Will you marry me ?エリート建築士は策士な旦那様でした

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last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-10-08
โดย:  笠井未久ยังไม่จบ
ภาษา: Japanese
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日本屈指の旅館の娘、斎藤菜々子。控えめな性格で、いつも可愛がられている異母妹の陰で生きてきた。 そんな時、父が企てた屈指の御曹司で世界的有名な建築家である、向井謙太郎と政略結婚をすることに。 「どうして、妹ではなく私なんですか?」 虐げられつつけて愛を信じられない菜々子に、愛されることを教えると決めた謙太郎。 ふたりの恋の行方は……。 斎藤菜々子 26歳 虐げられ令嬢  ×  向井謙太郎 31歳 世界的な建築家 一級建築士× 虐げられ令嬢

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บทที่ 1

Story 1

葛城莉緒(かつらぎ りお)は、ネイルサロンの特別ルームに座っていた。でも、店員は気まずそうな顔でこう言った。「葛城さん、こちらのカードですが、残高が足りないようでして……」

莉緒はきょとんとした。先月、夫の葛城祐介(かつらぎ ゆうすけ)がこのカードをくれた時、たしか60万円入っていると言っていたのに。

しかも、それを使うのが今日が初めてなのに。

そこで店員に履歴を調べてもらうと,こう言われた。「葛城さん、先週の木曜の午後に、56万円のご利用がございました」

「先週の木曜日?56万円?」莉緒は思わず指を止めた。「その日、私は一日中、会社にいましたけど」

店員は口ごもった。「は、はい。ご主人が、ある女性の方をお連れになったんです。お帰りの際に、その女性が店員の一人へのチップだと言ってお支払いをされて行かれました」

それを聞いて、莉緒の心臓が急にどきどきして、耳鳴りがした。

先週の木曜日、祐介は大事なクライアントと会うと言っていた。家に帰ってきたのは夜の8時過ぎで、接待が長引いて疲れたと愚痴っていたはずだ。

自分はそれを聞いて、わざわざ会議を早く切り上げて、彼のために酔い覚ましのスープまで作ってあげたのに。

「防犯カメラ、見せてください」莉緒の声はか細く、気持ちが重く沈んでいった。

そして防犯カメラの映像には、祐介が水色のワンピースを着た女の肩を抱いて入ってくる姿が映っていた。

女が祐介を見上げて何かを言うと、彼は愛おしそうに彼女の髪を撫でた。

莉緒は呆然とした。その親密な仕草は、まるで二人が付き合いたての若いカップルのように見えた。

もし、祐介が自分の夫でなければ、それは何とも微笑ましい光景だっただろう。

そう思っていると、突然、映像の中の祐介が店員に何か言われ、ひざまずくと、その女の足にペディキュアを塗り始めた。

それだけじゃない。塗り終わった後、彼は愛おしそうに女の足を両手で包み込んで、キスまでしたのだ。

それを目にした莉緒は全身の血が凍りついた。あのプライドの高い祐介が、他の女のためにひざまずいてペディキュアを塗るなんて。

しかもあの夜、家に帰ってきた彼は、他の女の足にキスしたその口で、自分にキスしたのだ。

そう気が付いた莉緒はこみ上げてくる吐き気を抑えきれなかった。

そして映像は続いた。祐介はずっと女の子のそばにいて、帰り際には当たり前のように彼女の白いハンドバッグを持ってあげていた。

莉緒は画面を食い入るように見つめた。そのバッグは、自分のクローゼットにあるものと全く同じだった。

あれは先週、祐介が出張から帰ってきた時にわざわざプレゼントしてくれたものだった。今考えればプレゼントをもらったのは自分だけじゃなかったようだ。

「この映像、私のメールアドレスに送ってください」そこまで見て莉緒は立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。それでも、彼女はなんとかバッグを掴んで店を飛び出した。

