「──あの、簡単なものなら作れるので、朝食だけでも僕に用意させてもらえますか?」 「朝はコーヒー以外口にしないが……」 「それじゃ健康に良くないです。一日の始まりには体に優しい食事が必要です。せめて、これくらいはさせて下さい」 「……勇人がそう言うなら、断る程の理由もないから構わないが。ただし、疲れてる時は絶対に無理するなよ?」 「分かってます」 頷いてもらえて、少しほっとする。 ──晩酌するなら、朝は体をリセット出来るもので始めないと。 勇人は気を取り直して、父親と暮らしていた頃の経験から献立を考え始めた。 簡単に作れて、口にしてもらいたい物なら、いくつか思い当たる。 ──これで優和さんが喜ぶかは分からないけど。 心は知らないが、肝臓になら喜ばれるはずだ。 「そうしたら、必要な物の買い出しですね。あ、今夜の夕飯は僕に作らせて下さい。作りたい物があるので」 「いやに意欲的だな。──近くにショッピングモールがある。そこで間に合うか?」 ──モールで良かった、庶民に甘くないタイプのデパートじゃない。 「はい、大抵は揃います」 「なら、俺が車を出す」 「ありがたいです」 その買い出しも、契約書の通りなら優和が財布を出す事になるのが気にかかるものの、いつまでもくよくよしていては、当の優和が不快になってしまう事なら予想出来る。 ──ここは割り切ろう。 勇人はそう考える事にした。 そして買い出しに出る前に冷蔵庫を確認すると、見事に並べられたビールと簡単なツマミしかなかった。 ──食事を一緒にしたのは二回だけだけど、もの慣れた雰囲気だったし……多分食事は外食がほとんどなんだろうな。いや、それでもこれはあんまり。 「……何で所狭しと瓶ビールが並んでるんですか……」 「ビールは缶より瓶の方が美味いだろ」 「美味しさの問題じゃありません、冷蔵庫の中身の問題です」 「言っておくが、食事では好き嫌いなんてしてないからな?野菜も全く美味く感じないが、出されれば残さない」 「その分自宅で不摂生ならマイナスです」 「風呂上がりの冷えたビールは譲らないぞ」 「……晩酌の他にも呑んでるって事ですね?」 「ビールは酒じゃない、炭酸麦茶だ」 「酒呑みの言い分は聞いてたらキリがありません
Last Updated : 2025-08-08 Read more