飛行機を降りると、私は苦労して手に入れた特効薬を抱え、VIPルームへ急いだ。しかし、ドアの前まで来た時、信じがたい会話が耳に飛び込んできた。「今回は彼女が自ら国外まで特効薬を探しに行ったんだって?それなのにあなたが邪魔をするなんて、あまりにひどくない?」「姫野真由美(ひめの まゆみ)がそこまでして尽くしているのに、いつかバレたらどうするつもりなの……?」一瞬の沈黙の後、聴き慣れた杉島慎吾(すぎしま しんご)の、どこか気にかけていない口調が響いた。「バレるはずがない。仮に知られたとしても、一生かけて償えばいいんだ」私はうつむき、特効薬を守ろうとして負った腕の傷を見つめた。飛行機に乗る直前、突然現れて薬を奪おうとしたあの者たちは、慎吾が仕向けた者たちだったのか。今さらながら、血が固まった傷は、焼けつくように痛くなる。VIPルームの自動ドアが開き、車椅子に乗った慎吾が私に向かって急いで来た。近づくと、彼は鋭く血の匂いを嗅ぎ取った。彼は一瞬で慌てふためき、焦りすぎて車椅子から転げ落ちそうになった。しかし、そんなことはお構いなしに、私の手を慌てて取り、じっと見つめた。「真由美、大丈夫か?どこか怪我をしたのか?」その口調は切実だ。男の目に浮かぶ心配は嘘のようには見えず、その動作は昔と変わらず優しい。だが、もうそこに愛の一片すら感じることはできないだった。私はさりげなく手を引っ込めた。「大丈夫よ、ただ、ちょっと……」しかし、言葉が終わらないうちに、次の瞬間、目の前が真っ暗になった。数日の疲労と奔走で、私の身体はついに限界を迎え、気を失ってしまったのである。気がつくと、慎吾の休憩室のベッドに横たわっていた。腕の傷は手当てされて包帯が巻かれているが、彼の姿は見当たらない。起き上がってスマホを取ろうとした時、彼のデスクの上のノートが目に入った。ページを開くと、そこには慎吾の直筆のメモがびっしりと書かれている。【寧々は酸っぱい食べ物が好き。食後は散歩に付き合うこと】【月・水・金は妊婦教室へ。火・木・土はヨガに付き合う】震え止まらない手を抑え、さらにページをめくっていく。毎回の妊婦検診から、日々の些細な変化まで、姫野寧々(ひめの ねね)の妊娠中に好きな食べ物、好きなこと、すべてが余すとこ
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