家に帰ると、彼女はまっすぐ書斎に駆け込んだ。

震える指で、私立探偵に電話をかけて言った。「祐介の最近の行動を全部調べて、報告してちょうだい」

3時間後、メールボックスに数十枚の写真が届いた。

それは祐介と野口沙耶香(のぐち さやか)という女がスーパーで買い物をしていたり、映画館で恋人つなぎをしていたりしているものだった。

そして何よりショックだったのは、その中には婚姻届の写真まであった。日付を見ると、二人が「結婚」して、もう1年以上も経っていた。

莉緒は震えが止まらなかった。

彼女は結婚式の日、目の前でひざまずいて誓った祐介の言葉を思い出した。「莉緒、一生君を裏切らないと誓うよ」

この男の一生って、こんなに短かったのね。

そう思っていると突然スマホが震えた。探偵からの追加情報だ。【野口沙耶香、24歳、私立中学教師、婚姻届は祐介さんが知人に頼んで偽造させた書類です。彼は毎週水曜と金曜の午後、野口さんのマンションを訪れています】

莉緒は震える手で電話をかけた。「お父さん、葛城グループの、あの新エネルギー事業から資金を引き揚げたら……」

「どうしたんだ?」父親の奥山慎吾(おくやま しんご)の声が、とたんに険しくなった。「祐介にいじめられたのか?」

この一言で、莉緒は崩れ落ちそうになった。

結婚式で、父は目を赤くしながら自分の手を祐介に託した。「もし莉緒を悲しませることがあれば、あなたをこの業界で生きていけなくしてやるからな」

「祐介が……」そう思い返して、莉緒は喉に何かが詰まったようで、声が出ないのだ。同時に去年、自分が肺炎で高熱を出した時、祐介は夜通し自分を背負って救急病院へ走り、ベッドのそばで3日3晩、看病してくれたことを思い出した。

自分のためにあんなに必死になってくれた人が、どうして他の女と「結婚」なんてしてるの?

「ううん、まだ何でもないの」莉緒は手の甲を強く噛んで、嗚咽をこらえた。「また連絡するから」

その電話を切ると、ガレージのドアが開く音が聞こえた。

祐介が入ってきた。彼は手には書類の入った封筒を持ち、いつもと変わらない優しい笑顔を浮かべていた。「今日は早かったんだね」

「うん、ネイルサロンに行ってたの」莉緒は手を差し出して見せた。「あなたがくれたカードでね」

その瞬間、祐介の体がこわばった。すぐに平静を装ったけど、莉緒にははっきりとわかった。

「そういえば」彼女はわざとさりげなく尋ねた。「店員さんが言ってたけど、先週の木曜日、あなたが女の子を連れてきたって」

それを聞いて祐介は一瞬、固まった。そして、慎重に莉緒の表情をうかがった。

莉緒が普段と変わらない顔をしているのを見て、彼は安心したように優しく微笑んだ。「ああ、隣の太田さんの娘さんだよ。ネイルサロンに行きたいけど、一人じゃ心細いって言うから、君がよく行く店を紹介してあげたんだ」

そう言いながら祐介は歩み寄ってきて、莉緒を抱きしめた。「お腹すいたろ?俺がご飯作るよ」

キッチンへ向かう夫の後ろ姿を見つめながら、莉緒の胸は苦しくなった。

もし自分が気づかなかったら、この人は永遠に自分を騙し続けるつもりだったんだろうか?

