All Chapters of 探偵ホッパーは、未来を変える: Chapter 1 - Chapter 10

27 Chapters

第1話 探偵JK、異世界に召喚される

尾長千絵美は、ごく普通の女子高生だった。 ただし、ひとつだけ普通ではなかったのは、彼女が“現役の探偵”であるということだ。といっても、それは「謎の美少女探偵」のような華やかなものではない。放課後の図書館で、未解決事件の資料を読み漁り、ネットの匿名掲示板で情報を集め、誰にも気づかれないように地味に事件の真相を突き止める。彼女にとって、それは日常の一部だった。人並み外れた洞察力と、どんな些細な情報も見逃さない論理的思考力が、彼女の唯一の武器だった。その日も、いつものように図書館の奥にある古書コーナーで、行方不明事件の資料を調べていた。薄暗く、埃っぽい空気が、彼女の集中力をさらに高める。事件の核心に迫りかけたその時、床に広げた資料の下から、奇妙な光が漏れ出した。それは、魔法陣だった。 光はまるで意思を持った生き物のように蠢き、やがて床一面を覆う複雑な紋様を描き出す。千絵美は、探偵としての冷静な頭脳で状況を分析しようと試みたが、目の前の現象は、彼女の知るどんな科学法則にも当てはまらなかった。「……何、これ?」光は一瞬にして図書館を、そして彼女の存在を飲み込んだ。次に目を開けた時、千絵美の目の前には、見慣れない星空が広がっていた。 空気は澄んでいて、遠くで水の流れる音が聞こえる。彼女は石畳の上に倒れ込んでいた。身体を起こすと、すぐ近くに、月明かりを浴びて佇む一人の青年がいた。 彼の瞳は夜空のように深く、その顔には何の感情も浮かんでいない。千絵美は、警戒しながら立ち上がった。「……あなたは、誰ですか?」青年は、千絵美の言葉に答えることなく、ゆっくりと近づいてくる。そして、彼女の顔をじっと見つめ、淡々と告げた。「君の能力が必要だ」 「は?能力って……何を言ってるんですか?」 「私はユージン。君をこの世界に呼び出した者だ」千絵美は混乱した。転移?魔法?まるでファンタジー小説のような話だ。しかし、目の前の青年から発せられる力は、言葉では説明できない確かな現実として彼女の心をざわつかせた。「あなた、私を元の世界に戻してくれるんですか?」 「ああ。ただし、君が私の依頼を成功させたら、だ」ユージンは冷たく言い放ち、千絵美に一枚の紙を差し出した。そこには、彼女の見たこともない文字と、奇妙な図形が羅列されていた。「この世界の『謎』を解き明かせ。それが、君
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第2話 はじめての依頼

千絵美が目を覚ますと、そこは石造りの部屋だった。壁には見たこともない紋様が描かれ、天井からは不思議な光を放つ鉱石がぶら下がっている。ベッドはふかふかで、身につけているのは、図書館にいた時の制服から着替えさせられたらしい、薄い藍色のワンピース。「……夢、じゃないのね」昨夜の出来事を思い出し、小さくため息をつく。扉が開くと、ユージンが静かに入ってきた。彼の表情は相変わらず読み取れない。「依頼だ。支度をしてくれ」そう言って、彼は分厚い羊皮紙を千絵美に手渡した。そこには、彼女の知る文字とは全く違う、優雅な曲線を描く文字で何かが書かれている。「読めないわ」「ああ、すまない。魔法で書き換えておく」ユージンが指先から青い光を放つと、羊皮紙の文字が日本語へと変わっていく。千絵美は、目の前で起こった現象に驚きながらも、探偵としての好奇心が勝った。「これは……『風の都』で起きた、連続宝飾品窃盗事件の報告書?」「そうだ。この国では、特定の魔法でしか解けないと言われている謎の事件だ」「特定の魔法……でも、わたしは魔法なんて使えない。だから探偵なの」千絵美は、ユージンから事件の概要を聞きながら、頭の中で情報を整理していく。この世界では魔法が常識であり、科学的な知識や論理的思考は全く通用しないと考えられているようだ。「君に期待しているのは、その『探偵』としての能力だ。私は君の行動を魔法でサポートする。…さあ、行くぞ」ユージンは迷うことなく部屋を出ていく。千絵美は、ユージンの後ろ姿を見つめ、決意を固めた。「元の世界に帰るために、まずはこの事件、解決してみせる!」──────二人がたどり着いたのは、高くそびえる塔が特徴的な王都だった。石畳の道を行き交う人々は、みな中世ヨーロッパのような華やかな衣装を身につけ、活気に満ちている。しかし、千絵美の目は、その華やかさの裏に潜む違和感を捉えていた。「風の都の事件現場はここだ」ユージンに案内されてやってきたのは、街一番の宝飾店だった。ショーケースのガラスは砕かれ、高価な装飾品がごっそりとなくなっている。店主はうなだれながら語った。「犯人は誰にも見られず、まるで風のように消えたのです。魔法使いが結界を張っていたにもかかわらず……」千絵美は、被害状況を細かく観察していく。飛散したガラス片、犯人が残したらしき足
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第3話 科学と魔法の推理

