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第6話

Auteur: 程よし
おそらく、私と涼太の関わりに不安を覚えたのだろう。

美緒は思い切った手を打ち、涼太を言いくるめて婚約を決意させた。

両親はもちろん大喜びだ。

涼太のことは幼いころからよく知っているし、家柄も申し分ない。釣り合いの取れた相手だ。

可愛い娘を嫁がせても、肩身の狭い思いをさせることはないと思っている。

宮本家と藤原家の両家は、あっという間に婚約披露宴の準備を整えた。

会場はA市でもっとも豪華なホテル。惜しみなく金をかけ、まるで夢の世界のような空間がつくりあげられていた。

聞けば、ほんの小さな装飾にまで、わざわざ海外から取り寄せたクリスタルが使われているらしい。

すべては、美緒の好みに合わせるためだけだった。

金箔をあしらった招待状が病室に届いたそのとき、スマホに美緒からのメッセージが入る。

【お姉ちゃん、あなたの愛する人は、もう誰もあなたを愛していないよ。かわいそうね】

こんな挑発的な言葉も、どうせ見知らぬ番号を使って送るしかなかったんだろう。

私は返事をする気にもなれず、婚約披露宴に出席するつもりすらなかった。

けれど、当日の披露宴がネットで配信され、インフルエン
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    おそらく、私と涼太の関わりに不安を覚えたのだろう。美緒は思い切った手を打ち、涼太を言いくるめて婚約を決意させた。両親はもちろん大喜びだ。涼太のことは幼いころからよく知っているし、家柄も申し分ない。釣り合いの取れた相手だ。可愛い娘を嫁がせても、肩身の狭い思いをさせることはないと思っている。宮本家と藤原家の両家は、あっという間に婚約披露宴の準備を整えた。会場はA市でもっとも豪華なホテル。惜しみなく金をかけ、まるで夢の世界のような空間がつくりあげられていた。聞けば、ほんの小さな装飾にまで、わざわざ海外から取り寄せたクリスタルが使われているらしい。すべては、美緒の好みに合わせるためだけだった。金箔をあしらった招待状が病室に届いたそのとき、スマホに美緒からのメッセージが入る。【お姉ちゃん、あなたの愛する人は、もう誰もあなたを愛していないよ。かわいそうね】こんな挑発的な言葉も、どうせ見知らぬ番号を使って送るしかなかったんだろう。私は返事をする気にもなれず、婚約披露宴に出席するつもりすらなかった。けれど、当日の披露宴がネットで配信され、インフルエンサーが全編を生中継するらしいと知って、私は考えを変えた。行く。絶対に行ってやる。三百枚の借用書をを手に、あの人たちにふさわしい祝いの品を突きつけに行く。当日、会場には華やかに着飾った人々が集まっている。女性たちは繊細なドレスをまとい、細いヒールを軽やかに鳴らして歩く。男性たちは端正にスーツを着こなし、手にしたグラスを傾けながら談笑している。私はTシャツに短パンという格好で隅の席に腰を下ろしていた。見た目は給仕よりもみすぼらしく映る。誰かが、当然のように私を給仕扱いして声をかけてくる。「おい、そこはおまえが座っていい場所か?さっさとシャンパンを持ってこいよ」スマホを掲げたインフルエンサーが、尊大な口ぶりで命じてくる。おそらく宣伝のために呼ばれた配信者なのだろう。宮本家と藤原家の縁談には、裏で商業的な思惑も絡んでいる。私は彼女の配信画面にちらりと目をやるだけで、動こうとはしない。コメント欄には、私を罵る言葉が次々と流れていく。【誰よこれ、まるで乞食みたいな格好。誰もドレスコード教えてあげなかったの?】【ここは宮本家のお嬢さまの婚約

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    次に目を開けたとき、私は病院にいた。真っ白な天井に、鼻を刺す消毒の匂い。ぼんやりして、一瞬、事故の直後に戻ったのかと思う。でも、あのときの私に、こんな立派な個室に入れるはずもなかった。「奈穂、目が覚めたか?」顔を横に向けると、ベッド脇で付き添っていた涼太がいた。彼の目は充血していて、一晩中眠っていないみたいだ。表情は複雑で、何を考えているのか読み取れない。「そのくらいの金に、そこまで無茶するのかよ?医者が言ってた。奈穂、おまえはもう胃に穴があいてるって」私はまばたきをして、気にかかるのはただ一つだけだ。「治療費、いくら?」涼太はむっとして答える。「治療費は俺が払った」そう言ってから、どこか後ろめたそうに私を見やり、続ける。「今回は俺がやりすぎた。まさかそこまで弱ってるとは思わなかった」私は彼の謝罪なんてどうでもいい。だから、別のことを訊く。「あの二百万円、まだ有効?」涼太は怒りで息が詰まりかける。「金、金、金!頭の中、それしかないのか?どっちも宮本家の娘だろう。どうして美緒はお前みたいにがめつくないんだ」美緒ががめつくないのは当たり前だ。お金に困っている人だけが、頭の中まで金でいっぱいになる。美緒は困っていない。宮本家にも、涼太にも、大事にされている小さなお姫さまだから。私の口の端に皮肉な笑みを見って、さっきまで刺々しかった涼太は、ぱたりと言葉を飲み込む。きっと、私が家でどんな暮らしをしてきたかを思い出したのだ。声色を和らげる。「奈穂、わだかまりがあるのは分かってる。でも家族なんだ。おじさんとおばさんも、美緒も、お前に苦労させたいわけじゃない。二百万円は渡す。それでおじさんとおばさん、それに美緒に小さな贈り物でも買って、関係を和らげなよ」涼太のその物言いに、吐き気がする。それでも、私は拒まない。そのお金は、私がプライドと体を削って手に入れたものだ。受け取って当然の対価。でも使い道まで、彼に口出しされる筋合いはない。彼は私の何なの?私が黙っているのを、涼太は説得が効いたと勘違いしたらしい。手を伸ばし、昔みたいに私の頭を撫でようとする。だが、ちょうどそのとき、病室の入口で女の驚いた声が弾ける。「涼太、お姉ちゃんと……二人で、なにしてる

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