高校三年の時、両親が亡くなり、私――佐鳥意知子(さとり いちこ)に残されたのはみすぼらしい家だけだった。けれど私は、ごみ箱の中から一人の弟を拾った。彼――菅原辰海(すがわら たつみ)はうちの学校で二年生の学年一位だった。だが誰からも見下され、学校でいじめられても教師は見て見ぬふりをしていた。なぜなら、たとえ他人に殴られなくても、酒に溺れた父親に毎日殴られ、気弱な母親は決して逆らおうとしなかったからだ。私は必死に彼を家まで引きずって帰り、手当てをして、何日もかくまった。やがて彼の母は殴り殺され、私は警察を呼び、彼の父親を捕まえさせた。「ねえ、これからは一緒に住もう。私にはもう家族はいない。だから、姉さんって呼んで。私があなたの学費を出してあげる!」彼は名門大学に進みたいと言った。私は学校を辞め、露店を出し、血を売り、日雇いの危険な仕事もした。卒業後、彼は起業したいと言い、私は全ての貯金を差し出した。そしてあの日、彼は輝く舞台の上で、若々しく美しい少女――小林庭子(こばやし ていこ)と並び、青年起業家のトロフィーを受け取った。私はうつむき、手の中のがんの診断書を見つめ、苦く笑った。結局、私は彼を、自分では到底釣り合わない人間に育ててしまったのか。……退場の時が来たのだ。私が立ち上がり、会場を後にしようとしたとき、背後から庭子が呼び止めた。隣には辰海が並んで歩いている。私の前に来ると、庭子は当然のように彼の腕に自分の手を絡め、まぶしい笑顔を浮かべて、手にしたトロフィーを差し出した。「佐鳥さん、このトロフィーは本当はあなたのものよ。今日の彼をつくったのは佐鳥さんなんだから」私は辰海に目を向けた。彼は相変わらず淡々とした表情のまま、軽くうなずく。「持っておけ」心の奥では涙があふれ返っていたが、私は笑顔でそれを受け取った。残されたわずかな命に、せめてひとつの思い出を刻んでおこう。もしかしたら、このトロフィーを骨壺に入れて、あの世で両親に自慢できるかもしれない。――ほら、見て。私はこんなにすごいのよ。立派なビジネスエリートを育て上げたの。彼は顔立ちも整って、賢くて、きれいな伴侶まで見つけたんだから……涙がこぼれそうになった瞬間、私は背を向けて歩き出した。家に戻ると、部屋の中を改めて
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