千絵美の言葉に、ユージンはわずかに眉をひそめた。「どういうことだ?それはこの街にありふれている埃だ。鑑定するまでもない」「いいえ。日本の科学捜査では、こんなに目が粗い埃はあり得ないの。それに、匂いが違う」千絵美は指先の粉を鼻に近づける。ツンとくるような、化学薬品のような匂いだ。この世界では「埃」と認識されているものが、千絵美の持つ現代の知識では全く別のものとして捉えられている。このギャップこそが、ユージンが彼女を召喚した理由であり、同時に二人の間に横たわる溝でもあった。ユージンは、納得していない表情のまま、魔法で粉を小さなガラスの小瓶に移した。「これを私の研究室に持ち帰ろう。君が言う『科学』とやらで、この粉の正体を突き止めてみせろ」彼の言葉には、千絵美の能力を試すような響きがあった。「わかったわ。でも、鑑定に必要な道具がない」「必要なものは、私が魔法で作ろう」ユージンはそう言うと、千絵美を連れて宝飾店を後にした。──────ユージンの研究室は、街の片隅にある古びた塔の中にあった。中は、薬品の入ったフラスコや、見たこともない奇妙な装置で埋め尽くされている。ユージンは、部屋の隅にある作業台に粉の入った小瓶を置くと、千絵美に尋ねた。「で、君が言う『科学捜査』には何が必要だ?」「まず、顕微鏡。あと、この粉の成分を調べるための試薬が必要」千絵美の言葉に、ユージンは目を閉じる。そして、彼の指先から放たれた光が、空中に瞬く間に顕微鏡の形を作り上げた。それは、千絵美が知る顕微鏡とは少し違うが、見事な造形だった。「すごい……」千絵美は、思わず声を漏らした。ユージンは、何も言わずに次の道具、そして試薬を次々と魔法で生み出していく。「ユージン、どうして私を召喚したの?…他にも、私よりも優秀な探偵はいたはずよ」千絵美が意を決して尋ねると、ユージンは作業台から目を離さずに答えた。「この世界では、魔法が万能だと思われている。そのため、人々は魔法に頼り、思考を放棄している。…君は、魔法では決して解けない『謎』を解くことができる。それが、君を呼んだ理由だ」彼の言葉には、この世界に対する深い失望と、千絵美への期待が込められているように感じられた。千絵美は黙って顕微鏡を覗き込んだ。すると、目の前に映し出されたのは、無数の小さな結晶だった。その形は、一般
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第4話 ホッパーと召喚者

事件は千絵美の推理通りに解決した。ユージンの情報網により、犯人は宝石を粉末にして持ち運び、別の場所で魔法を使って元の姿に戻していたことが判明したのだ。街の人々は、魔法に頼りきった捜査では決して解けなかった事件が解決したことに驚き、千絵美とユージンに感謝の言葉を述べた。ユージンの研究室に戻った千絵美は、達成感に満たされ、ソファに深く座り込む。「ユージン。今回の依頼はこれで終わり?」「ああ。だが、次の依頼もすぐに来るだろう」彼は千絵美の隣に座ると、静かにそう告げた。その表情は相変わらず無感情だが、どこか満足しているように見えた。「ねえ、ユージン。なんで私のコードネームを『ホッパー』にしたの?」千絵美の問いかけに、ユージンはわずかに目を丸くした。「ホッパー。飛び跳ねる者、という意味だ。君は、まるでバッタのように、私の想像を超えて次々と謎を解き明かしていく。…だから、君の能力に最もふさわしいと思った」彼の言葉には、千絵美の能力への純粋な賞賛が込められていた。初めて彼の口から聞いた「ホッパー」という言葉は、彼女にとって特別な響きを持った。─────翌朝、千絵美はユージンに連れられて、王宮へと向かっていた。「どうして王宮に?次の依頼の調査?」「いや。君の存在を、この国の王に報告する必要がある。私は君を、この国の『正式な協力者』として認めてもらうつもりだ」ユージンの言葉に、千絵美は驚きを隠せない。彼がそこまで自分のことを考えてくれていたとは想像していなかったからだ。王宮の謁見の間は、想像を絶するほど豪華絢爛だった。玉座に座る国王の姿に、千絵美は思わず息をのむ。「……ユージンよ。貴公が呼び出したという『異邦人』は、本当に我らの役に立つのか?」国王は、千絵美を値踏みするように見つめ、そう尋ねた。ユージンは国王の言葉に臆することなく、堂々と答えた。「陛下。彼女は、魔法では解けない謎を解き明かすことができる。彼女の存在は、この国に新たな光をもたらすでしょう」その言葉は、まるでユージンが千絵美の能力を信じ、そして彼女を守ろうとしているように聞こえた。千絵美は、ユージンの隣で、彼の背中を見つめた。最初は冷たく、どこか無機質だと思っていた彼の背中は、今はとても頼もしく見えた。「…ホッパー。これが、君のこの世界での新たな居場所だ」ユージンが静かに
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第5話 もう一つの目的

