真哉は一瞬、息を呑んだ。結婚式の日の光景が脳裏に蘇る。教会の真ん中、親族や友人に囲まれ祝福に包まれる中、神父が問いかけた――「桐生さん、あなたはこれからもこの誓いを守り、彼女を愛し、敬い、守り、そして一生変わらぬ忠誠を誓いますか?」そのとき、彼は迷いなく答えた――「誓います」と。けれど、その後に自分がしてきたことは、その誓いを一つ残らず踏みにじるものだった。過去を引き合いに出されれば、すべてが罪の証拠となる。反論の余地など、どこにもなかった。沈黙する真哉を見て、瑶は彼が思い出したことを察した。問い詰めるつもりはなかったが、これ以上のやり取りは無意味だと悟る。小さく息を吐き、静かに告げた。「......もう、これで終わりにしましょう。円満とはいかないけど、これ以上みっともない終わり方はしたくないから」それだけ言うと、彼女は今度こそ迷わず病室を出て行く。去っていく背中を見つめながら、真哉の胸に残ったのは、彼女を失う恐怖だけだった。衝動的にベッドから立ち上がろうとするが、失血による脱力で足がもつれ、そのまま床に崩れ落ちた。必死に這いつくばって追いかけようとするが、背の傷が痛み、動きが止まった。「瑶......!行かないでくれ、お願いだ、置いて行かないで!」病室の扉が閉まる音とともに、その声は遮られた。瑶は足を止めず、看護師に真哉の容体を伝えるとそのまま病院の出口へ向かう。顔を上げると、出口の脇に蓮司が立っていた。彼女が早く戻ってきたのを見て、蓮司はわずかに肩の力を抜き、まっすぐ彼女の元へ歩み寄る。「送っていく」「......ええ」真哉のことは、もう過去だ。瑶は完全に手放し、新しい生活を歩み出すつもりだった。翌日、瑶は蓮司と共に警察署を訪れ、事情聴取を受けた。捜査の結果、煌花には「殺人教唆」と「殺人未遂」の罪がほぼ確定し、懲役十年の可能性が高いと告げられる。それを聞いても、瑶の胸に喜びはなかった。すべては彼女自身が選んだ道であり、その結末は自業自得だと思うだけだった。真哉との決着がつき、肩の荷が降りると仕事にも集中できるようになった。蓮司との距離も、自然に近くなっていく。穏やかな日々が続いたある夜、会食の席で誰かが蓮司へ酒を勧めた。普段は酒に強い彼も、
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