退院して家に戻ったとき、家の中には誰一人もいない。掃除をしてくれているお手伝いさんでさえ、休みを取って、姿はない。がらんどうの別荘には灯りは一つも点いておらず、真っ暗に沈んでいる。静けさの中、自分の足音だけがやけにはっきりと響いている。わかっていたはずの光景なのに、抑えきれない寂しさとみじめさが込み上げてくる。私の存在をすっかり忘れ去られるのは、初めてじゃない。深く息を吸い込み、二階へ足を向ける。治ったばかりの脚にはまだ力が入らず、手すりにすがって、ようやく自分の部屋へとたどり着く。それは、この豪華な別荘の中でいちばん狭くて暗い物置部屋だ。私の持ち物なんて、ほんのわずかしかない。ベッドが一つ、古びた木の机が一つ。それだけ。その机の引き出しを開けると、ぎっしりと詰まっているのは、両親に差し出してきた借用書の束だ。一枚、二枚……今手にしている分を合わせれば、きっちり三百枚。金額は数千円から数万円までばらばらで、私の学費や生活費のすべてがそこに記されている。合わせても、百万円には届かない。口の端が引きつり、浮かぶのは苦い笑みだけだ。たった百万円だ。美緒のごく普通のアクセサリーでさえ、これよりずっと高い。だから両親は、いつも私を「貧乏くさい」と罵り、美緒こそが宮本家のお嬢さまだと言う。確かに、私では比べものにならない。借用書を一枚ずつ丁寧に揃えて服のポケットにしまい、階下へ降りようとしたそのとき、外から声が聞こえてくる。「パパ、私、お姉ちゃんの作る魚の甘酢あんかけが食べたいな。お願いしてくれる?」「お前のお姉ちゃんはお前みたいに素直じゃないんだ。今は気が立ってて、お前の成人式にも顔を出しもしないで、どこで遊び歩いてるのやら……帰ってきたら、パパが言って作らせてやる」私は嘲るように笑い、なんて皮肉だろう。私は事故に遭ったことをちゃんと伝えていた。けれど両親は信じようともしない。むしろ、私が遊び歩いて、美緒の成人式に出たくなかっただけだと決めつけている。きっと両親は覚えていないのだろう。私の誕生日が美緒と同じ日だということを。あの成人式は、本来なら私の成人式でもあるはずなのに。ドアが開き、階段に立つ私の姿を見た途端、三人の和やかな空気は一瞬でかき消える。私は、まるで招かれ
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