All Chapters of アリスは醒めない夢をみる。: Chapter 11 - Chapter 20

20 Chapters

11.命の重さ

「…な、何を言っているんですか。私の企み事だなんて…」「会場を見させない位置に私を座らせ、私の気を引き、私の後ろをずっと気にしているんだもの。気づかない方がおかしいわ。私の可愛いアリスにはこういう企み事は不向きね。誰の入れ知恵かしら」クスリと笑う女王様に背筋が凍っていく。冷や汗が止まらず、緊張で握り締められた手が汗でいっぱいになる。もう誤魔化すことも、バレずに逃げることもできない。ならば、正面から行くしかないだろう。怖い。逃げたい。そう思う気持ちもあるが、それでは先へ進めない。私はついに意を決して、まっすぐと女王様を見た。「女王様。お言葉ですが、クロッケーでは、フラミンゴもハリネズミもトランプ兵も使わないんです。あのクロッケーは何もかもおかしなものでした」冷静に、心の中の恐怖を悟られぬように淡々と私は話し始める。「だから私が止めさせたんです」そしてそう女王様に言い切った。これは誰かの入れ知恵じゃない。私の意思で起こしたものだ。…まあ、作戦自体は帽子屋の入れ知恵だが。「…これはアリスの仕業なのね?」「そうだよ。どんな命も大切だからね。無下に扱っていいものなんてない。それが女王様、例えアナタでも」こちらに鋭い視線を向ける女王様を、私は説得するように静かに言葉を並べる。だが、私の言葉など女王様には一切響かなかった。「違うわ、アリス。私はハートの女王。この世界の支配者。どの命をどう扱おうが私の自由。私に許された権利よ。そんな私、ハートの女王の権利を脅かす存在など、例えアリスでも許されない」恐ろしいほど静かに冷たくそう言い放つ女王様に恐怖心を煽られる。本気で女王様は自分以外の命全てを軽んじており、そうできる権利が自分にはあると思っているようだ。どう考えたっておかしいじゃないか。「女王様、聞いて!その考え方がすでにおかしくて…」「うるさい。トランプ兵たち、アリスを捕えなさい。首をはねるわ」「「はっ」」何とか女王様への説得を試みたが、それを女王様が冷たく遮り、右手を上げ、傍にいたトランプ兵たちに命令を出す。それに応えるように返事をし、こちらに来たのは2人のトランプ兵で。私、今捕まると首をはねられるの?つまり、死ぬってこと?そんなこと絶対に嫌だ!逃げなきゃ!「アリス!」逃げようとしたその時、私の後ろに誰かが現れた。
last updateLast Updated : 2025-09-23
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12.夢

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「……ゆ、夢?」狂気のクロッケー大会で息絶え、もう一度目覚めると、そこはいつもの私の部屋で、私の目の前には見慣れた天井が広がっていた。今見ていたものは全て夢だったのだ。見慣れた景色を目にした時、そう今までのことを理解した。だってそうでなくてはおかしすぎるから。白ウサギを追って不思議な世界に迷い込んだのも、不思議の国のアリスのように冒険したことも。ーーーーそして最後には死んでしまったことさえも。変な夢だった。よく寝ていた割には、やけにスッキリしている頭で先ほどまで見ていた夢のことについて、思案する。私がイメージしていた〝不思議の国のアリス〟よりも狂っていて、絵本の物語ほど可愛いものではなかったが、なかなか面白い夢だった。現実として考えていた時には、クレイジーすぎると思っていたが、やはり夢だと思うと、それはそれでスリルがあってよかった、と思う。いや、現実だと思っていても、私はあの世界を楽しんでいたが。部屋はカーテンで閉め切られている為、まだ薄暗いが、もうすぐ朝だろうか。そんなことを何となく思いながらも、いつものように体を起こし、朝の支度を始めようとする。「……っ!」だが、それは目の前に広がるあり得ない光景によって、止められた。目の前に広がるのは先ほど、夢で見たのと同じ赤で。先程のこともあり、この赤が一瞬で、血の赤だと理解する。何で現実の世界でもこんな赤が広がっているの?そもそもこれは誰の血?「アリス」状況が呑み込めず、パニックになっていると、私の膝の上に可愛らしい白いウサギがちょこんと現れた。そのウサギが身にまとっているのは水色と白のスーツに赤の蝶ネクタイで。喋る白いウサギに、見覚えのあるスーツ。「白ウサギ?」人間の姿はしていないものの、私の膝上にいるのはおそらくあの白ウサギだと、私は何となくわかった。夢でもそうだったからだ。何でウサギが喋っているの?今は夢ではないはずなのに。ぐるぐるぐるぐる頭の中をたくさんの疑問がただただ巡る。意味なんてない。考える力もない。ただ言葉が頭の中で溢れて、消えていく。「アリス。大丈夫。何も考えないで。もう一度目を閉じて」そんな私を見て、白ウサギは私を落ち着かせるように、ゆっくりと優しく言葉を
last updateLast Updated : 2025-09-24
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13.現実

