人が振り返り、一瞬、目を見開いた。その瞳にかすかな驚嘆の色が走ったのを、知世は見逃さなかった。界人は近づくと、温もりのあるストールを彼女の肩に優しくかけた。それから、ベールを整える。「暖かくして。特にあなたの腕、気をつけたほうがいい。式場の冷房が効きすぎて、案外寒いかもしれないから」知世は少し驚いた。自分が腕のことを話した覚えはなかった。どうして知っているのだろう?彼女の目に浮かんだ疑問を見て取った界人が説明を加えた。「少し涼しくなったり、曇ったりすると、あなた、無意識に腕をさするんだ。気になってね……さて、時間だ。俺、先に向かうから、ゆっくり来てくれていいよ」「うん、わかった」……優太が屋敷を訪れた時、中にはごくわずかな人しかいなかった。応対に出た執事は、優太が名乗るとその身元を
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