Short
共に蝶となり、風と舞う

共に蝶となり、風と舞う

By:  雨蝶Completed
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
10Chapters
8.6Kviews
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

高校三年の時、両親が亡くなり、私――佐鳥意知子(さとり いちこ)に残されたのはみすぼらしい家だけだった。 けれど私は、ごみ箱の中から一人の弟を拾った。 彼――菅原辰海(すがわら たつみ)はうちの学校で二年生の学年一位だった。 だが誰からも見下され、学校でいじめられても教師は見て見ぬふりをしていた。 なぜなら、たとえ他人に殴られなくても、酒に溺れた父親に毎日殴られ、気弱な母親は決して逆らおうとしなかったからだ。 私は必死に彼を家まで引きずって帰り、手当てをして、何日もかくまった。 やがて彼の母は殴り殺され、私は警察を呼び、彼の父親を捕まえさせた。 「ねえ、これからは一緒に住もう。私にはもう家族はいない。だから、姉さんって呼んで。私があなたの学費を出してあげる!」 彼は名門大学に進みたいと言った。私は学校を辞め、露店を出し、血を売り、日雇いの危険な仕事もした。 卒業後、彼は起業したいと言い、私は全ての貯金を差し出した。 そしてあの日、彼は輝く舞台の上で、若々しく美しい少女――小林庭子(こばやし ていこ)と並び、青年起業家のトロフィーを受け取った。 私はうつむき、手の中のがんの診断書を見つめ、苦く笑った。 結局、私は彼を、自分では到底釣り合わない人間に育ててしまったのか。 ……退場の時が来たのだ。

View More

Chapter 1

第1話

高校三年の時、両親が亡くなり、私――佐鳥意知子(さとり いちこ)に残されたのはみすぼらしい家だけだった。

けれど私は、ごみ箱の中から一人の弟を拾った。

彼――菅原辰海(すがわら たつみ)はうちの学校で二年生の学年一位だった。

だが誰からも見下され、学校でいじめられても教師は見て見ぬふりをしていた。

なぜなら、たとえ他人に殴られなくても、酒に溺れた父親に毎日殴られ、気弱な母親は決して逆らおうとしなかったからだ。

私は必死に彼を家まで引きずって帰り、手当てをして、何日もかくまった。

やがて彼の母は殴り殺され、私は警察を呼び、彼の父親を捕まえさせた。

「ねえ、これからは一緒に住もう。私にはもう家族はいない。だから、姉さんって呼んで。私があなたの学費を出してあげる!」

彼は名門大学に進みたいと言った。私は学校を辞め、露店を出し、血を売り、日雇いの危険な仕事もした。

卒業後、彼は起業したいと言い、私は全ての貯金を差し出した。

そしてあの日、彼は輝く舞台の上で、若々しく美しい少女――小林庭子(こばやし ていこ)と並び、青年起業家のトロフィーを受け取った。

私はうつむき、手の中のがんの診断書を見つめ、苦く笑った。

結局、私は彼を、自分では到底釣り合わない人間に育ててしまったのか。

……退場の時が来たのだ。

私が立ち上がり、会場を後にしようとしたとき、背後から庭子が呼び止めた。

隣には辰海が並んで歩いている。

私の前に来ると、庭子は当然のように彼の腕に自分の手を絡め、まぶしい笑顔を浮かべて、手にしたトロフィーを差し出した。

「佐鳥さん、このトロフィーは本当はあなたのものよ。今日の彼をつくったのは佐鳥さんなんだから」

私は辰海に目を向けた。彼は相変わらず淡々とした表情のまま、軽くうなずく。

「持っておけ」

心の奥では涙があふれ返っていたが、私は笑顔でそれを受け取った。

残されたわずかな命に、せめてひとつの思い出を刻んでおこう。

もしかしたら、このトロフィーを骨壺に入れて、あの世で両親に自慢できるかもしれない。

――ほら、見て。私はこんなにすごいのよ。立派なビジネスエリートを育て上げたの。彼は顔立ちも整って、賢くて、きれいな伴侶まで見つけたんだから……

涙がこぼれそうになった瞬間、私は背を向けて歩き出した。

家に戻ると、部屋の中を改めて見回した。

この家は、彼が大学に合格した年に私が借りたものだ。

六年間の記憶が、隅々にまで染みついている。

夜、荷物をまとめ終えたあと、私は酔い覚ましスープを作り、リビングの食卓で彼を待った。

時計の針が十二時を指したころ、ようやく玄関のドアが開く音がした。

だが、彼を支えて入ってきたのは庭子だった。

「佐鳥さん、今日の祝賀会にはお客さんも何人か来てて、つい飲まされちゃって……止められなかったの。怒ってないよね?」

私は微笑んで首を振った。「彼を寝室に運んで、服を脱がせてあげて」

彼女は頬を赤らめ、うつむきながら唇を噛んだ。「そんな……私たち、まだ付き合ってないのに。辰海はいつも私を避けてばかりで……」

「焦らなくていい。いずれ一緒になるわ。この間、辰海が小林さんに向ける笑顔は、私が十年間見てきた笑顔よりも明るいから」

そのあと、二人で彼の服を脱がせ、庭子がスプーンで一口ずつ酔い覚ましスープを口に運んだ。

やがて彼は少し身じろぎし、口の中でうわごとのように呟いた。「意知子さん……麺屋はもう閉めたよな……僕が……家を買ってやる……お前は休んで……」

言葉の途中で、深い眠りに落ちてしまった。

庭子は小さくため息をつき、ぽつりと漏らした。「佐鳥さん……会社はようやく軌道に乗ったところなのに、まだ資金が足りなくて……」

「ええ、家を買わせたりはしない。お二人の事業の方が大切だから」

そう告げると、私は振り返り、リビングに置いていた自分のスーツケースを引き寄せた。「小林さん、私しばらく出かけるわ。彼には……『さよなら』と伝えて」

そう言い残し、ドアを押し開け、大股で外へと歩き去った。
Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
10 Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status