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「アリス!起きろ!」「ふぇっ!?」ふかふかのベッドの上。突然三月ウサギに大きな声をかけられて、私は驚きで変な声を上げ、目を覚ました。あれ?今のが夢?まだぼーっとする頭で先程のことを考える。私は確かに先程まで家にいた。そしてそこで目を覚まし、ここでの出来事が全て夢だったのだと悟った。だが、何故かあそこには身に覚えのない血が広がっていたし、白ウサギは訳の分からないことを言い出すしで、パニックになって。私が誰だかわからなくて。どっちが夢でどっちが現実なの?それに私、この世界では死んだよね?「……わ、私、死んだよね!?ええ!?死んだよね!?何で!?」今、生きていることに何よりも驚き、目の前にいた三月ウサギの肩を思いっきり掴み、とりあえず動揺を隠せないまま、ユサユサ揺らしてみる。何で!?これこそ訳がわからない!「落ち着けクソアリス!何でそんなに動揺してんだよ!?」そんな私の行動に驚きつつも、三月ウサギは私の動きを止める為に、私の肩を強引に両手で押さえ、こう続けた。「毎日同じだろーが!驚く要素なんてないだろ!?」「…は?」何を言っているの?三月ウサギの言っている意味がわからず、私はただただ三月ウサギの顔を見つめる。それからまたぐるぐるぐるぐる思考を巡らせた。毎日同じって何?そのことがどうして私が生き返ったことに繋がるの?だが、どんなに考えても私では疑問に対する答えは出ない。「三月ウサギ、教えて。毎日同じの意味が私にはわからないの」「は?」私の言葉を聞いて、今度は三月ウサギが先ほどの私と同じような表情になる。だが、少ししてから考える素振りを見せて、眉間にシワを寄せながら言葉を発し始めた。「…つまりだ。ここでは毎日全部同じなんだよ。1日が終われば、また同じ1日が始まる。たとえ死んだとしても、同じ1日が始まれば、その死はリセットされる。同じ1日にする為にな。だからアリスは今、生きてんだよ。それがここでは当たり前のことだ、わかったか?」「…な、何となく」三月ウサギのとんでもない説明を聞いて信じられない話だったが、とりあえず理解する前にまずは頷く。そして頭の中で、今もらった情報を今までのことを振り返りながら整理し始めた。この世界では全てが同じ1日が繰
last updateLast Updated : 2025-09-25
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14.世界

