道則は、毅然と立ち去る夏子の背中を見つめたまま、しばらく呆然としていた。やがてうつむきながら独りごとのように言った。「もし俺が明を玲子の腹に戻せたら、お前は俺を許してくれるのか?」「夏子、待ってろよ。あの女を必ず懲らしめて、お前に俺の本気を見せてやる!」夏子は病室に戻ると、母が牧野先生の手を取りながら楽しそうに話しているのを目にした。二人は年も近く、すぐに意気投合していた。夏子の顔色が優れないのに気づき、二人は声をそろえて「どうしたの?」と心配そうに尋ねた。夏子は道則にしつこく付きまとわれたことを話し、二人は彼を厳しく非難した。そんな中、母がいい知らせを伝えてくれた。「芳子、牧野先生の永住権の手続き、やっと全部終わったのよ。来週には一緒にイギスタンへ帰れるから、もうあの男の顔なんて二度と見なくて済むんだから!」それを聞いて、夏子はようやく笑顔を見せた。道則はまるで悪魔のようで、彼の顔を見るたび、あの悪夢のような日々が思い出される。だから、彼女は一刻も早くその場を離れたかった。ところが、玲子は道則と京子の会話を盗み聞きし、夏子が戻ってきたことを知ってしまった。夏子の出現が、自分の白野家への野望を台無しにするのではと恐れた玲子は、病院のパジャマ姿のまま牧野先生の病室の前で待ち構えていた。夏子は彼女の顔を見るのも嫌で、吐き気を催すほどだった。玲子は弱々しい様子を装いながら懇願した。「夏子さん、どうか私と道則の不幸な恋を成就させてくれないか……」夏子は行き交う人々の目が気になって、恥ずかしくて相手にしたくなかった。「夏子さんなんて呼ばないで。私は道則とはもう離婚したのよ、彼が誰と再婚しようと、私には関係ない」玲子は、夏子が白野家という有利な立場をそう簡単に手放すとは思っていなかった。彼女はなおも哀れなふりをして、地面にひざまずき夏子のズボンの裾をつかんだ。その様子は周囲の注目を集め、あちこちで指をさされ、ひそひそと噂された。「私は白野家のために命がけで子どもを産んだのよ。子どもにはお父さんが必要なの」そう言いながら涙をこぼし、悲しげな目で夏子を見上げた。夏子はうんざりしたように目をそらし、「玲子、本当に少しも成長してないのね。その情熱を道則に向けたら?そうすれば私に迷惑かけずに済
Read more