All Chapters of 異世界クロスオーバー 〜例え愛してはいけなかったとしても年下皇子と愛を紡いでいきたい〜: Chapter 21 - Chapter 30

37 Chapters

双子に拉致られる

「は……、おれの風魔法の攻撃を弾くとかマジかよ。ラルめ、何が魔法適性能力ゼロだ。レア中のレア種じゃんコイツ。面白ぇ。そりゃゼリゼも囲うわけだ。ハハハッ、おいジリル、こいつ部屋まで持って帰ろうぜ。ゼリゼの代わりにおれが飼う」「何マギル、気に入っちゃったの? 僕はもう少し身長も低くて可愛い子の方が好みなんだけど~」「てめぇの趣味なんて聞いてねーよ!」「はあ~? 僕だってマギルの趣味なんて聞いてないんだけど~?」「お前はしっかり聞いてただろうが!」 急に言い合いを始めた二人を見ていると、いい感じで緊張感が抜けた。 ——何か軽いなコイツら。このまま居なくなっても気が付かなかったりして……。 ゆっくり後退りしながらその場を後にする。 気持ち的には走ってしまいたいが、腹の子に何かあっては困る。やや早足で二人から離れていくと、その途中で足を止めてしまった。まるで蜜をぶちまけたような甘い匂いが香ってきたからだ。 ティータイムと言っていたから、どこかで焼き菓子でも作っているのだろう。「う……、っぇ」 急に吐き気が込み上げてきて、口元を抑えて城壁に寄りかかって座り込む。「何だお前、もしかして孕んでんのか? ゼリゼの子か?」「っ!」 座ったまま吐いていると突然頭上から声がした。 玲喜は気分が悪過ぎて、動く事も喋る事も出来ずにいる。「マギルのビンゴ~! この子の中に魂の揺らぎがあるね~しかもこれ双子じゃないかな~僕らとおんなじだね~。男性妊娠だと多胎になりやすいから~」 ——双子⁉︎ 妊娠しているというのはゼリゼに聞いていたので驚きもなかったが、双子だったのには驚きを隠せない。 しかし吐き気と闘いながら聞いていたのも有り、表情には出なかった。 何度かえずいて何も出なくなったがさすがに動けそうもない。短くて浅い呼吸を繰り返していると急に体が浮いた。「しょうがねぇなー」 マギルに横抱きにされる。「僕は甘いもの自体が嫌い~。早く行こう~?」「おれは食えたら何でもいい」「お……ろせ」「ああ? この匂いが嫌なんだろ?」「アンタの服……ッ、汚しちまう」 虚をつかれたような表情をした後、マギルが笑った。「自分を攫おうとしてる奴の心配かよっ。てめぇの心配しろっつーの。このまま此処にいても気分が悪くなるだけだろうが。抱えてってやるよ」「ゼリゼんと
last updateLast Updated : 2025-07-31
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ぜリゼが離してくれない

「玲喜だけは誰かにあげるつもりも、今後手離す予定もない。他をあたれ」 目を細めて告げたゼリゼは、背筋が凍りそうな程に冷めた表情をしていた。「玲喜大丈夫か? 部屋に戻れそうか?」「ん……」 首を上下に振って肯定の意を紡ぐ。 本当はまだ動きたくない程に吐き気がしていたが、この場に居たくなくて玲喜はゼリゼの首に腕を回して抱きつく。 ゼリゼの腕の中で体温を感じていると心身共に落ち着いてきて、胃のムカつきも治ってきた。「へえ……」 低く落とされたマギルの声と、獲物を前にしたような獣みたいにギラついた視線が身に刺さる。「玲喜。おれお前のこと諦めないからな」「オレの全ては……ゼリゼにあげた。アンタにやる分は残ってねえよ。諦めてくれ」「ゼリゼがいない時にでもそっちに遊びに行くわ。体の相性はおれとの方が良いかもしれないだろ。試そうぜ。あーあ、今日ももっと手こずると思ってたんだけどなぁ」「無視かよっ! アンタにやる分ないっつったろ!」 突っかかった玲喜を見て、閉じられていく扉の向こう側で爆笑しているのが玲喜の方まで聞こえてきた。 急に歩みを止めたゼリゼが振り返る。「やはり今日のはあの二人が仕組んだ事か……」 ボソリと漏らした呟きと共に、暗雲が立ちこめた気がした。「ゼリゼどうかしたのか? 忘れ物か?」「ああ〝忘れ物〟だ。今ここで消し炭にするという重大な忘れ物が出来たとこだ」「なんか忘れ物に対してのニュアンスが違ってる気がするんだけど気のせいか……?」 ゼリゼの右手の掌に膨大な量の魔力が集まっていく。先程の魔法壁の色の事もあり、ゼリゼが主に扱う魔法が闇属性だというのを玲喜は今日初めて知った。「気のせいじゃありませんね。間違いなく中身ごと部屋そのものが消し炭になるでしょう。まあ、あの二人が消えた所で何の問題もありません。寧ろ喜ぶ人が多いかもしれませんね。主に私とか」 ——ラルだった! ラルの顔が喜色に染まる。止める気もさらさら無さそうだ。 あの二人と出会ってまだ一時間も経たないくらいなのに、ラルやゼリゼがあの二人に今までどれだけの苦労をさせられてきたのかが、手に取るように分かってしまった。「いや、でも駄目だ。問題も大有りだろ。待て待て待てゼリゼ! ダメだ。消しちゃダメだ。正気に戻れ。とりあえずその忘れ物の事を忘れよう!」「大丈夫だ玲喜。安
last updateLast Updated : 2025-07-31
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いざこざ再び

