今日は休みの日で、レナータはスアレスさんに計算の仕方や、書状の書き方を王都の図書館で教えていた。あの日から、スアレスさんは何度断っても、勉学を教えてと頼んでくるので、根負けして教えることにしたのだ。もちろん、女官同士のトラブルに巻き込まれないように、あらかじめ対策は取ってもらっている。「なるほど。レナータの教え方ってとてもわかりやすいよ。僕は何度も教育係に教えてもらったのに、全然ピンと来なかったんだ。だから、書状の書き方で躓いて、みんなに仕事ができないって思われてて、ずっと悔しくて、でも、どうにもできなくてずっと悩んでた。そんな時でも、他の令息達が僕は仕事ができないって言ってる声だけは聞こえて来るんだよね。平気なフリをしていても、本当に辛かった。」「そうなの?スアレスさんは周りの方々とも馴染んでいるように見えていたから、そんな風に思えなかったけれど、大変だったのね。」「ああ、心に鎧まとって、気づかないフリしてた。」「そっか。まあ、私も似たようなものよ。勉学に励もうとすると、女のくせにとか、黙って手伝いでもしろとか、散々言われたわ。でもね、子供の頃、一人だけそんなに頭がいいのなら、王宮で一緒に働こうって言ってくれた人がいるの。だから、諦めないで勉学に励んだし、女官になる試験を受けたのよ。」そう言って、私はそっとしおりを取り出してスアレスさんに見せた。それは、この王国の象徴である鷹が描かれた細長い紙だった。そのしおりを見るといつも彼を思い出す。小太りの男の子、トール。「その一緒に働こうって言った人には会えたの?」「ううん、いないわ。トールって言うんだけど、ここにいる貴族令息達はみんなシュッとして筋肉質よね。武術も貴族の嗜みとして重視されるから。彼はどちらかと言えば、ポヨンとした体型だったの。」「レナータはぽっちゃりした感じがタイプなの?」「ふふ、別にタイプってわけじゃないわ。その子とも恋をしたわけじゃなくて、友達とか仲間みたいな感じだったから。きっと、武術が得意じゃなくて、違うところで働いているのね。それどころか、そもそも、貴族じゃないのかも。だって、養護院にいた私に王宮での仕事を勧めるくらいだから、貴族でなければ、王宮で働けないって知らなかったんだと思うわ。」「その人のことが特別じゃないなら、僕と結婚を
Last Updated : 2025-07-14 Read more