莉緒はスマホを手に取り、父親にメッセージを送った。【来週、葛城家への投資は、すべて引き揚げて!私、離婚するから】

送り終えると、彼女はキッチンに目を向けた。

そこで、祐介は手際よく野菜を切っていた。

この1年ちょっと、きっとあの女の家で、こうして料理の腕を磨いてきたわけね。

莉緒はすっと立ち上がると、結婚指輪を外してリビングのテーブルに置いた。そして、寝室へと向かった。

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Story 1
美しい池を中心に築山を築き、自然石や草木が配された見事な日本庭園。そして反対側には能舞台が目に入る。ここは、日本有数の有名旅館、沙月亭。趣のある和の中にも、現代の技術が集結した、究極の贅沢を提供する場所だ。広大な敷地の中はいくつかに分かれている。本館は高級だが、比較的泊まりやすい客室、そして二十棟ほどある離れは、一軒一軒にコンセプトがあり、全室スイートルーム。露天風呂、寝室、広間、縁側など、贅を極めた造りだ。そして、さらに二邸しかない最上級の部屋は、露天風呂はもちろん、サウナや岩盤浴まであり、プライベートが完全に守られていて、芸能人や政界の人たちも利用するほどだ。そんな沙月亭の当主、斎藤唯太郎。私、斎藤菜々子の父であり、この旅館の八代目になる。かなりの商才の持ち主で、父の代でここまで大きくした。その反面、仕事にしか興味のない人で、家族を顧みるような人ではない。「先生、お願いできますか?」そんなことを思ってしまった自分を戒めていると、父の声に我に返る。VIPをもてなすために建てられた、客室とは別の邸宅。きっと、一枚板の見事なテーブルを挟んで、父は相手と向かい合っているはずだ。「どうして私を?」廊下で待機している私には姿は見えない。彼が今どんな反応をし、何を考えているかはもちろん知る由もないが、その声は冷たく聞こえた。父の対話の相手は、建築家の向井謙太郎氏。私はその名前くらいしか知らなかったが、今の時代、彼ほどの人ならば、その気になればほとんどの情報は手に入ってしまう。確か年齢は三十一歳だったと記憶している。ビシッとした、ひと目で高級だとわかるスリーピース。しかし、一般の会社員とはどこか違うセンスを感じる着こなし。髪型も今どきの、緩やかなカーブを描いたダークブラウンだ。キリッとした二重の瞳は、何を考えているか読み取れない。それが昨日、私が初めて彼の写真を見た印象だ。父は官僚、母は元華族の出身、兄は父の秘書官で、妹は日舞の師範。出生だけでもすごいのに、本人も日本で有名大学を卒業した後、一級建築士資格を取得。そして海外に渡り、たくさんのデザインを手がけ、数々の賞を受賞しているそうだ。和建築にも定評があり、このたび東京に新しくできる近代美術館の建築の指揮を取っていると、ニュースでも取り上げられていたことは記憶にあった。しかし、
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Story 2
瑠菜というのは、私の異母妹で、このあたりでも評判の美人。父の自慢の娘だ。反面、私といえば──26歳になった今まで男性経験もなく、魅力もない。身長159cm、体型も一般的で、どこにでもいるような人間だ。私もこの家で働いていることもあり、常に和服を着ていることが多く、今日も薄い紫の訪問着を着ている。妹と私は母親が違うせいか、まったく似ていない。瑠菜ならば、きっと先生の機嫌を取れると思ったのだろうが、今朝から瑠菜の姿が見えないから、私がここにいたのだ。しかたなく部屋に入り、角にある茶を点てる場所へと向かう。「菜々子!! どうしてお前が。瑠菜はどうした?」姿を見せた私に、父の怒声が飛ぶ。私にそんなことを言われても、どうしようもできない。そう思うが、反論しても仕方がない。しかし、父は本気で、瑠菜が茶を点てられると思っていたのだろうか。小さいころから、茶道や華道の先生から逃げてばかりいたのに。盲目的に可愛がり、なんでも完璧だと思っていたなんて──娘の何を見ていたのかと思ってしまうが、そんなこと、今さら言っても仕方がない。その声を聞こえないふりをして、いつもどおり背筋を正し、目を閉じる。