翔太が彼女に戻ってほしいと言うなら、とりあえず戻ろうと梓は思った。その日、彼女はさっさと荷物をまとめ、空港へ向かった。元基に「自分の問題を片付けたら、必ずあなたの所へ行くから」とメッセージを送った。梓が手荷物検査を済ませ飛行機に乗ると、隣から懐かしい声が聞こえた。「梓、僕から逃げようだなんて、そうはいかない」元基がニヤリと笑いながらそこに座っていた。梓はまばたきすると、自然と彼の隣に腰を下ろした。飛行機が江崎市に着陸すると、嗅ぎつけた記者たちが出口をふさいでいた。カメラを乱暴に構え、狂ったようにシャッターを切っていた。フラッシュの嵐に、梓は目を開けていられなかった。元基は彼女を自分の懐にしっかりと抱きかかえるように護りながら、空港を出た。楚山夫人が梓を家に迎え入れたが、記者たちも追いかけてきた。玄関先で待ち伏せるように立ち塞がっていた。「楚山さん、本当に不倫していたのですか?」「結婚してから夫婦生活がなかったそうですが、それが原因で不倫に走ったのでしょうか?」「藤原社長は待つと言っているが、戻る気はありますか?」楚山夫人は聞いていられず、記者を追い払おうとしたが、梓は首を振り、自ら外へ出ていった。「翔太も私も、結婚中に不倫はしていません。あなたたちの言う通り、私たちには夫婦生活がありませんでした。だから別れたのです。これが事実です。あなたたちが信じようと信じまいと、どうでもいいことです」梓はきっぱりと言い放ち、もはやセックスレス結婚を恥じることはなかった。一同は騒然となった。「藤原社長は男としてダメなんですか?」「本当かどうか、試してみればいいじゃないですか?覚悟があるならね」梓は軽く笑い、カメラに向かって続けて言った。「翔太、あれだけのことをしたのは私を戻させたかったんでしょ。戻ってきたわ、話そう」翔太は梓のインタビューを見て、彼女の泰然自若とした態度に不思議と不安を覚えた。彼女はもう何も恐れていないようだった。梓は翔太を喫茶店に呼び出した。翔太が彼女とデートした唯一の場所がここだった。彼女はコーヒーを啜りながら、翔太を観察していた。翔太はうつむいてスマホで仕事の処理をし、時折雪乃へのメッセージにも返信していた。「遅刻ね」梓は翔太に自ら声をかけた。「無糖のアイスアメリカーノ?それとも冷水?
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