婚約者の向井圭介(むかい けいすけ)との冷戦が三日目に入った頃、ようやく海外にいる先生と連絡が取れ、参加したい意向を伝えた。電話の向こうでしばし沈黙があった後、先生は苦しげに口を開いた。「和希、君の家はもう君一人だけだ。それに結婚する年頃でもある。ここに来たら、君の身の振り方はどうするつもりだ?それに、国際情勢は目まぐるしく変わり、国内ほど安定して安全ではない。女の子一人では……」決心はしていたものの、胸の奥が避けがたく刺すように痛んだ。もともとの計画では、確かに来月、幼なじみの婚約者と結婚するはずだった。だが、お互いの気持ちが通じ合った結婚だと思っていたら、いつしかそれは、一方が永遠に我慢し続ける、三人で窮屈な関係へと変わっていた。だから私は身を引き、もっと意味のあることをしようと選んだのだ。「先生、父も兄も困難にひるみませんでした。私も同じです」電話の向こうで長いため息が漏れた。「国内の事務所にすぐ連絡を取らせる。準備にどれくらい必要だ?」「十日あれば」通話を終え、通信室に戻って腰を下ろしたら、圭介がやって来た。彼は険しい顔で婚姻届を差し出した。「個人情報を確認して、あとで提出しろ」父と兄が相次いで戦死した後、彼は私の面倒を見やすくするために、早々に官舎を申請していた。以前なら、放送局に緊急の伝達があれば、どんなに遅くても必ず自分で送り迎えしてくれ、私が少しでも危ない目に遭わないかと気を揉んでいた。だが、吉田小春(よしだ こはる)が戻って来てからは、すべてが変わってしまった。私はその家で最も透明な存在になった。今回、小春に大切にしていた腕時計を奪われ、抗議したが実らず、むしろ彼に責め立てられたため、私は三日間、あの家に帰らなかった。今回会っても、彼から一声の心配や気遣いの言葉さえなかった。愛は隠せない。彼の心には既に私の居場所はない。ただ私が鈍感すぎて、気づくのが遅かっただけだ。少し躊躇したが、余計な波風を立てたくはなかったので、とりあえず婚姻届を受け取った。内心では、どうやってこの届を握り潰すかばかり考えていた。私が不機嫌だと思ったのだろう、彼は不満げな顔をした。「ガラクタの時計だ、小春が気に入ったんだから譲ってやればいいじゃないか。毎日、そんな顔をして誰に向かってるんだ?」まだ足りな
続きを読む