翔太は拒むことなく、すぐさま車を走らせ別荘へと戻った。別荘はひっそりと静まり返っており、その時初めて、彼はリビングから多くのものが消えていることに気づいた。壁に飾られていた結婚写真はなくなり、テーブルの上に毎日飾られていた生け花も消え、所狭しと並んでいた装飾品の本棚までもがらんと空っぽになっている……翔太の本だけが孤児のようにぽつんと残されていた。一瞬、翔太は現実感を失った。いつも穏やかに彼の影のように寄り添っていた梓が、本当に去ってしまったようだ。雪乃はリビングを眺めながら満足げに言った。「いいわね、ガラクタを全部捨ててくれて。翔太、買い物に行きましょう。この家を素敵に飾り立てるために、たくさん買い物しなくちゃ」雪乃は上機嫌で、早くもこの空間を自分好みに変えることに胸を躍らせている様子だった。翔太は興味なさげに雪乃を軽く押しのけ、カードを一枚取り出して渡した。「先に行ってくれ。俺には用事があるんだ」「そんなに大事なの?」雪乃は不機嫌そうに尋ねた。「ああ」翔太はうなずいたが、心には一片の喜びも湧いてこなかった。雪乃が去ると、彼はぐったりとソファーに沈み込んだ。全身の力が抜けていくようで、広々としたリビングには何の活気もなく、彼はとても違和感を覚えた。翔太は電話を手に取り、梓の番号をダイヤルしたが、相変わらず電源オフのままだった。眉をひそめながら、彼は相変わらず高圧的な口調でメッセージを打った。「梓、今すぐ戻ってこい。これまでのことは全て水に流してやる。離婚の件も問わない」メッセージはずっと既読にならないままだった。翔太の胸は一瞬、ざわめいた。梓は本当にいなくなってしまったのだ……その考えが、彼に理由もない苛立ちを呼び起こした。彼はネクタイを引っ張って外すと、梓とのメッセージのやり取りを何度も何度も見つめた。ほとんどが梓からの一方通行のメッセージばかり。梓は彼好みの女性像を完璧に演じていた。騒ぎ立てず、わがままも言わず、定型文のように彼の三食を気遣い、残業時には食事を忘れぬよう注意し、寒さが訪れれば上着を勧める。彼女が共有する喜びでさえ、ことごとく彼の趣味に沿ったものばかり。まるで彼だけが彼女の世界の全てであるかのように、全ての感情と愛情を彼に注いでいた。「梓はどこにも行かないはずだ」
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