いったん、父も茶は必要だと思ったのか、何も言わなくなった。私は精神統一を終えると、目を開けた。目の前の茶碗に抹茶を入れ、柄杓で湯を汲み、静かに注ぐ。静かな部屋に、茶筅の音だけが響く。明らかに先生の視線を感じるが、心を落ち着かせて点て終わったお茶を、菓子と一緒に彼の前に置いた。これで私の仕事は終わった。心の中で安堵してちらりと彼を見ると、意外そうな顔で私に視線を向けていた。瑠菜と違い、冴えない私のお茶は気を悪くしただろうか。一瞬そう思ったが、静かに礼をしてくれた彼に少し驚きつつ、私も頭を下げた。一連の流れを見ていた父だったが、キッと私を睨みつけ、「瑠菜はどうした!」と小声で問う。が、完全に彼にも聞こえているだろう。「いませんでしたので」それだけを答えると、舌打ちが聞こえそうなほどの苦虫を潰した表情を浮かべた父は、すぐにいつもの作り笑いで彼に向き直る。「先生、申し訳ありませんでしたな」機嫌を取るような物言いに呆れつつ、私は父から視線を外した。そんな時だった。「謝罪される必要はありません」慣れた所作で菓子とお茶を口にしていた先生だったが、飲み終えると
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Srory 3
「お母様、嫌よ! ちょっと離して!」そういえば、朝から母の姿も見えなかった──そんなことを思いつつ、廊下に目を向けると、母に連れられた瑠菜の姿が見えた。「どうして、私が見ず知らずの男と結婚しなきゃいけないのよ!」……やっぱり。彼の姿をまだ確認していなかったのかもしれないが、ばっちりと聞こえてしまったその声に、父が慌てた様子を見せる。「私は秘書に、仕事の話だと聞いて来ましたが……そうでないのなら、失礼します」決して声を荒げているわけではないが、地を這うような低い声に、彼の怒りはもっともだと思う。だまし討ちのような形で見合いの席を用意して、その娘が暴言を吐いているのだ。不愉快極まりないはずだ。「いや、君はすべての縁談を断っていると仲間内で聞いた。だからこの手段を……。きっと君もうちの瑠菜を見たら了承するはずだ」開き直ったような父に、呆れるやら恥ずかしいやら──。私は慌てて先生に頭を下げた。「先生、我が家が大変無礼な数々を……お許しくださいませ」そう言った私に彼が何か言う前に、いきなり甲高い声が聞こえた。「え? この方なの?」部屋の中の先生を確認したのか、瑠菜がいきなり入ってきて、彼の横に座る。「大変失礼しました。娘の瑠菜です」にっこりと、昔からすべての男性を虜にしてきた笑顔を浮かべる。私の初恋の人も、学校の同級生も、瑠菜のことしか見ていなかった。「お父様、申し訳ありません。遅れてしまいました」先生の容姿を見て、瑠菜は「この人なら」と思ったのだろう。いきなり声音すら変わった妹に、ため息が零れそうになる。しかし、予定通りなのだから、私はもう不要だ。そう思い、その場から去ろうとした時、彼の声が聞こえた。「確かに私にも妻が必要な年齢ですし、斎藤家との縁はありがたいですね」先ほど断った時と同じトーンで、彼は淡々と話す。やはり私ではなく、美しい瑠菜に心を奪われたのだ。この人も、ただの男の人か。建築に惹かれていただけに、少し残念な気持ちになりつつ無言で立ち上がると、そっと手を握られた。いきなり温もりを感じた私は、反射的に彼を見下ろすと、漆黒の瞳がそこにあった。「こちらのお嬢さんを頂けるなら、仕事を受けましょう」「え!!」父はもちろん、その場にいた誰もがそう声を上げていた。「どうしてお姉ちゃんなのよ!!」あの後、「これからのこ
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Story 4
