早川蒼(はやかわあお)は国内最年少で腎臓治療の第一人者に選ばれ、その研究は死亡率を大幅に下げると注目されていた。私は腎不全で治療費が払えず、主治医から「あと一ヶ月ほど」と宣告されていた。テレビ画面の中で、司会者が蒼に促す。「一番未練のある人に電話をかけてみてください」蒼は携帯を取り出す。「昔、俺に未来がないからって別れたよな?後悔してないか?」私はベッドの上で入院費用の請求書を握りしめ、テレビに映る彼の顔を見つめた。そして軽く笑って答えた。「蒼、今は成功してるんでしょ?200万円貸してくれない?」電話は即座に切られた。蒼はカメラに向かって深く息を吐き、「よし、これで完全に清算した」と宣言した。彼は知らない。あの時、腎不全で死にかけていた彼に、私が腎臓を移植したことを。インタビュー終了後、私の口座に200万円が振り込まれた。すぐに蒼からの送金だとわかった。このお金でしばらくは治療を続けられる。高価な薬も買えるかもしれない。扉が少し開いていて、思わず蒼の姿が見えてしまった。見上げると、そこには蒼が立っていた。5年ぶりの彼は、昔より引き締まった顔つきになっていたが、基本的には変わっていなかった。変わったのは、彼の隣に私がいないことだけ。彼の横には、上品なスーツを着た小野寺蘭(おのでららん)がいた。中央病院の院長の娘で、蒼の幼馴染だ。二人はとても似合っていた。私はそっと目を伏せ、ドアを閉めようとした。しかし突然ドアが勢いよく開けられ、私はよろめいた。体勢を立て直して顔を上げると、蒼の冷たい視線が私の動揺を鋭く捉えた。彼はわざとらしく横目で私を見ると、すぐに視線を逸らした。まるで私を見ることが耐えがたい汚れを見るようだ。「久しぶりだな。挨拶もできなくなったのか?」胸が高鳴る。言いたいことは山ほどある。でも口から出たのは――「蒼、もう1000万円くれない?」蒼は一瞬凍りついたように止まった。そして怒りに震えながら私の手首を掴んだ。「5年も会わなくて、金の話しかできないのか?」彼の握力は強く、骨が軋むような痛みが走った。「今は慈善活動もしてるんでしょ?図書館を寄付するような人なんだから。昔の情けで、1000万円でいいよ」蒼が深く息を吸い、何か言おうとしたその時――蘭が優しく彼の
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