郁梨はソファのクッションを次々と掴み、力任せに承平へ投げつけた。承平は一歩も動かず、避けようともしなかった。ただ、彼女に思う存分ぶつけさせた。すべてを投げ終えたころ、承平は静かに彼女のもとへ歩み寄り、その肩をそっと掴んだ。「郁梨、お前がどれだけ悔しい思いをしているか、わかってる。ちゃんと補償する。『母なる海』の撮影が終わったら、お前のために一本映画を作るよ。お前だけの主演作を、な?」郁梨は彼を見つめ、かすかに笑った。笑いながらも、目の奥には止めようのない涙が溢れていた。この男は、どうしてこんなにも残酷なのだろう。本当に、心なんてあるの?「承平、私が間違ってた。本当に、どうしようもないくらい間違ってたの」彼なんか、愛すべきじゃなかった。最初から、こんな人を愛してはいけなかったのに。「何を言ってるんだ、郁梨。そんなこと言うなよ……怖がらせないでくれ」今の郁梨の様子が、承平の胸をざわつかせた。彼にはわかった。自分がこれまでしっかりと握っていたはずの何かが、今まさに指の隙間から零れ落ちていくのを。もう、二度と掴めないものを。承平は郁梨の肩に置いた指先に、無意識のうちに力を込めた。郁梨はまだこぼれていない涙を手の甲で拭い取ると、二歩ほど後ろへ下がり、彼の手から逃れた。「郁梨……」「譲らないわ!」郁梨は怒りに燃える瞳で承平を見据え、声を震わせながら言い放つ。「承平、あなたのやり方で私を降ろしてもいい。でも覚えておきなさい、これは私が清香に譲ったんじゃない!私は『母なる海』には出ないし、あなたの言う私のための映画なんて受け入れない!」「郁梨、そんなに意地を張って何になる?」「何にもならないわ!折原グループの社長に逆らって、私に良い結果なんてあるはずない。でも、それがどうしたの?もう何も持ってない。それこそ、あなたが望んでたことでしょ?」「違う、俺はお前を追い詰めようなんて思ってない!」「じゃあ何がしたいの?清香はどうしてそんなに特別なの?なんでよりによって、私が出る『遥かなる和悠へ』を欲しがるの?承平、あなたはあの女が私を侮辱しても、何度も何度も黙って見逃してきた。そんなに彼女を愛してるなら――どうして私を放っておいてくれないの!」「言ってないだろう、俺が彼女を愛してるなんて……彼女とは、お前が思ってるような関係
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