All Chapters of Will you marry me ?エリート建築士は策士な旦那様でした: Chapter 21 - Chapter 23

23 Chapters

Story21

それから、私は元気な男の子を出産した。名前は、よく晴れた日に生まれたことから「晴翔(はると)」と名づけた。「本当にかわいいな」「またそれ?」壊れそうなものに触れるような手つきで晴翔を抱く彼に、私はクスクスと笑い声をあげた。「もっと力入れても大丈夫だよ」そう言いながら、晴翔の手をキュッと握ると、少し表情をゆがめた。「いや、ほら、もっと優しいほうがいいって顔してる」そんなわけはない……そう思うけれど、仕事をこなしながら、こうして育児にも協力してくれる。健太郎さんは、まさによきパパだ。「違うよ、パパ。おむつ」「え?」「マジか」晴翔をそっとベビーベッドにおろすと、おむつを確認して健太郎さんは顔をしかめた。「やっぱりママにはかなわないな、晴翔」そう言いながら、手早くおむつを替えてくれる彼を、私はじっと見つめていた。「なに?」何か不手際があったと思ったのか、健太郎さんはもう一度おしり拭きに手を伸ばそうとする。「大好きだなって思っただけ」「え?」完全に油断していたのか、自分が私を甘やかすことは全然平気なのに、私からの言葉にはいちいち反応してくれる。今も、耳が赤くなっているのがわかった。今晩、覚悟してろよ」いきなり低くなった声に、私は「え?!」っと声を上げる。「もう、ドクターからも“いい”って言われたの、知ってるんだからな」そう、出産後、私たちはまだ体を重ねていない。育児に専念してきて、ようやく最近、少し余裕ができてきたところだ。私としても、ほんの少しだけ寂しさを感じていた。だから、彼の言葉がうれしくないわけじゃない。嘘ではないし、支障もないのだけれど……一気に形勢逆転した立場に、今度は私の顔が赤くなっていると思う。「あの、でも……久しぶりだしね」健太郎さんが「覚悟しろ」と言うときは、本当に手加減してくれないのだ。「晴翔、今日の夜はぐっすり眠ってくれていいからな」おむつを替え終え、晴翔を抱き上げると、健太郎さんが私のほうへと歩いてくる。「これは先払い」そう言って、私にリップ音を立ててキスをする。「もう、子どもの前だから!」少し怒ったように言った私だったが──もう一度、今度は私からキスをした。「さあ、今日はどこに行こうか。動物園もいいし、水族館もいいな」晴翔が生まれた日のような、真っ青な空を見上げなが
last updateLast Updated : 2025-09-30
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番外編1 お留守番

え?」菜々子の驚いた声が玄関に響いた。片手に晴翔を抱き、もう一方の手で玄関の靴を履こうとしていた彼女が、くるりとこちらを振り返る。「ふたりで買い物に行ってくるね、って言ったつもりだったんだけど……?」俺はドアの枠にもたれながら、少しだけ真面目な声で言った。「俺が見てるから、たまには買い物でもなんでも、一人の時間を過ごしてほしい」それを聞いた菜々子は、一瞬黙り込む。晴翔の頬に顔を寄せて、何かを確認するように見つめたあと、ゆっくりと俺に視線を戻した。「……ほんとに?」「任せろ。昼寝の時間も、ミルクのタイミングも、全部メモしてある」俺が胸を張ると、菜々子は小さく吹き出した。「仕事だって忙しいでしょう? ……それに健太郎さん、おむつ替え、最後にしたのいつ?」「……先月?」「……」ほんの数秒の沈黙に、微妙な空気が流れる。それでも俺は、動じたふりをせず続けた。晴翔が生まれてから、一緒に子育てをしていたが、この一か月、大きな案件が入ってしまい、菜々に子育てを任せきりだった。ようやくひと段落したのだ。かわいい息子の世話と、愛する妻のために、そう思ったが、予想以上に心配そうな菜々の顔に苦笑する。「ちゃんとやるから」「本当?」菜々子は肩をすくめると、バッグを手に取ってもう一度玄関に立った。「ああ」俺が真面目な表情で答えると、菜々はいつもの柔らかな笑みを浮かべた。「ありがとう。じゃあ、お願いするね。でも……なにかあったら、すぐ電話して」最後の念押しを忘れない母親の顔の菜々から、晴翔を受け取りつつ頬に口づける。「もう」そこに手を触れつつ、菜々は小さく手を振って外へと出て行った。「な、男同士うまくやろうな」晴翔を抱き上げると、キャキャと楽しそうに笑う。まったく、問題ない。その時は、本気でそう思っていた。と晴翔、ふたりだけの時間が、はじまる。 ……と思ったのも束の間だった。 「ふぇっ……ふぎゃぁああああ!!」 いつも聞いているつもりだったが、ひとりだとその声にビクッとしてしまった。「晴翔、どうした?」 小さな体が真っ赤になり、両手をばたばたと振り回している。俺の胸元で大暴れだ。 「……もしかして、ママがいないのが寂しいのか? それとも……ミルク?」 慌てて菜々子が用意してくれた哺乳瓶を手に取り、ミルクを温める準備をする
last updateLast Updated : 2025-10-03
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番外編 お留守番2