その後、母は泣きわめき、瑠菜は父に「もう一度話をするように」と泣き落としていた。甘やかされたとはいえ、ここまで自由で、思い通りになると思っている妹を、もはや尊敬すらしてしまう。「あの、菜々子さん」遠慮がちに聞こえたその声に、黙ってその場に座っていた私は振り返った。割烹着姿のスタッフがそこにいて、とても困った顔をしている。昼過ぎに先生は来たはずだったが──ハッとして時計を確認すると、いつの間にかチェックインのピーク時間は過ぎ、夕食も始まっている時間だった。「どうしたの?」この様子に、声をかけるのをためらっていたのだと悟る。「椿の間のお客様のご挨拶をお願いしたくて」「お父様、ご挨拶の時間です」椿の間は完全なプライベート邸で、今日は確か現警視総監ご一家がお泊まりのはず。私の声に、さすがの父も時計に視線を向けた。「瑠菜、お前にはもっといい縁談を用意する。きっとあの男は冷たくて、嫁など大事にするタイプじゃない」そんな男性に差し出す気だったのかと唖然としてしまうが、仕事のためなら娘などただの駒だと思っている父。「絶対よ!」初めは自分が相手だったということを忘れているのか、瑠菜はそう答えた。「菜々子、早いところ結婚を取り付けて、うちの仕事をしてくれるように頼むんだ」私の意志など関係なく、もうあの人との結婚は決定事項なのか。今までもいろいろなものを諦めてきたが、結婚までこんなふうに決まるなんて。自嘲気味な笑みがこぼれそうになったところに、追い打ちをかけるように瑠菜が私の前に立ちはだかる。「御曹司の気まぐれよ。お姉ちゃんのほうが都合がよさそうだから選ばれただけなんだから。いい気にならないことね」「わかってる」言われなくてもわかっている。彼もきっと父と同じで、結婚も政略的にするつもりだったのだろう。うちとの縁が欲しかっただけに決まっている。そして、自己主張の強い妹より、おとなしい姉のほうが扱いやすいと思ったに違いない。そんなこと──ずっと昔からわかっている。その後、母は泣きわめき、瑠菜は父に「もう一度話をするように」と泣き落としていた。甘やかされたとはいえ、ここまで自由で、思い通りになると思っている妹を、もはや尊敬すらしてしまう。「あの、菜々子さん」遠慮がちに聞こえたその声に、黙ってその場に座っていた私は振り返った。割烹着姿
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Story 5
その週末、すぐに彼の秘書の男性が迎えに来ることになった。一度、先生と会い、これからのことを決めてほしいとのことだった。時間になり、出かけようとした私の元へ、父と妹がやってくる。決して見送りなどではないことは、ふたりの顔を見てすぐにわかった。「菜々子、下手なことをしたら承知しないからな。絶対に先生に気に入られろ。どんな手段を使ってもだ」「お父様、お姉ちゃんに何があるっていうの?」そんな会話を聞いていると、旅館のエントランス前に停まった黒塗りの高級車の後部座席のドアが、運転手によって開けられた。「菜々子、仕事はしばらく必要ない。すべて先生のために時間を使うんだ。もうこのまま帰ってくるな」「え!」まだ結婚するとも決まっていないのに、「帰ってくるな」と言われたことに驚いて目を見開く。そんな父の後ろで、見送りに来ていた仲居たちの顔色が変わったのがわかった。「旦那様、それは困ります」「なんだと!?」「菜々子さんがいないと、館内のお花はどうするんですか? それに通訳も……」今、私がやっている仕事を「重要だ」と言ってくれる彼女たちの気持ちに、嬉しさが募る。こんな私でも、役に立つことがあったのだと──少しだけ救われた気持ちになった。「そんなもの、誰でもできるだろ!」……そう思った矢先に聞こえた父の声。やはり父は、私のことを評価していないのだと知る。それでも、私は自分の仕事に誇りを持ってきたし、誰かに認められるためにやってきたわけではない。父のその言葉に、何も言えなくなってしまった仲居のみんなには申し訳なく思うが、私は行かなければいけない。薄紫の訪問着に、背中まである髪はひとつに結い上げている今日の私。荷物も、いつもの外出と同じく、財布とスマホ、ハンカチぐらいしか持っていない。もちろん、帰ってくるつもりだからだ。「行ってきます」父たちではなく、私は仲居の皆にそう言って微笑んだ。「菜々子様、ご案内いたします」そんなやり取りを、秘書の男性がどんな気持ちで見ていたのかはわからない。先生とは違い、穏やかな笑みをずっと浮かべたその人は、父たちにも礼をすると、先に乗り込んでいた私の横にスッと腰を下ろした。そして、少しの余韻を残したあと、ドアは静かに閉められた。「あれはないな」走り出して数分後、隣から不意に聞こえた声に、私は驚いて視線を