「ん、んっ、んー」 唇を離された時はもう息も絶え絶えで、玲喜は荒い呼吸を繰り返しながらゼリゼを見上げる。ゼリゼは一度ベッドを降りると、手のひらサイズの四角い箱の中から小さな球型の物体を三つ取り出して、手に乗せるなり戻ってきた。「魔法薬で調合した潤滑剤のような物だ。これでお前の中を慣らす。足を開いて少し力を抜いていろ」「ん」 玲喜は頷いて言われた通りに足を開く。「玲喜、愛している」 玲喜が根を上げるまで丁寧に体を開かれる。優しく温かく、労わるように内部から全身に熱を与えられた。 4「城下町でまたいざこざが起こっているだと?」「はい。今回は負傷者も多数出ているようで教会からも支援が来ています。いかがなされますか?」 警備隊の一人がゼリゼの元へ知らせがきたのは、今から夜食につこうかという少し遅い時間帯だった。 夜間に起きた事は次の日に対応しているのだが、今回は内容が内容だけに行かざるを得ない。 ゼリゼはハァーと大きくため息をついた。「またアイツらの企みじゃないだろうな?」 面倒臭そうにゼリゼが舌打ちする。 もしそうならゼリゼが居なくなったのを見計らってまた玲喜に絡みに来るだろう。そう思うと玲喜は苦笑せざるを得ない。ゼリゼは腕の中に玲喜を囲った。「それならオレも連れて行ってくれないか。怪我人いるんだろ? オレはゼリゼと一緒に居たい」 治癒能力を持つ玲喜が居ればゼリゼとしても助かる。 しかし教会の連中も来ているとなれば、逆に玲喜を危うい立場に追いやる事になってしまう可能性が高い。ゼリゼは究極の選択を強いられているような気分だった。「なら、易者のように目元だけ出るように変装してみては如何でしょう? ヴェールが取れた時用に、魔法で髪型や色を変えておけば二重変装みたいにも出来ますし、アーミナにも同じ格好をさせれば目眩しにもいいかと。それに玲喜なら詠唱破棄して回復術をかけられるようなので、私やゼリゼ様で玲喜の周りを囲って見えないようにして、治癒魔法を使うという手もありますよ。もし玲喜だけを此処に残されて行くとなれば、マギル様とジリル様は確実に現れると思いますし」 額に左手を当てて考えていたゼリゼだったが、ラルの意見に賛同するようにやがて頷いた。 魔法で髪色や髪型を変えて服も易者風になるように着替えた玲喜とアーミナ、ラルとゼリゼは兵士たちを従
last updateLast Updated : 2025-07-31
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そういうメッセージはやめろっ