三月ウサギとやってきたのは、昨日と同じハートの女王様のお城。だが、昨日と少し違うのは、今日用事があるのは、あの豪華絢爛な女王様の趣味全開お庭兼クロッケー大会会場ではなく、お城の中にある裁判会場だ。昨日の嫌な記憶を思い出させる庭を横切って、三月ウサギと共に、お城の中へと向かう。私は確かに昨日ここで死んだ。体中が焼けつくように熱く、痛くて、どう表現するのが正解なのかわからないほど苦しかった。それからすぐに全ての感覚を失った。あれが死ぬということ。もう二度と味わいたくない感覚だ。「ねぇ、三月ウサギ」「何だよ」「昨日私が死んだ後、あれからどうなったの?」そういえば、色々ありすぎて昨日のことを聞き忘れていたことを思い出し、すぐにそのことについて、私の前を無言で歩き続けていた三月ウサギに聞いてみる。「帽子屋の作戦が失敗すると思ってんのか?」するとこちらに振り向くこともなく、三月ウサギは至極当然のように答えた。つまり、作戦は成功した?じゃあ、この状況は何?三月ウサギの答えは私に新たな疑問を生ませる。「でも一つだけ誤算があった」「え?誤算?」「あぁ、あの後、死んだアリスを抱えて逃げてるとお前が会いたがってた奴が出てきたんだよ、俺たちの前にな」悔しそうな三月ウサギの言葉に心臓がドクンッと大きく跳ねる。私がこの世界で〝会いたがっていた奴〟なんて1人しかいない。「白ウサギに会ったのね」「そう。で、そいつのせいで今こうなってんだよ」私の答えは正解だったようで、三月ウサギはますます悔しそうにそう返した。「簡単に言うと、白ウサギにはめられた。助けるフリをして連れて来られた場所が女王のテリトリー内だったんだよ」「…」つまり白ウサギは女王様の味方ってこと?白ウサギが一体誰の味方なのか疑問に思いながらも、ふと、昨日女王様が言っていた言葉を思い出す。『残念だけれど、私にもわからないわ。アレはいつも気まぐれで同じ所に留まらないの。招待状を出そうにも出せないのが現状なのよ』女王様は困ったように白ウサギについてそう言っていた。招待状を出せれないほど、どこにいるのかわからない人が果たして本当に味方なのだろうか?それともこの世界の絶対である女王様に白ウサギがたまたま従っただけなのか。「…でも白ウサギは信じるに値するから着いて行ったのよね?」そ
last updateLast Updated : 2025-09-26
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15.裁判

ギィィィィッと、重みのある低音と共にゆっくりと扉が開かれる。「うわぁ…」扉の向こうに広がっていた世界は、絵本そのものの裁判会場で、思わずこんな時だが、感嘆の声が漏れてしまった。赤と白と黒のみで統一されたおかしな空間。罪人席には、帽子屋、チェシャ猫、ヤマネの姿があり、裁判長席には大きな座り心地の良さそうな椅子に腰掛けた女王様の姿がある。「…連れて来たぞ」「…」私たちがいるのは、そのちょうど中間あたりで、三月ウサギは裁判会場に入るなり、最悪の機嫌で女王様に声をかけた。だが、女王様は微笑むだけで返事を一切しない。無視だ。さらに目も笑っていない。「アリスよく来たわね、こちらへいらっしゃい」相変わらず目の笑っていない女王様が、私にそう優しく声をかけ、手招きをする。「…っ」なんて恐ろしい笑顔なのだろう。あまりにも美しく、そして他者の心を恐怖心で支配する女王様の笑みを見て、私は思わずその場で硬直してしまった。「あら?どうしたのかしら?早くいらっしゃい、私の可愛いアリス」そんな私を見てクスクスと少女のように女王様が笑う。いつまでもこうしている訳にはいかない。私の目的は帽子屋たちを助けることなのだから。私は意を決して、女王様の元へ一歩、また一歩と歩みを進めた。そして、やっとの思いで女王様の元へ辿りつくと、女王様はそんな私を見て満足げに微笑んだ。「アナタを待っていたのよ、アリス」「…」私はそんな女王様を恐れることなく、まっすぐ見つめた。恐ろしく、何よりも美しい、この女王様から、何度も言うが、私は帽子屋たちを助けなければならないのだ。今は怯んでいる場合ではないのだ、と自分を鼓舞する。「挑発的な眼差し、嫌いじゃないわ」何も言わず、ただ女王様を見つめ続けるだけの私に愉快そうに女王様はその瞳を細める。「さて、それでは裁判を始めましょうか」それから女王様は私から名残惜しそうに視線を逸らすと、裁判会場全体に目を向け、会場にそのよく通る声を響かせた。ーーーーついに裁判が始まるのだ。まず最初に口を開いたのは、女王様と帽子屋たちの間に立っていた、身なりの整った中年男性だった。「帽子屋、チェシャ猫、眠りネズミ、三月ウサギ。彼らの罪状は反逆罪でございます。先日のクロッケー大会の時、彼らはあろうことか我らが崇拝すべき絶対の存在であられる女王様に
last updateLast Updated : 2025-09-27
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16.榊原アリス