ミルクを飲み終えた晴翔は、ようやく落ち着きを取り戻した。小さな口の端に白いミルクを残して、満足そうに「ふぅ」と小さく息をつく。「お疲れさま、俺……晴翔も待っててくれてありがとな」自分のシャツの襟元を見下ろすと、案の定、涙とミルクでしっとりしていた。まぁ、勲章みたいなもんだ。晴翔の顔をのぞき込むと、今度は機嫌よさそうににこにこ笑っている。「元気になったか。じゃあ……ちょっと外に出てみるか?」思いついて、そっとベビーカーを玄関に出す。肌にあたる風はやわらかくて、空は晴翔が生まれた日みたいに、抜けるような青だった。「いくぞ、晴翔」カチャ、とベビーカーに晴翔を乗せて、玄関を出た。公園にはのんびりと過ごす家族連れや、犬を連れた老夫婦の姿も見えた。ベビーカーを押しながら歩く俺の横で、晴翔は目をきょろきょろとさせて、木々や、すれ違う子供たちをじっと見つめている。晴翔は、「あー」とか「うー」とか、赤ちゃん語で何かを一生懸命伝えている。「そっか、あの犬が気になったのか。……名前は、たぶん柴犬だな」歩くたびに、すれ違う人たちが晴翔に笑いかけ、手を振ってくれる。そのたびに、晴翔が声を上げて笑うのが嬉しくて、俺の足取りも自然と軽くなる。「ママ、ゆっくりできてるといいな」ふと漏れたその独り言に──。「ありがとう。気持ちだけでもうれしいし……ふたりでも楽しそうで、少し妬けちゃった」聞きなれた声が、背中越しに届いて驚いて振り返ると、そこには菜々子が立っていた。風になびく薄手のコートと、ふんわりとした笑顔が、どこか照れたように見える。「菜々……帰ってきてたのか?」「うん。欲しいものも買えたし、ちょっと一人でカフェにも寄ってきた。こんな時間、久しぶりだった」「そっか。よかった」少し照れくさくなって視線を外すと、晴翔が「あっ」と短く声を上げた。ベビーカーの上から、菜々子に向かって両手を伸ばしている。「ほらな。やっぱりママがいいんだよ、お前は」俺が苦笑しながら言うと、菜々子がそっと晴翔の手を握る。「でも……やっぱり三人がいいな」その言葉に、俺の胸の奥がじんわりと温かくなる。「俺もそうだよ」そう答えて、ベビーカーを押していない手で菜々と手をつなぐ。この時間、この空気、この風景──たぶん、きっと、何よりも大切なものだ。恋愛とか、家族とか、
last updateLast Updated : 2025-10-08
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