  *** 城へと戻ってきていた玲喜はラルとアーミナの三人でゼリゼの部屋に居た。 玲喜がソファーに腰掛け、二人は立っている。 マギルとジリルを助ける為だったとはいえ、あの人数の前で魔法を使用したのは迂闊としか言いようがなかった。 今までゼリゼやラルが己を隠そうとしてきた行為を無駄にしてしまったのだ。 玲喜は落ち着いた今になって、己のした事を考えて気落ちしていた。 中には勘付いた者もいるだろう。だとすれば言及されるのも時間の問題だった。「ごめん、ラル。オレ言われた通りに大人しくしていられなかった」 項垂れて肩を落とした玲喜に、ラルは表情を崩して柔らかく微笑みかける。「玲喜のおかげであの二人を始め近くにいた方々は助かったんですよ。落ち込むところじゃありません」「そうですよ。玲喜様のおかげで皆んな助かりました!」 二人からの言葉に少し救われた気がした。 それでも今まで通りに動けなくなるのは必須。城内で行ける場所も限られて来るだろうと容易に予測出来た。 ふいに居ない筈のゼリゼの気配がして、帰ってきたらのかと玲喜が顔を上げる。 何もない空間に突如明るい紫色の炎があがり、濃い黒色の文字が浮かんで大きさを整えながら一つずつ形が順序よく揃っていく。 他に読み取られないよう考慮したのか暗号化されているようで、表示に時間が掛かっているようだ。文字が前後左右に行ったり来たりを繰り返している。『皆を助けてくれた事に感謝する。お前が居なかったら被害は深刻なものになっていた。今から帰る』 ゼリゼからのメッセージを読んで、玲喜は嬉しくて胸の奥が温かくなった思いがした。「ほら、ね。ゼリゼ様も同じ事を思っていらっしゃいます」「うん。ありがとう」 それからメッセージが崩れたかと思いきや、また形を変えて纏まっていく。『帰ったらもう一人孕むくらいにはお前を抱く』「……」「……」「う……うわーーーっ!」 無言でメッセージを見つめるラルとアーミナの視界からメッセージを消すように、玲喜は叫び声を上げて立ち上がると空に浮かぶ文字を腕で振り払って消した。 ——さっきの感動を返せ! 玲喜は怒りやら恥ずかしいやらで眩暈がしてくる。 まだ易者の格好をしていて良かったと心の底から思った。 フードを引き下げて深く被り直し顔を隠す。今はとてもじゃないが二人の顔を見れ
last updateLast Updated : 2025-07-31
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大人数の夜食と双子のイタズラ

「口に合わなくても知らないからな」「玲喜が作るものなら何でも食べるぞ」「食べる~」 アッサリと言うものだから、玲喜は呆れ口調で尋ねる。「お前らな、もしオレがスパイとか暗殺者《アサシン》だったらどうするつもりだよ」「いいぜ? いつでも殺しに来い。そしておれと一緒に死ね」「ちゃんと僕を殺してね~」 即答で返って来た予想外の答えに玲喜の方が戸惑ってしまった。そして二人が追加された夜食が始まる。「玲喜、お前らが持ってるもん何だ?」 マギルが箸をジッと見つめていて、玲喜は「ああ、箸って言うんだ」と簡単に説明した。初めて会った頃のゼリゼを思い出して思わず笑う。 ゼリゼは今ではもう完璧に使いこなしているので、二人に向けて得意気に鼻を鳴らして笑った。「おれらのも寄越せ」「これは玲喜のいた国にしか売っていない」 表情一つ崩さずに嘘をついたゼリゼの足をコッソリ踏みつける。「ゼリゼ、意地悪はダメだ」「…………悪かった」 とうとうラルとアーミナが味噌汁を噴いて横向きに倒れた。 先程からの様子を考えると、暫く放って置いた方がいいだろう。 玲喜はラルとアーミナを横目に見て、二人に予備の箸を出すと使い方をレクチャーする。ぎこちなさも新鮮で良かった。 ふと視線を感じて、玲喜は廊下に続く物陰をジッと見つめる。 そこにはどこかバツが悪そうにしているシェフと料理人たち三名がいて、玲喜は目を瞬かせた。 ——ああ、だから材料が多かったのか。 納得した。「玲喜様、あの……」 もしかしたら場所を話してしまったから解雇されるのを覚悟で来たのかも知れない。そんな雰囲気だった。 玲喜はあえて気が付かないふりをして言った。「ちょうど良かったです。作り過ぎてしまったので、皆さんもご一緒にどうですか? オレは料理専門じゃないんで、皆さんのように高級なものは作れません。お口に合うかどうかも分からないので申し訳ないんですけど……」「え……いえ、わたくし達は」「皆んなで食べた方が美味しいですし」 遠慮されるのは分かっていたので、玲喜は先手を打つようにゼリゼたちに向かって尋ねる。「いいだろ、ゼリゼ? マギル、ジリル?」「玲喜がいいなら構わん」「以下同文」 ゼリゼに続いてマギルとジリルが口々に賛同する。 シェフ三名は戦前恐々としながらも皆席についていて、今日は大人
last updateLast Updated : 2025-07-31
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悪夢と体調不良