私の名前は榊原アリス。日本有数の由緒ある一族、榊原家の娘、だった。家族は姉が2人と兄が2人。それから両親がいて大きなお屋敷には祖父母や使用人、たくさんの人がいた。あぁ、だけどそうだった。あそこにはたくさんの人がいたけれど、私の味方なんて誰一人いなかった。あそこには私の居場所などなかった。いや、あそこだけではない。世界中どこを探しても、そんな場所はなかった。何故なら私の髪が生まれつき色を持たず、日本人でありながら真っ白な髪だったから。血筋や伝統を重んじる榊原家において、私はただただ異質なものでしかなかった。「お前なんて産まなければよかった。お前は榊原の恥よ」物心ついた頃からそう実の母親に言われて生きてきた。榊原の恥と言われ、なるべく表舞台に私が立たないように幼少期からずっと家に閉じ込められて。幼い私の世界はあの家が全てだった。そして、その全てである家の中で、私はいつも孤独だった。「嫌っ!痛いっ!」グイッと白く長い私の髪を掴まれて、私は悲鳴にも聞き取れる声を上げる。「うるせぇな」「気持ち悪いんだよ」「化け物」私を囲って歪んだ笑みを浮かべる兄弟たち。彼らは毎日私を虐めた。「はっ離して!」頭皮と髪の境目が引き裂かれそうだ。だが、どんなに痛くても実際には、なかなか引き剥がされることはなく、髪と一緒に体が上へと持ち上げられていく。「気持ちが悪い」「何でそんな色なの?」「普通じゃない」「化け物」「近寄るな」「こっち見んな」「お前なんて生まれて来なければよかったのに」私に悪意を向けるのは決して兄弟たちだけではない。両親や祖父母、私の家族と呼べる存在は、全員私を見るたびに私に悪意をぶつけてきた。終わらない言葉の暴力。心も体も痛くて痛くて。抵抗しようともがいても、私にはなんの力もない。幼い私はただただその暴力を無力にも全て受けることしかできなかった。…だが、しかし。12歳の春。あの春だけは私は1人ではなかった。「白ウサギ!」私と同じ真っ白な子ウサギ。私はその子ウサギに大好きだった絵本、〝不思議の国のアリス〟から白ウサギの名前をもらい、〝白ウサギ〟と名付けた。この子ウサギの白ウサギは、榊原家の敷地内で弱っていた所を、たまたま私が見つけて、誰にも内緒で保護した子だった。そして私の部屋でこっそり飼っていた。白ウサギは名
last updateLast Updated : 2025-09-29
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17.白ウサギ

