母の重い病気の手術が迫る時、テレビで出張に行くと言った夫を見かけた。彼はパリオリンピックの観客席に現れて、ある若い女性の手を握っている。インタビューのカメラに向かって、満面の笑みを浮かべて言った。「一番嬉しかったのは、愛する人と一緒にオリンピックを観戦できたことです」————「菜月(まきこ)、あの男性は修也(しゅうや)にそっくりじゃない?」私は驚いて振り返って、テレビ画面の顔をじっと見つめた。しばらくしてからようやく無理やり笑顔を作った。「似ているだけだよ、母さん。修也は北都に出張しているんだから、フランスにいるわけないよ」画面の人物が彼ではないと信じたかったが、内心では不可能だと分かっている。彼が着ている服のほとんどは、私が夜なべして整理してスーツケースに詰めたものである。彼はこの前、会社に急用ができて一週間北都に出張しなければならないと私に言った。それなのに今、パリオリンピックの開会式会場に現れている。悲しい感情を抑えて修也にビデオ通話をかけた。「菜月、どうして急にビデオ電話?まさか様子見じゃないよね?安心して、出張でとても疲れているから、他のことをする時間なんてないよ」電話がつながるとすぐ、修也は疲れた様子を見せた。私はただ静かに彼を見つめながらしばらくしてからゆっくりと言う。「今の東都はもう暗いけど、どうして北都はまだ明るいの?」彼は一瞬呆然としたが表情を何度か変えて、再び優しい笑顔を作り出した。「北都のサプライヤーがたまたまパリに出張で来ててさ。この貨物が急ぎだから、仕方なく直接フランスにきたんだ」ここまで言うと、彼の口調は柔らかくなってきた。「菜月、これ以上やきもち焼かないで俺を信じて。来月は俺たちの結婚式だろ?式のプランは決まった?招待客リストは確定した?招待状は全部書いた?あなた、まだやることがいっぱいあるんだから、もうわがまま言わないで」結婚式の準備が全部私一人の仕事になったようで、気持ち悪くてそろそろ限界。声を震わせて最後の一言を言った。「明日、母さんが大事な手術をするって知ってる?修也、すごく怖いんだ」彼は目線をそらして相槌を打ち、適当に返事をした。「でも俺は医者じゃないし、病院にいても何の役にも立たないだろ?菜月
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