産婦人科の病院で、絶対に一生忘れられない人影を見た瞬間―― その場から一歩も動けなくなった。体中の血が逆流して、心臓が張り裂けそうだった。腹に刃物が突き刺さったあの痛みは、今でも脳裏に焼き付いている。 あの時、「君が心配だ」って泣きながら抱きしめてくれた男は、今―― 元凶を優しく抱きしめて、彼女のお腹にそっと手を添えていた。遠く離れていても、彼から溢れ出す父性愛がはっきりと伝わってくる。私が救いだと信じていたこの結婚は――ただの茶番だった。「永遠に味方だよ」と言ってくれた両親は、私に黙って証拠を処分し、湊翔に無理やり結婚させた。 それも全部、彼らの実の娘を守るため。 故意に人を傷つけたとしても、刑務所に行かせないように。……笑わせないでよ。私は必死に湊翔の視線を避け、震える手に持ったスマホに視線を落とした。 画面が光り、両親からの着信が表示されている。着信音の急かすような響きが、向こうの焦りを物語っていた。 深呼吸して、心を落ち着け、通話ボタンを押した。「結菜、どこにいるの?執事が言ってたのよ、昼間に家を出たって……もしかして病院? ダメじゃないの、あれほど言ったのに、あなたの体は弱いんだから、外出する時は誰かを連れて行きなさいって。 もし何かあったら、私たちどうすればいいのよ?」手入れされた爪が手のひらに食い込み、私の意識が現実に引き戻される。このタイミングでの電話。 私の体を本当に心配しているのか? それとも、真実を私に知られるのが怖いだけ?「結菜、父さんの声聞こえてるか?今どこにいる? 母さんと一緒にもう病院に来てる。すぐに向かうからな」優しい声が、鋭い刃のように胸に突き刺さる。少し考えてから、私は努めて穏やかに答えた。「婦人科のトイレにいるよ。そんなに焦らなくても大丈夫、ちょっと検査に来ただけだし、大ごとになるわけないでしょ。それに、私もう子供じゃないんだから、いつまでも迷惑かけてられないよ」わざと軽く言ってみせた言葉に、電話の向こうで安堵の息が漏れたのがわかった。数分後、母がトイレに駆け込んできて、私の体を上から下まで見て回った。「何もなかった?検査はしたの?」伏し目がちなまつ毛の奥に、不安が滲んでいる。 そしてさっき、慌ただ
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