瞼をゆっくりと開ける。まず私の視界に入ったのは、見慣れない天井だった。それから下に感じるのはふわふわのマットレス。それだけで私は知らない部屋のベッドの上で寝ていたことを察した。全部思い出した。私は榊原アリス。この夢のような物語は全て私が望んだことだった。生きることを諦め、自殺した私が。…私は死んだのか。「アリス」目を覚ました私に誰かが優しく声をかけてきた。この声は…「白ウサギ」体を起こして私に声をかけてきた声の主の名前を呼ぶ。ずっと私は白ウサギを探していた。会いたかった。ここへ迷い込む前からずっと。その白ウサギが今、私の目の前にいる。「…っ」気がつくと涙が溢れていた。真実を知ったことによって、白ウサギへの印象が随分変わった。私の願いを叶える為に、白ウサギはどれほど頑張ってくれたのだろう。頑張って頑張ってやっと私に会えた時、私が死にかけていたなんて。だから白ウサギはたまに泣きそうな、悲しそうな顔をしていたのだ。「泣かないで、アリス。笑って」泣き始めた私に対して、白ウサギは泣きじゃくる子どもをあやすように、優しくそう言って笑った。白ウサギの細く長い指が、私の涙を丁寧に拭う。「し、白ウサギ、ごめんね」「どうして謝るの」「だって、私は白ウサギが頑張っていたのに死のうとした…」「だから何?」止まらない涙を拭いながらも、謝る私に白ウサギが今度はおかしそうに笑う。「あんな形でしかアリスは救われなかった。ただそれだけだよ。肉体が死んでしまっても、魂さえ生きていれば魔法でどうにでもなるし。僕の方こそ遅くなってごめんね」そして最後はまたあの悲しそうな笑顔を浮かべて、私をまっすぐ見つめた。「ねぇ、白ウサギ」私の涙も落ち着いてきたところで、白ウサギの名前を再び呼ぶ。「何?」「ここはアナタが魔法で私の為に作り出した世界なんだよね?」「そうだよ」「世界が同じ1日を繰り返すのも、同じことしかできない登場人物たちも全て?」「そう」 私の質問に白ウサギがにこやかに淡々と答えていく。「アリスの望みは〝不思議の国のアリスのように冒険したい〟でしょ?だから毎日この世界はアリスの為に〝不思議の国のアリス〟の物語として動いているんだよ」「その登場人物たちには、私や白ウサギみたいに意思はあるの?」「もちろん。彼らは知らず知らずのうち
last updateLast Updated : 2025-10-01
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18.不思議の国のアリス

「アリスー!起きてー!朝だよー!」目覚まし時計の代わりに、白ウサギの声が私に朝を告げる。この世界に留まることを決めて何日、何週間、何ヶ月経ったのかわからない。でも私は随分長いことここで生きた気がする。「まだぁ…あと5分…」「そう言って30分も寝続けてるでしょ!今日は帽子屋のところに行くんだよね?」まだまだ眠たい私は布団に潜って再び寝ようとしたが、それはバサァッ!と勢いよく白ウサギに布団を剥がされたことによって、阻止されてしまった。「うぅー!布団…っ」「はい、起きるー。おはよー」必死に布団を取り返そうとする私をひらりとかわして、白ウサギは私が起き上がらないと取れないような場所に布団を置く。…これはもう起きるしかない。ここは白ウサギと共に暮らしている小さな一軒家。もちろん帽子屋屋敷や女王様のお城みたいに豪華絢爛、超巨大な建物ではない。ごくごく普通の2人で住むには丁度よいサイズの木の家だ。ちなみに私がこの世界に残ることを決めた時に寝ていた部屋もこの家の部屋だった。今ではそこが私の部屋だ。いつもの水色のワンピースに袖を通して、身支度をする。それから白ウサギが用意してくれていた朝食を白ウサギと共に食べ始めた。「そういえば白ウサギは帽子屋の所には行かないの?」「うん。僕もアリスと行きたい気持ちは山々なんだけど、お城での仕事があってね」温かいスープを口にしながら、白ウサギを見つめれば、白ウサギが残念そうな顔をしてこちらを見る。あれからこの世界はいろいろ変わり、白ウサギはこの世界での何と宰相のようなポジションをすることになったらしい。なので、時折こうやって、お城に行かなければならない日があった。「そっか…。残念だね。あ!あとで差し入れ持って行くよ」「本当!忘れないでよ?アリス」2人でクスクス笑い合いながら朝食を食べる。幸せだなぁといつもこういった瞬間にふと感じた。何気ない日常に幸せを感じられる。元に戻る選択をしていれば、得られなかった幸せだ。本当にここへ残る選択をしてよかったと心から思った。*****この森を少し歩けば、帽子屋屋敷に着く。何度も歩いて見慣れてしまった帽子屋屋敷までの道のり。そういえば、この森でチェシャ猫に会ったんだよね。小さな私の上から降りてきた。それがチェシャ猫だった。「アーリス」チェシャ猫との出会
last updateLast Updated : 2025-10-02
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19.happy end.

