病院のVIPルームで、心美は荻原宗太の胸に寄りかかっていた。腕に残った浅い傷を見せつけ、彼に慰めを求めているところだった。その時、宗太のスマホが震えた。和沙からのメッセージだ。なぜか嫌な予感がした。彼はメッセージを開くと、その内容に息が詰まった。別れよう?和沙が、別れを告げてきた?宗太の顔色が一瞬で青ざめ、すぐに和沙の番号に電話をかけた。だが、耳に届いたのは冷たいアナウンス音声だった。「おかけになった電話番号は……」何度かけても、結果は同じ。次第に「接続できません」という表示に変わった。彼は震える手でLineを開き、SNSやメール、あらゆる手段で連絡を試みた。しかし、すべてが「送信失敗」つまり、和沙は、自分のすべての連絡手段をブロックしたのだ。かつて感じたことのない焦燥が一気に彼を襲った。「宗太?どうしたの?顔が真っ青よ」心美が異変に気づいた。だが宗太は、彼女をぱっと突き放し、そのまま立ち上がった。「どこ行くの」心美は慌てて彼の服の裾を掴んだ。「悪い、急用だ」その声は、これまでにないほどの苛立ちを帯びていた。「宗太!今日は私の誕生日よ。一緒にいてくれるって言ったじゃない」彼は、まるで聞こえていないかのように部屋を飛び出していった。車を運転しながら、彼の頭の中はぐちゃぐちゃだった。和沙が、本当に自分のもとを去るなんて、そんなこと、これまで一度も考えたことがなかった。彼女は自分を愛していた。自分のために、どれだけの噂に耐えてきたことか。6年間も隠れて恋人でいると甘んじて、どうして突然いなくなる?家に着くと、宗太は無意識のうちに和沙の姿を探していた。でも、いつも飲んでいたマグカップも、履き慣れたスリッパも、彼女の気配を感じさせるものが何一つ残っていなかった。和沙は、本当に出て行ったのだ。彼はよろよろとベッドルームに入って、そのままベッドに倒れ込んだ。思い出されるのは、彼女の顔ばかり。あの晩、泣きたいのを必死でこらえて自分に問い詰めてきた彼女。階段から転げ落ち、血まみれで絶望の眼差しを向けてきた彼女。彼は横になったまま、手を伸ばし、彼女がいつも寝ていた場所を探る。枕を抱きしめ、強く鼻から息を吸い込んで、彼女の残り香を感じようとした。
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