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Story 6
「ここは、レストランか何かですか?」あれほどの人ならば、私なんかと会うには、こういったプライバシーが守られた場所が必要だ。ましてや、内容が内容なのだから。返事を聞く前に車が停まり、運転手がドアを開けてくれた。私は慌てて降り、建物を見上げる。見る限り三階建てのようで、大きなガラス窓、モダンなブラインド、そして目の前にはブラウンの大きな玄関扉が見えた。桜庭さんはカードをかざし、セキュリティを解除して扉を開け、私を促した。「どうぞ」「失礼いたします」足を踏み入れると、三階まで吹き抜けている広い玄関。そして、目の前にはらせん状の階段があった。「あちらがリビングですが……まあ、仕事場でしょうね」まだここがどこなのか、理解が追いついていない私だが、階段を上がっていく桜庭さんに慌ててついていく。二階に上がると、そこは日差しが差し込み、明るく開放的な空間だった。随所に絵が飾られ、とても素敵な雰囲気だ。そこから廊下を進み、ひとつのドアを桜庭さんが開けた。「謙太郎!」三十畳はあるかもしれない。高い天井に大きなガラス窓。その向こうには広々としたテラスがあり、簡易的なキッチンも備わった部屋。キッチン近くにはダイニングテーブル、その隣にはソファセットとローテーブル。そこだけでも、普通の一軒家のリビングより広い。この部屋のただ一つ違うところは、部屋の中心に大きなテーブルがあり、そこに何台ものパソコンと、デザイン用なのか模造紙が広がっていたことだ。そして、その机に突っ伏して眠る先生の姿があった。ブラックのシャツに、カーキのパンツというラフな格好だが、スタイルがいいので何でも似合う。今日は先日とは違い、髪も固められていないようで、前髪が目元にかかっていた。「謙太郎!! おい」「あの、起こさないであげてください」忙しく疲れていると聞いた今、眠っている彼の邪魔はしたくなかった。「申し訳ない。今日は君が来ると念を押していたんだけど……。近代美術館の期日も迫っているのも事実で、きっと徹夜だったと思う」そんな中、父の呼び出しに応じてくれたのだ。かなり無理をさせたに違いない。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。「あの、ここで私は待たせていただいても?」「え? それはもちろん大丈夫ですが……。僕もこれから仕事がありまして」少し思案するような表情を浮かべ
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Story7
「この家のものは、ご自由にお使いになってかまいません。もし本がお好きでしたら、こちらへどうぞ」まるで隠し扉のような場所を開けると、本に囲まれた部屋があった。一人掛けのソファがふたつと、小さなテーブル。隠れ家のようなその部屋に、思わず引き込まれそうになる。「ここも向井先生が設計を?」「ええ。インテリアからこだわった家です」温かみのある雰囲気が、とても落ち着く。なぜか、自然とリラックスできる気がした。「お呼び立てしたのに、本当に申し訳ありません」桜庭さんはそう言って、仕事へと出かけていった。彼も忙しい中、私を連れてきてくれたのだろう。私はただ、彼が起きるのを待つしかなかった。シーンと静まり返った部屋。彼の穏やかな寝息が聞こえてきて、私はなぜか慌ててしまう。しかし、そっと彼を盗み見ると、やはりとてもきれいな顔をしていて、先日家で会ったときよりもかなり若く見える。薄手のシャツで眠る彼に、私は部屋の中を見回した。そしてソファの上にあるブランケットを手に取り、そっと彼の肩に掛ける。それでも微動だにしない彼に、安堵して小さく息を吐いた。どうしよう。初めて来た場所で何か勝手に触ることもできず、先ほどの書斎に行き、一冊だけ本を借りることにした。やはり美術や建築の本が多く並ぶ中、彼の作品集を見つけてそれを手にして戻る。座る位置も悩みに悩み抜き、彼の眠る場所から離れていることもあり、大きなソファの隅っこに腰を掛ける。大きな窓から見える木々。