 帽子屋屋敷を出て、次に向かった場所はもちろん白ウサギが待っている女王様のお城。女王様のお城は帽子屋屋敷の倍広く、最初の頃は1人だとよく迷子になっていたが、ここでの生活も長いので、もう迷子になることはなくなった。今日も歩き慣れた廊下を歩いて、目的の場所へ向かっていると、メイドさんたちに会い、目的の場所へではなく、何室もある内の中で、1番豪華な応接室に案内された。 「あぁ!私の可愛いアリス!」 そこにはすでにソファに腰掛けている女王様と白ウサギがいた。そして私が部屋に入るなり、女王様は満面の笑みを私に向けた。 「こんにちは!女王様!」 私もそんな女王様に応えるように笑みを浮かべる。すると女王様はいつもの調子で「相変わらず愛らしい娘ね」とうっとりした顔で私を見た。 「アリス、こっちへおいで」「うん」 白ウサギに手招きで呼ばれ、私は白ウサギの隣に座る。女王様は机を挟んで、向かい側にゆったりと座っている。 「女王様、白ウサギ、お仕事お疲れ様。はい、これ差し入れだよ」 席に着くなり、私は手に持っていた袋からクッキーが入っている箱を取り出した。女王様の表情は、私がいるからなのか、とても上機嫌でにこやかだが、目の下には化粧でも隠し切れていない濃い隈があるし、どこか疲れたがある。それに対して白ウサギは飄々としているが。 「帽子屋のお茶会のクッキーだよ。味はとっても保証します」「やったぁ!ありがとう、アリス」「さすが、私のアリスだわ。丁度甘いものが食べたかったのよ。そこのメイド、このクッキーに合う紅茶を用意しなさい」 私作のクッキーではないのだが、このクッキーがとても美味しいことを、私は知っている。
last updateLast Updated : 2025-10-03
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20.happy end side白ウサギ

  side白ウサギ 「私はここに残りたい」 裁判後、〝不思議の国のアリス〟の主人公と同じように意識を手放したアリスが次に目覚めた場所は、僕の小さな家だった。そして全てを知ったアリスは僕に力強くそう答えた。 「…っ!アリス!」 嬉しさのあまり思わず、僕はアリスに飛びつく。あぁ、やっと。やっとだ。ついにアリスを手に入れた!アリスがこの世界に残ることを決めた時、僕は歓喜で震えていた。ーーーやっとアリスがこの世界を選んでくれたから。アリスがこの世界を選ぶまで、僕は何度も何度も同じ時間を繰り返した。アリスは毎回、そして今回も、初めてこの世界で冒険していると思っているが、それはもう何十回と繰り返されてきたことだった。この世界の住人の誰も知らない真実。同じことを何度も何度も繰り返された世界。誰もが昨日と今日が、今日と明日が、同じであったこと、あることを知らない。…まぁ勘の鋭い者は薄々気づいていたかもしれないが。だが、そんなことどうでもいい。全てはアリスに正しい答えである、こちらの世界を選ばせる為に。アリスはいつもあちらの世界を選んだ。何故か帰ることに執着していた。アリスを殺した世界だというのに。いやこれには語弊がある。正しくは殺そうとした世界、だ。アリスは僕に「私はもうあっちでは死んでいるの?」と、自分の生死を尋ねた。僕はそんなアリスに「死んでいる」と答えたが、実はアリスはまだあちらで辛うじて生きていた。きっと体に魂を戻せば息を吹き返すだろう。だがそれがどうしたという?あのまま生きたってアリスはただ死んだように、死を望みながら、生きることしかできなかったはずだ。
last updateLast Updated : 2025-10-03
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