二十年後。萌花はギャラリーの大きな窓の前に立ち、外に広がる華やかな街並みを見下ろしていた。彼女は母・紗季の美貌を受け継ぎ、そして生まれつきの商才までも引き継いでいた。二十五歳にして、すでにアート業界の新星として注目を集めている。「萌花さん、インタビューの時間です」 アシスタントが静かに声をかけた。今日は『タイム』誌の特集インタビュー。「母の跡を継ぐ者――紗季の娘が築くアート帝国」というテーマだった。「萌花さん、あなたとお母様はとてもよく似ていると言われますが、どう思いますか?」 記者が問いかける。萌花はしばらく沈黙し、それから静かに答えた。 「私は、母にはなれません」「それはどうしてですか?」「母は二十九年の人生で、本当の愛というものを教えてくれました。でも私は、十八年かけてやっと後悔というものを知ったんです」記者は、その家族の過去を知っていたのだろう。それ以上、質問を重ねることはなかった。インタビューが終わると、萌花は自ら車を運転して墓地へ向かった。今日は紗季の命日。毎年この日は、必ず母のもとを訪れる。墓前にはすでにたくさんの花が供えられていた。蒼汰が送ったものもあれば、生前の友人たちからのもの、そして見知らぬ誰かからの花もある。紗季が設立した慈善基金は、これまでに何千人ものがん患者を救ってきた。その恩に報いようと、花束を捧げて感謝を伝えに来る人々が後を絶たない。「やっほー、ママ、また来たよ」 萌花は墓石の前に腰を下ろし、いつものように話しかけた。風が墓地を通り抜けていき、まるで返事のようだった。「ギャラリー、今年は二億の利益が出たよ」 萌花はささやくような声で続けた。 「きっと誇りに思ってくれるよね。ママの日記に書いてあったもん。いつか全国で一番のギャラリーにしたいって。今、それが叶ったよ」少し間を置いてから、続けて言った。「パパは相変わらずだよ。あの出来事以来、誰とも付き合ってないの。ママを一度傷つけたから、もう二度と誰かを愛する資格がないって。おじいちゃんもおばあちゃんも、去年立て続けに亡くなったよ。逝く前にね、ママに伝えてって言われたの。『ずっと愛してた。気づくのが遅すぎたけど』って。それから……美優」 萌花の声が少し震える。 「刑務所の中で、壊れちゃ
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