「ふーん、王様側だとまた別の能力もあるって事なのかな。ゼリゼも同じなのか?」「俺には魔力しかない。王側だろうな。だが俺たちは生まれてから一度も面と向かって王にも皇后にも会った事がない」「え、そうなのか?」 それには驚かされた。 王族だと当たり前の事なのだろうか。思案していると、神妙な顔つきでラルが口を開く。「昔はそんな事なかったんですけどね……いつからか誰とも顔を合わせなくなってしまい、王族同士の謁見さえ滅多に許しが降りなくなりました」「え、ラルって王族だったのか?」「ふふ、元ですよ、元」 この中で一番年上のラルが言うのだから間違いないだろう。 それ以上踏み込んで聞いてしまうのは憚られ、話は別の話題へと移っていき、朝からまた調理人たちを巻き込んで大人数での会食になった。 *** そんな平穏な日々が続いたのは一週間くらいだった。 玲喜の体調が急に悪くなり、ベッドから起き上がれない日が続いているからだ。 あまりにも酷いので秘密裏に協力を仰いだ産婆と医者を呼び寄せるも、もう時期良くなるだろうと言われ、辛抱している状態だ。 だが、この頃から玲喜は妙な夢を見る事が増えていて、夜中に目覚めた試しなどないと言うのに毎日のように起きている。そしてまた今日も飛び起きていた。「はっ、は……」 短い息を何度も吐き出してから、気持ちを落ち着けるように深呼吸する。 ——夢なのに、気分が悪い……。 血に濡れた己の手に見た事もない銀色の短刀が握られていて、床には見知った皆が倒れていた。 手に残る感触がやたら生々しくて、今すぐにでも手を洗いたい衝動に駆られる。 短刀で誰かを傷つける等、そんな事したいと思っていないし、周りに望んでもいない。 寝汗が凄くて、玲喜はゼリゼを起こさないようにソッとベッドを降りると新しい寝着に着替えた。 しかも一度夢を見て起きてしまうと眠れなくなってしまう。 こう何日も同じ日々が続くと、やがて寝不足が続くようになった。 そのせいで日中も常に睡魔と戦っている状態となり、悪循環に陥っている。「玲喜はまだ具合悪そうなのか?」「お見舞いくらいさせてよ~」 玲喜が夢と現実の狭間でうつらうつらしているとマギルとジリルの声が聞こえてきた。「やっと寝た所だ。せめてもう少し玲喜の具合が良くなってからにしろ」 ゼリゼが端的に説明し、皆
last updateLast Updated : 2025-07-31
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セレナのこと

「わたくしは以前セレナ様の専属の料理人だったんです。セレナ様は幼少期から王族にはあまり良い扱いはされておらず、いつも一人でいらっしゃいました。セレナ様も玲喜様のように一人で食事をするのが嫌だからと、駆け出し中だったわたくし達料理人も毎回一緒に誘ってくださいました。とても人情味があって温かく、こちらまで笑顔にさせて下さる不思議なお方でした。城下町ではとても人気者だったようです。玲喜様を見ているととても懐かしくて……。それでいつしか今の玲喜様のように体調を崩されまして、先程のお飲み物を好んで口にしていらっしゃいました。あの……それがご懐妊によるものだと気がついたというのもあるんですが。母が年の離れた弟を身籠った時もそうでしたので。あ、もちろん玲喜様の事は内密にしております。誰にも話しておりません!」 シェフと別れ、ラルはゼリゼよりも先に執務室に向かっていた。頭の中で先程言われた事を反芻する。『お腹にいる当初の診断は双子だったのですがいつからか不思議な事に胎児は一人になっておられました』 そんな事、あり得るのだろうか。診断を誤ったというのも考えたが、ラルは何だか妙な胸騒ぎを覚えていた。 一方、一度部屋に戻ったゼリゼはシェフが作ったシャーベット状の飲み物を玲喜に届けていた。玲喜はそれを受け取り、ストローで少量を吸い込む。「美味、しい……! これならいくらでも飲めそうだ!」 レモンとグレープフルーツ、オレンジの酸味と自然の甘味が程よく混ざっていて砕けた氷と混ざり、喉越しも良く飲みやすかった。 熱く重苦しかった胃の中も冷たくて気持ちが良い。 数日間何も口にできなかった玲喜の瞳が輝く。水を得た魚のようにどんどん飲み干していく玲喜を見て、安心したようにゼリゼが笑んだ。「安心した。これなら飲めるかもしれないと思い、元になった果実から全て作ったらしい」「へ? 誰が?」「シェフだ。お前の体調をとても気にしていたぞ。また作るように言っておく。元気になった時にでも礼を言うと良い」「そうなんだ。嬉しい。また一緒に食事も出来るといいな」「落ち着いた時にでも声を掛けてみろ。玲喜が誘った方が喜ぶだろう」 表情を綻ばせながらゼリゼに頭を撫でられて、玲喜も笑んだ。 日本からこの帝国に転移してからゼリゼの笑顔が増えた。 朝から夜までバイトに明け暮れて家に居なかったので、単
last updateLast Updated : 2025-07-31
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そして皆寝てしまった……

