ホテルに宿泊していた義彦は、一晩中、悪夢にうなされた。夢の中で、茜が姿を消し、彼は血眼になって探し回ったが、どこにも見つからなかった。絶望の果てに目覚めた時、枕は滲む汗で濡れていた。だが、目を覚ましたところで、この悪夢は終わってはいなかった。義彦は重い身体を引きずるようにベッドから起き上がり、無言でタバコに火をつけた。カーテンの隙間から射し込む朝靄の淡い光が、白い煙と混ざり合いながら部屋の中を漂い、どこかくすんだ空気を生み出していた。背をベッドにもたせながら、彼は思いを巡らせた。どうして、ここまでこじれてしまったのか。いつから、こんなことになってしまったのだろうか。思い返せば、すべての始まりは八年前。英里が優香を連れて海外へと渡った。義彦と優香は幼少の頃から姉弟のように育ち、当然、その別れは辛かった。彼は何度も「行かないでくれ」と懇願した。だが当時の優香は、M国の暮らしに強く心惹かれていた。未知の世界に夢を抱き、目の前のすべてが新鮮に映っていたのだ。失意の中、義彦は長らくふさぎ込んでいた。そんな彼の前に、茜が現れた。彼女は内面も外見も美しく、いつも落ち着いていて、穏やかな声で話しかけてくれた。次第に、二人の距離は自然と縮まっていった。そこに生まれたのは、言葉にし難い曖昧な空気だった。だが当時は高校三年生。誰もが受験に追われる日々で、たとえその視線がどれほど情熱であろうとも、関係を明確にするには至らなかった。やがて大学入試の結果が発表され、義彦は帝大の合格通知を受け取った。入学手続きの前に、彼は茜のいる街へと向かった。あの日は激しい雨が降っていた。全身びしょ濡れになりながら、義彦は茜の家の前に立ち尽くし、まっすぐに彼女を見つめて言った。「茜、遠距離恋愛でもいいか?」帝都第二高校から転校して戻ってきた茜は、初恋が叶わぬまま終わるものと思っていた。まさか、義彦が自分を探してここまで来るとは、夢にも思っていなかった。だからこそ、義彦の姿を見た瞬間、彼女はすべての迷いを捨てた。「うん。遠距離でも、大丈夫」「じゃあ、彼女になってくれ......茜、好きだ」その場で義彦は茜を抱きしめた。そして心の中で、固く誓った。この人を、一生守る。どんなことがあっても、傷つけたりはしない、と。その後、義彦は帝大
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