結婚式の日、斎藤郁也(さいとう ふみや)はなかなか姿を見せなかった。何かあったのではと不安になっていたそのとき、彼はベストマンの礼服に身を包み、胸元にはベストマン用のブートニアが飾られていた。そして白くふんわりとしたドレスを着た新垣笑菜(あらがき えみな)の手を引いて、ゆっくりと式場に現れた。まるで、彼らこそが新郎新婦のように見えた。郁也のベストマンたちは慌てて駆け寄り、彼を脇へと引き寄せた。「おい、お前どうしたんだよ?遅刻したうえに、なんで彼女まで連れて来たんだ!」郁也は困ったように眉をひそめて言った。「笑菜ちゃんの記憶は、高校時代に俺たちがキスした日のままで止まってる。彼女は卒業してからもずっと付き合ってると思い込んでるんだ。そんな彼女を一人にしておくなんてできないだろ」笑菜は隣で無邪気な顔を浮かべながら、まるで学生のように戸惑い、指先をもじもじといじっていた。ふと私は彼女の手元に目をやり、言葉を失った。そこには、私の結婚指輪がはめられていたのだ。郁也は私の方へ歩み寄り、笑菜の手をそっと包み込みながら、私に向かって祝福の言葉を告げた。「恋、結婚おめでとう」場内は水を打ったように静まり返った。私は彼を見つめながら、声を震わせて言った。「……おめでとうって?今日、結婚するのは……」「砂月恋(さつき れん)!」郁也は慌てて私の言葉を遮った。動揺の色が一瞬その目に浮かび、隣の笑菜に目をやった。彼女が真実を察していないと確かめると、私を睨みつけ、冷たい視線を向けてきた。その目には、怒りと苛立ちがはっきりと宿っていた。私は呆然とした。彼がこんな目で私を見るのは初めてだった。以前、家庭内暴力や妻殺しのニュースを見て怖くて眠れなかったとき、彼は「絶対に君を怒鳴ったりしない。もし恋にひどいことをしたら、地獄に堕ちても構わない」と、優しく私を抱きしめてくれた。その甘い言葉が今でも耳に残っているのに、今の彼は私を「わきまえのない女」として忌々しく思っているようだ。「恋、俺の気持ちを理解してくれるよな?」ふと現実に引き戻されると、彼のその言葉が耳に入ってきた。私は彼をじっと見つめたまま、しばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。彼はほっとしたように微笑んだ。だが、私はその手を振りほど
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