「ならもういい。用済みだ。俺は今からまた仕事に戻るから帰……「ちょうど良かった玲喜。おれ最近寝れてないからお前一緒に寝ろ」」「わ!」 ゼリゼが言い終わらない内にマギルが言葉を連ねて、そのまま玲喜をベッドに押し倒す。便乗して右側にはジリルが転がって、玲喜は両側から双子に挟まれた。「え?」 唐突すぎたので玲喜も対応出来ずにいると、ゼリゼがムッとした表情で声を荒げる。「おい! お前ら寝るなら部屋にかえ……」 その言葉さえも最後まで発せなかった。 ほんの数秒で二人の寝息が聞こえてきたからだ。「はっ?」 流石のゼリゼも驚いたのか、珍しく間の抜けた声を上げていた。「あ、もしかしてオレの回復魔法また自動で回ってる?」「いや……分からん。あれはお前と一緒に寝てみて初めて分かるからな」 双子の頭の下から引き抜いた腕をゼリゼに伸ばしたが、ゼリゼがそのまま横向きに倒れて玲喜を腕枕にして寝た。「は?」 今度は玲喜が間の抜けた声を上げるはめになる。 ゼリゼからも安らかな寝息が聞こえてきて焦った。 双子はどうか知らないが、ゼリゼに限ってはあり得ない話だ。 ——何だこれは。何が起こっている? 玲喜は本格的に動けなくなってしまい、途方に暮れる。「ゼリゼも寝たとか、嘘だろ……」 最近体調が悪くて自動で回っていた筈の回復魔法が機能していなかったせいで強度が倍増しているのだろうか? 逡巡する。 答えは出なかったが、そうとしか思えなかった。 確かにシェフ特性のシャーベットを飲んでからは嘘のように体調が回復したが、自分でも気が付かない内に弱っている体に自己回復魔法を回し始めているのかもしれない。 左腕の近くにマギルの頭、右腕の近くにジリルの頭、右腕の上にゼリゼの頭があって腕が胸の上に乗せられている。「え、ええ~……。オレいつまでこのままなんだ?」 玲喜の嘆きが空にとけていく。 一時間後に数回のノックと共にゼリゼの部屋の扉が開けられる。「ゼリゼ様、そろそろ宜しいでしょうか?」 時間がかかり過ぎているのを疑問に感じたラルが様子を見に部屋に入ってきたのだ。 玲喜は涙目で助けを求めた。「ラル……っ、助けてくれ」 大男三人に挟まれて乗っかられるのは余りにも辛すぎた。 揃いも揃って寝相が良く、腹の上に乗っかられたり蹴られたりしなかったのが唯一の救いだった
last updateLast Updated : 2025-07-31
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事態が急変する時

