チアリーディング大会当日。私は心から嬉しかった。もうすぐ死ぬ身ではあるけれど、その前に長年に追い求めてきた大会優勝を手に入れるなら、全ての努力が報われたと感じた。司会者が私の優勝を告げた瞬間、脳に鋭い痛みが走る。頭を抱えて前かがみになると、観客席からざわめきが聞こえた。「えっ、どうしたの?先試合の時にあんなに元気だったのに」「まさか嬉しすぎて狂ってる?」誰かが私をからかっている。私は首を振り、ようやく周りの声がぼんやりと耳に入ってきた。表彰台の上で、観客たちの心配そうな視線を受けて、思わずふっと笑みが零れた。みんなやさしいな――何か返事しようとしたその時、水の入ったペットボトルが私の頭に激しく当たった。痛い!頭が張り裂けそうな激痛に襲われ、鼻血が止まらなくなった。「遠野陽菜(とおの はるな)、お前は美優の優勝を盗んだ泥棒だ!試合前に彼女を突き飛ばして怪我させたんだろ?彼女は二位で終わった、満足か!」私の兄・遠野健太(とおの けんた)の怒声が響いた。私は混乱しながら彼を見つめた。そんなこと、してない。美優が怪我したなんて、私は知らなかった。弁解しようとした私の言葉を、大会のスポンサーである私の婚約者・鈴木海斗(すずき かいと)が冷たく遮り、観客たちに宣言した。「遠野陽菜選手のドーピング違反が、大会の検査によって確認されました。委員会の審議を経て、遠野陽菜選手の優勝資格を剥奪することを決定いたしました」スクリーンには、私が薬を飲んでいる映像が映し出される。でも、それは普通の鎮痛剤。ドーピングなんかじゃない!私は咄嗟に、血の繋がらない妹・遠野美優(とおの みゆ)を睨みつけた。その薬に触れたのは、美優だけだった。彼女の目に、わずかな嘲笑が浮かぶ。それはまさしく、勝者の余裕。「違う!私はそんなこと……」叫ぼうとした私の声を、美優の涙声が遮った。「お姉ちゃん、ごめんなさい……お姉ちゃんに『ドーピングしたことを黙って』って頼まれたから、ちゃんと黙ったけど……観客が通報しただけで、私は何もしてないの……怒らないで……」私は思わず顔を赤くしてしまった。彼女のその一言で、まるで本当に私がドーピングしたかのように見えてしまう。しかも彼女は、姉に虐げられる可哀想な妹を完璧に演じている
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