「俺、パスタぐらいしかできないけど、いい?」「え? 謙太郎さんが作るんですか?」家政婦が必要で結婚をするのなら、もちろん私が作るべきだと思い、聞き返す。「ん? 俺たちが食べるんだし、じゃあ一緒に作ってくれるなら味の保証があるかもな」「一緒に?」生まれてから何かを命じられることはあっても、何かを一緒にやろうと言われたことは数少ない。「俺は、忙しくなると食べることを忘れることも多くて、終わった後にひとりで作れるのがこれだけだから」そう言いながら、卵とパルメザンチーズでソースを作っていく。「カルボナーラですか?」「正解!」嬉しそうに答えた彼に、つい私も笑ってしまう。「菜々は生ハム切って。ベーコンはないから」「はい」そう答えたものの、謙太郎さんが出してきたのは生ハムの原木で、「これですか?」と驚いてそれを見つめた。「もらったんだけど、減らないんだよな……」ぼやくように言う彼を見つつ、私は気を取り直して、それを薄く切っていく。とても良いもののようで、香りがとてもいい。「菜々」「はい?」薄く切ったハムを手にした私に、パスタを茹でていた謙太郎さんが口を開く。「味見」まさか、そこに入れろということだろうか。右往左往する私を、面白そうに見ながら彼は近づいてくる。「ほら、早く」近づきすぎる距離に、私は慌ててハムを彼の口に入れる。「うん、うまい。塩気はこれぐらいか」そう言いながらソースの味を見ている彼に、私は呆然としつつも、こんなやり取りが新鮮で、つい笑顔になってしまう。「菜々、うまいよ。ほら」謙太郎さんは、切り終わった生ハムを一枚取ると、私の口に放り込む。「おいしい」「な」そんなことをしながら料理を作り、初めて会ったとは思えないほど、心地よい時間を過ごしている自分に気づく。出来上がったパスタを前に、テーブルを挟んで向かい合って私たちは座った。「いただきます」一緒に作ったパスタはとても美味しくて、流れるジャズがゆったりとした雰囲気を作っている。「それで」少し食べ進めた後、フォークとスプーンを置いて、謙太郎さんが私をまっすぐに見た。今日、初めて見る真剣な瞳に、私もごくりと唾を飲み込んで言葉を待つ。「結婚、してくれるか?」単刀直入な言葉に、瞬きも忘れて彼の視線を外せない。「妹ではなく、私でいいんですか?」「ああ
Last Updated : 2025-09-17 Read more