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第15話

Author: ムギちゃん
宗太は、逃げるように自宅へ戻った。この空間には、まだほんのりと和沙の残り香が漂っているような気がした。

この家の至るところに、二人が愛し合った記憶が刻まれている。

幾度も重なり合った夜。

今では、がらんとした部屋だけが残されていた。

胸の奥の穴が日に日に大きくなり、息すらままならないほど痛む。

胃が痛い、お粥……

どうして、そんな言葉が自然に口から出たのか。

その瞬間、ある真実が脳内で爆発した。

これは習慣でも、哀れみでもない。ずっと気づかないうちに、彼女に心を奪われていたのだ。

彼は、和沙を愛してしまっていた。

ポケットのスマホが激しく震え出す。心美からの着信だった。

彼は出なかった。

数分後、心美からメッセージが届いた。

【宗太、今日は私の誕生日よ!来ないなら、私たちは本当に終わりよ】

彼はその画面を無感情に眺め、そのまま電源を落とした。

宗太はソファに力なく座り込み、いつから自分が和沙を好きになっていたのか思い返そうとした。

愛を自覚した瞬間から、襲いかかってきたのは底なしの苦しみだった。

彼は和沙に、一体何をしてきた?

それから数日間、宗太はまるで幽霊のように家に引きこもり、一歩も外に出なかった。

考えたくなくても、頭の中に浮かんでくるのは和沙の顔ばかり。

三日後、一本の特急調査報告が彼の元に届いた。

封筒の口元に手をかけたまま、彼の指はしばらく動かなかった。

開けるのが怖かった。

もしもし和沙の資料が本当なら、自分がこの数年彼女にしてきた仕打ち、侮辱、報復は、何だったのか。

愛する人を、自ら地獄に突き落としたのか?

その罪を、どう償えばいい?どう彼女の前に顔向けできる?

けれど、もし彼女の父が本当に犯人だったとしたら?自分は、仇の娘に恋をしていたことになる。

それで亡き兄に、どう顔向けする?

どちらの結果にしても、彼には受け止める覚悟がなかった。

長い沈黙のあと、彼は深く息を吸い込み、震える指で開けた。

次々と取り出される資料、録音ファイル……そのすべてが、はっきりと真実を告げていた。

和沙の残した証拠はすべて本物だった。

翔真は、無実だった!

事故当時、翔真は娘の負傷で病院にいた。

あの目撃証人は、金を受け取り偽証したことを認めた。浜崎家が買収し、後に恐怖から証言を翻したのだ。

本当に
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