ここが都内だということを忘れそうだ。旅館の仕事は忙しく、毎日が慌ただしく過ぎていった。身体が適度に沈み込む高級なソファに座り、私は写真集の一ページ目を開いた。「そろそろ起きないか?」何かが頬を撫でるような気がして、それをそっと寝ぼけながら握る。「うーん、もう少し……」「俺は構わないが、腹、減らないか?」確かに空腹を感じるのも事実だが、温かいこの感触を……。温かい感触? え?そこでようやく頭が覚醒していく。嘘でしょ?自分の失態に気づき、目を開けるのが怖い。眠っていた彼を待つはずの私が、どうして目を閉じているのだ。背筋が凍りそうなほど冷たくなり、冷汗がこぼれそうになる。「すみません!!」起き上がって謝罪をしようとしたが、なぜか起き上がることができなくて、呆然としてしまう。「おはよう」「おはようござい
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Story8
「そうじゃなくて、どうして一緒に……」「起きてみたら、ぐっすりと眠っていたから、俺ももう一度寝ようと思って。まあ、寝る場所はここしかないし、一緒でいいかなって」クスッと笑いながら話すその人に、私は数秒後、声を上げていた。「そんな! 起こしてくれればよかっただけです!」「それは菜々もだろ?」「菜々?」不意に呼ばれた聞きなれない名前を、自分でポツリと呟いていた。「菜々子だろ? 菜々の方が言いやすいし、俺だけがそう呼ぶことにしたから」蕩けそうな微笑みでそう言われ、私は逆に冷静になっていく。これは政略結婚で、父が無理に始めたことだ。そして、彼がこれを受けるメリットなどないし、ましてや瑠菜ではなく私にしたのは、ただ瑠菜より扱いやすいと思ったからだと、あの日からずっと自分に言い聞かせていた。今日だって、契約内容を確認しに来ただけのはずだ。我が家の目的は先生に仕事をお願いすること。先生には、それなりのコネと実績を約束して。そういう話をするはずだった。なのに、どうしてこんなことに……。「俺のことも、謙太郎でいいよ」目の前にいる彼は、この前見たような冷徹な人ではなく、コロコロと表情が変わり、穏やかで太陽のように笑う。「何を企んでるんですか?」キュッと唇を噛んでそう問えば、彼は驚いたような表情を浮かべる。「企む?」訳がわからないと言った彼に、私は彼を睨みつけた。「こんな無茶苦茶な結婚を受けるメリットは、先生にはありませんよね? ましてや、私なんかと」「菜々、“先生”はやめて」え? そこ? まったく意味がわからない。考えることを放棄して、想ったことを口に出す。「父はただ向井家との縁が欲しくて、先生に仕事を依頼したことに気づいてますよね?」いや、正しくは、もちろん先生に仕事も頼みたいが、向井家との縁も欲しいということだ。間違った内容を訂正しようとしたが、先生も起き上がり、私の隣に腰かける。「ああ、そうだろうな」あっさりと肯定されてしまい、ポカンとする。「じゃあ、どうして? あなたにメリットはないですよね? 今も美術館の仕事が忙しいって聞きました」「忙しすぎて死にそうだよ」ため息まじりにそう言った彼は、柔らかな笑みを浮かべた。「だから、菜々と結婚しようって思った」「……え?」一瞬、思考が止まってしまったが、その言葉にようやく少し
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-17
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Story9
※※※目の前で白くなったり赤くなったりする菜々を見て、俺は楽しくて仕方がなかった。忙しい中、斎藤家の強引な依頼。俺は初めは断るつもりでいた。もちろん、やってみたい仕事ではあったが、時期が悪かった。ヨーロッパで賞を取ってからというもの、急激に忙しさを増している。一ヶ月前「謙太郎、それとご両親からこれも」本社の社長室で雑務に追われていた俺に、沙月亭の資料と一緒に、紘一が机にポンとそれを置く。「またか……」見なくてもわかる釣書に、俺は沙月亭の資料だけを手にする。「今は忙しいって言ったんだろ?」「ああ、だからこそだとさ」あの両親なら言いそうなことだと思う。