あの日以来、私は知哉と二度と会わなかった。ただ、癌は確実に進行していた。頻繁に襲う発作で顔色はますます悪くなり、髪はごそっと抜け落ちた。塚本さんは毎日、少しの時間でもそばに来てくれ、食べたいものや、遊びたいもの、見たいものはあるかと尋ねてくれた。最期の時期ですら、彼女は自腹で私に小説サイトの会員権を買ってくれ、私は毎日そこで様々な小説を読んでいた。特に好きだったのは、おバカで笑える作品だ。それを読むと、しばし煩わしさを忘れ、心の底から笑うことができた。そんな時だけは、ただの普通の女の子に戻れた気がしたから。だが病状の悪化は止まらない。発作の頻度は増し、吐血、下血。ついには意識を失った。長い時間意識を失い、目覚めてはすぐにまた倒れる――そんな日々が続いた。ある日、私はふと目を覚ました。そばには塚本さんが座っていた。口を開け、水が欲しいと合図する。彼女はそれを見て、慌てて水を汲みに行く。忙しそうに去っていく背中を見ながら、私はかすかに唇を微笑ませた。まぶたがどんどん重くなる……ごめんね、もうあなたがくれた水を飲むことはできないかもしれない。ありがとう、塚本さん。そして――知哉、ごめんね、愛してる。「304号室3番ベッド、七原澪、薬を飲みに出てください!」私は眉をひそめ、ゆっくりと目を開けた。長く、混乱した夢を見ていたような気がする。「304号室3番!早く出てください!」看護師のいら立った声が響く。「はい!」思わず返事をした瞬間、首を押さえ、目を見開いて信じられない思いに包まれる。看護師の呼びかけなど構わず、鏡の前に駆け寄ると、そこには青ざめた自分の顔が映っていた。自分の頬をつまみ、驚愕する。私は……生きてる?それに健康そう?じゃ知哉は?彼はどこに……?私が無事なら、もう彼と離れなくてもいい……嬉しさのあまり走り出し、誰かに事情を聞こうとした。途中、看護師室を通りかかり、自然と足が止まる。中から聞こえる会話に耳が引かれた。思わず立ち止まり、ドア板に耳を近づけてこっそり聞く。「304の3番、あの女、ほんと厄介だわ。数日おきに記憶喪失になったり自殺未遂したり。今回は長く寝てたから、次は何をしでかすか……」ある看護師が嫌悪の声で
Read more