目を覚ましたとき、全身を管につながれた健太の視界に映ったのは、美穂の顔だけだった。彼は眉をひそめた。「……お前、何をしに来た」美穂は媚びるように、剥いたリンゴを差し出しす。「健太さん。あの日、もし私が機転を利かせてあなたのお母さんに連絡しなかったら、知佳に秘密がばれてたのよ。少しくらいご褒美をくれてもいいんじゃない?」健太は顔を背け、動けないことに苛立ちを覚える。「約束通り、二億円は口座に振り込む。それ以外は期待するな」差し出した手が宙で固まったまま、美穂は口を尖らせ、そっと彼の喉仏に触れた。「知佳を苦しませたくないなら……代わりに私でも良いのよ?卵子を採るのも、体外受精も、私ならできる」涙で赤くなった目で、震える声を続けた。「その二億円も要らない。ただ子供がほしいの」健太は冷たく鼻を鳴らし、彼女の手を振り払った。たったそれだけで激痛が走り、額から冷や汗が滲み出した。弱った姿を見せたくなくて、彼は枕元のベルを押した。「自分で出て行け。それとも、警備員に追い出されたいのか」美穂は泣き声を上げた。「どうしてそんなに冷たいの?あんな情のない女に、なぜそこまで執着するの。彼女はもうあなたを置いて行ったのよ!」健太は目を閉じ、彼女の声を遮った。彼女が病室に入れたのは、両親の許可があったからに違いない。やはり、二人は「子を残させる」望みを諦めていない。ではどうすれば知佳の将来を、そしてこの嘘を守り抜けるのか。耳に響く嗚咽が煩わしい。だが警備員が入ってきて、すぐに止んだ。「どうしてそんなに酷いことができるの?」彼女の戸惑う声に、健太は疲れ切った調子で手を振った。「……連れて行け」命じられた警備員が彼女を腕ずくで引きずろうとした瞬間、美穂は鋭い声を張り上げた。「健太、世の中にあんたみたいな馬鹿はいないわ!自分の金で、あの女とその男を養うつもり?どうして自分の子どものために少しでも残さないの!」健太は皮肉な笑みを浮かべた。三流女優にすぎない彼女が、知佳に少し似ていたからこそ、ここに立つことを許されただけ。そんな女が自分の人生に口を出すとは。彼は手元のフルーツナイフをテーブルに叩きつけた。「美穂、身の程をわきまえろ。今度また同じことをしたら……芸能界に居場所はなくなる
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