政界という場所に身を置き、社交の重要性をよく理解している両親だからこそ、早く結婚をしろとここ数年言われ続けている。「俺みたいなやつが真面目に付き合えると思うか?」「まあ、思わないな」秘書と言いながら、高校からずっと俺をそばで見ている紘一は、ため息まじりにきっぱりと言い切った。「仕事をしだすと、約束は忘れて集中するし、連絡ひとつしないしな。まあ、周りの女性たちも大概だったとは思うけど」苦笑しつつ紘一はそう言うと、釣書を手にした。今まで、この顔とステータスに寄ってくる女性はたくさんいたし、それなりに仕事の一部のように付き合ったこともある。しかし、結婚なんてして毎日誰かの機嫌を取らなければいけないなんて、まっぴらだ。「いつも通り、ご両親にはお断りしておいた。でも、この見合いもあり得ないな」「どういうことだ?」呆れた表情の紘一に問いかけると、彼は中を開いて、それを見せてきた。そこには、着物姿の女性の写真が載っている。確かにとても美しいが、見慣れていて、なんてことないものだった。「もうひとつあるんだよ。姉だとさ」「は?」重ねられていたようで、紘一はもう一つの方を俺に向けて、添えられていた文面を読み始めた。「この依頼の沙月亭のお嬢様だとさ。見合い相手はこっちの妹がおすすめですが、一応姉もいます、だとさ」そんな赤裸々な書き方はしていないだろうが、要約するように紘一は読み上げたあと、ポンとそれを俺の方へ置いた。「マジか……」写真を食い入るように見つめる俺に、紘一が訝しげな表情を浮かべる。「謙太郎? どうした? まさか一目惚れとか言わないよな? もう断ったぞ」「一度、話を聞く
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Story10
※※※「腹減ったな」どれくらいの時間、抱きしめられたまま固まっていたのか見当もつかない。もしかしたらほんの数秒だったかもしれないし、数分かもしれない。小さく聞こえた声に我に返った。そこで私のお腹がグーと音を立てる。嘘でしょ! こんな時に。バタバタとしていたこともあり、朝から何も食べていなかったとはいえ、なんというタイミングだ。「下で何か食べようか。菜々の好きなものは?」先生――改め、謙太郎さんはそう言うと、私に笑顔を向ける。どうして私なんかに、こんな笑みを向けるのかわからない。家政婦として扱うのなら、「食事を作れ」とでも命令してもらったほうが、まだましだ。いちいちこんなふうに、優しく私の意志なんて確認する必要もないし、こんな扱いをされることには慣れていない。くすぐったいような、なんとも言い難い気持ちが湧き出そうになるのを、なんとか耐える。こんなふうに答えず、表情を崩さない私を気にする素振りは一切なく、当たり前のように手を引いて、彼は歩き出した。「菜々、本当に何も企んでないから安心して」その言葉を信じたいが、「はい、そうですか」と言えるわけもない。でも、握られた手が温かくて振り払うことができなくて、そのまま彼と階段を下りた。リビングは、先ほどの仕事部屋の倍はある広く開放的な空間で、大きなアイランドキッチンに、十人は座れるダイニングテーブル、モダンな数々のインテリア。「美しいですね」なんと形容するのがいいのかわからないが、随所に施されたデザインには温もりがあり、洗練されたモダンさもある。計算された曲線、窓から差し込む光など、どれも見事だった。「ありがとう。ひとりだとこんな広さはいらないけど、クライアントに見せるための建築物だから、妥協はしていない」まるで愛しい我が子を見るように、リビングに視線を向ける謙太郎さん。自分の仕事に誇りを持っていることが伝わってくる。「どうして建築を?」「ん?」つい口をついてしまった疑問に、私はしまったと口元を押さえた。しかし、そんなことを気にするような素振りはなく、彼は口を開いた。「確かに、両親と同じ道に進んでほしいって誰もが思ってたし、俺も一時はこの世界を諦めようと思ったこともあったけど……」そこで一度、言葉を止めて、私を見下ろす。「やっぱり、好きだから」自分のことではなく、仕事が
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