結婚記念日のその日、夫が百人目の愛人を連れて帰ってきた。 私は静かに口を開いた。 「匠馬、私たち、離婚しよう」 短い沈黙ののち、まるで最高の冗談を聞いたかのように、爆笑が広間を揺らした。 「ハハハ!清水社長、奥さんこれで何回目ですか?」 「百回目の離婚宣言?記念パーティでも開きます?」 清水匠馬(しみず たくま)の瞳が冷たさから侮蔑へと変わった。 彼が一歩踏み出し、私の顎を乱暴につかむ。まるで骨を砕かんばかりの力だった。 「離婚?」嘲笑と共に吐き捨てる。「紗希、この茶番を十年もやって飽きないのか?お前、母親をそそのかして俺に薬盛って、無理やり這い上がった女がよ……離婚を言い出す資格なんてないんだよ!俺がいなきゃ、お前の母親なんか明日には管を抜かれてる!」 まただ――十年間、彼はずっとこれを言い続けてきた。母が薬を盛り、彼と初恋の女・森本美羽(もりもと みう)を引き裂いたのは、私の仕業だと。 黙り込んだ私を見て、彼は「図星だろ」と言わんばかりに鼻で笑い、手を引っ込める。隣に立つ、美羽そっくりの橋本琴音(はしもと ことね)が気を利かせてハンカチを差し出した。 彼はそれで指先を乱暴に拭い取る。まるで汚物でも触ったかのように。 「琴音は疲れてる。最上の部屋を用意しろ。それから似合うドレスとアクセサリーも」 「はい」私は波風立てぬ声で答えた。「主寝室の隣のゲストルームでどう?前の九十九人もそこに泊ったから」 眉間にしわを寄せる匠馬。その表情は見慣れていた。私が彼の期待する「取り乱した悔しがる妻」を演じなかったとき、いつだって決まって表れる顔だ――「また芝居かよ」と言いたげな嫌悪の顔。 「ふん」冷笑と共に琴音の腰を抱き寄せる。 「任せるよ。琴音が気に入ればそれでいい。ああそうだ、服は持ってきてないから……お前のクローゼットの未使用の限定もの、それとジュエリーボックスにあるブルーダイヤのセット、全部琴音にやれ」 そこで彼の視線が私の身体を舐めるように動いた。口角がさらに歪む。 「いや、それより……そのドレス、今着てるのを脱げ。琴音、これが気に入ったみたいだ」 ざわめきが凍りついた。アクセサリーや服を奪うだけでも屈辱極まりないのに、人前で今着ている結婚記念のドレスまで剥ぎ取ろうと? それはつまり――尊厳
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