  ◇◇◇ 全員部屋を出て行ってからは、玲喜の気分は以前のように良好になっていたので気分は上々だった。 何故あんなにも気分が悪かったのか逆に不思議になるくらいで、玲喜は気分転換も兼ねてシャワールームに向かった。 出て来ると部屋の扉をノックされる音がして、声が掛かるのを待ってみたが誰の声もしなかった。 首を傾げる。 ゼリゼが造った魔法壁がありはするが、玲喜は自分の首元に誰かの手が掛けられているような妙な違和感を覚え、声を出すのは戸惑われた。 ラルやアーミナ、ゼリゼであるならば、今は魔法壁に認証させている人物なのですぐに通り抜けられる仕組みになっているので直ぐに入って来られる。 入って来られないという事は、予期せぬ来訪者を意味していた。 ——誰だ……?「レキ……サ、マ」 妙に音が篭ったような声音だった。 しかも淡々とし過ぎていて人の気配が全くしない。 性質の良くない機械に録音した音を再生しているのかと疑いたくなるくらいで、怪しさしか伝わって来なかった。玲喜は眉間に力を込める。「レ……キ、サ……マ」 また名を呼ばれた。「レキ、サ、マ……レ……キ……サマ」 こうも続くと気持ち悪くて、早くゼリゼが帰って来ないかと玲喜は掛け時計を見上げる。 もし帰宅がいつも通りなら後二時間は帰ってきそうにない。 突如、ドンと強く扉を叩かれた。 というよりも扉に向けて体当たりでもしているような音が響いて、玲喜は思わず身を竦ませる。 ——何だよ、気持ち悪いな……っ。 まるで質の悪いストーカーにでも遭っているような心境だった。 また何度も続けて大きな音が響く。部屋だけではなく遠くまで聞こえていたようで、何人かの警備隊が駆けつけてくる足音と声がした。 ホッと安堵の吐息をつく。しかしそれも束の間で、今度はその警備隊たちの叫び声が聞こえてきた。「え……、何?」 扉の向こう側で、何かが起こっている。 玲喜はまだ文を暗号化する方法は分からない。 が、尋常じゃない事態に陥っているのは明らかだった。 もしかしたら、この部屋に張り付いている誰かに読み取られてしまう可能性はあったが、ゼリゼに現状を伝える為に急いで文を飛ばした。「イタ、ァ……アアーー」 やはり読み取られてしまったみたいだ。 声と共に扉の下に刃物の切先らしき物を差し込まれる。「——ッ‼︎
last updateLast Updated : 2025-07-31
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真実は酷なものだった

 ***「うわ! て……あれ?」 目が覚めた玲喜は何故か城下町の裏路地に横たわっていて、慌てて体を起こした。 ゆっくりと瞬きする。 体を動かして刀の切先が刺さった部分を手で触ってみたが、怪我をしていなければ痛くも痒くもなかった。 ゼリゼがくれた指輪も無くなっている。 ——どういう事だ⁉︎ 白昼夢でも見せられていた気分だ。 だが、城外に出た記憶はない。 玲喜は何が起こっているのか理解が出来ずに周りを見渡した。すると逆光となって人影が近付いてくるのが分かって身構える。 頭上から覆い隠された衣装を見て易者なのだと分かった。 易者は乱暴に己のフードを取り除き、どこか呆れたように玲喜を見つめている。 褐色肌と黄色の瞳を持つ易者は、以前にゼリゼとラルの三人で出掛けた時に声を掛けてきた人物だった。 声音や話し方から推測して、少年だと思っていたが、曝け出された素顔は十八歳くらいの少女だった。「だから気をつけてって言ったじゃないの。貴方の魔力があの人に渡ったら、この国どころか日本も消えちゃうわよ。その前にあの皇子様たちは守ってもくれなかったの? 何て役立たずな……っ! ああ、もう。こうなるなら初めっからバカップルに遠慮せずにアタシが貴方に張り付いてれば良かった」 癖っ毛の短い髪をかき混ぜ、独り言のように一気に囃し立てた少女は、腕組みをして玲喜を見下ろす。「あの時の易者が……どうしてここに?」 状況が飲み込めない。 ——本当に何が起こっている? 何をどう問いかけて良いのかも迷うくらいで、玲喜はただ呆然と易者を見つめるしか出来なかった。 それにフードを取った瞬間声と喋り方が変わったからまた驚きだ。 ——何で声まで変わったんだ? こんな魔法もあるのか? 元々中性的ではあったが、見た目同様少女の声になっていた。 喋り方はどうとでもなる。本来は今のような口調なのだろう。「とりあえず時間がないから必要なとこだけ伝えていく。アタシは元々日本にいた妖《あやかし》なの。魔力はないけど妖力はある。貴方の気配は独特だからすぐ分かるのよ。それにセレナにそっくりだからね。アタシにとっちゃ霊体になった貴方を見つけるのなんて、魔物や人を探すより簡単。でもこの国の人間は、魔物は見えても霊体は見えないの。本当に困ったわね。アタシだけに見えても仕方ないもの。どうやって説
last updateLast Updated : 2025-07-31
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