王宮での謁見を終え、ユージンの研究室に戻った千絵美は、どこか浮かない顔をしていた。「どうかしたか、ホッパー?」ユージンは、書類を整理しながら千絵美に尋ねた。彼の呼び名が「千絵美」から「ホッパー」に戻っている。それが、彼女の胸に少しだけ寂しさを残した。「ユージンは……私を本当に元の世界に戻してくれるの?」千絵美の突然の問いかけに、ユージンの手が止まる。彼は静かに振り返り、彼女をまっすぐに見つめた。「ああ。約束だ」「本当に? だって、私の能力がこの世界に必要なら……」「……君は、この世界に留まるべきだと?」ユージンの声が、わずかに揺れた。「……わからない。でも、あなたは、私がいるべき場所はここだって、そう思ってるんじゃない?」千絵美の言葉に、ユージンは答えなかった。沈黙が二人の間に流れる。その時、ユージンの胸元で光を放つペンダントがあった。それは、千絵美がこの世界に来たとき、ユージンが身につけていたものだ。「それは何?」千絵美が尋ねると、ユージンはペンダントをそっと握りしめた。「これは、私をこの世界から救い、そして、私をこの世界に閉じ込めた……呪われた石だ」彼の言葉には、今までにない深い苦悩が含まれていた。─────ユージンは、その石の秘密を語り始めた。「この石は、この国に古くから伝わる秘宝だ。強力な魔法を操ることができ、過去と未来、そして……異世界と繋がることができる」彼は言葉を選びながら、ゆっくりと続けた。「私はこの石を使って、この国を襲う災厄を予知し、過去を変えようと試みた。だが……その試みは失敗に終わった。それどころか、未来はさらに悪い方向へと向かってしまった」ユージンは、悔しそうに拳を握りしめた。「私は、その罰としてこの世界に幽閉された。そして、私の失敗を正すため、新たな運命の導き手を……君を召喚した」千絵美は、ユージンの告白に息をのんだ。彼の目的は、単に「探偵」としての彼女の能力を借りることではなかった。それは、彼の過去の過ちを正すため、そしてこの国を救うための、壮大な計画の一部だったのだ。「…私の失敗を正すために、君に未来を託したい。君は、私とは違う、この世界を救う唯一の希望だ」そう語るユージンの瞳に、千絵美は初めて、絶望と、そして一筋の光を見た。ユージンは千絵美に、彼がこの石を使って予知したという、こ
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第6話 未来を告げる予言

ユージンの研究室で、千絵美は彼が用意した報告書を読み込んでいた。それは、彼の予知能力が捉えた、この国に今後起こりうる災厄の記録だった。「……信じられない。こんなことが本当に起こるの?」報告書には、過去に起きた小さな火災事故から、数ヶ月後に発生するであろう大地震、そして、未来の国王暗殺計画まで、信じられないほど詳細な情報が記されていた。「私の予知は、時系列と出来事の因果関係を視覚化する魔法だ。だが、過去を変えようとすれば、未来はさらに悪い方向へと歪んでしまう」ユージンは静かにそう語った。彼の言葉には、過去の失敗による深い後悔が滲み出ている。「だから、君が必要なんだ。君は『未来』に囚われていない。君の自由な発想と、現代の知識こそが、この世界を救う鍵となる」「私の知識が、この世界の未来を変えられる?」「ああ。例えば、この報告書にある『大地震』は、この地の地脈の乱れが原因だと予知している。だが、君の知識があれば、地脈の乱れがどのような地質学的変化を引き起こすか、もっと具体的な手がかりを得られるはずだ」ユージンの言葉に、千絵美の探偵としての心がざわめいた。それは、単なる事件の謎解きではない。世界の未来をかけた、壮大なスケールの謎解きだった。─────二人の最初の任務は、報告書にある「過去に起きた火災事故」の再調査だった。ユージンは魔法で当時の現場の様子を再現し、千絵美は現代の科学捜査の知識を使って原因を突き止める。「ユージン。この火災は、ただの事故じゃないわ。引火性の高い特定の薬品が使われてる。そして、この薬品の成分……」千絵美は、ユージンが魔法で再現した現場の匂いを嗅ぎ、推理を重ねる。その薬品は、ユージンの予知では確認されていないものだった。「その薬品は、この国では流通していない。…どこから入手した?」「おそらく、別の国から密輸されたものよ。この事件は、もっと大きな陰謀の一部に違いない」千絵美の推理は、ユージンの予知をも超えるものだった。彼の予知は、あくまで「起こりうる事実」を映し出すだけ。しかし、千絵美は「なぜそれが起きたのか」という原因に迫ることができた。ユージンは、彼女の鋭い推理に、初めて心の底から驚いているようだった。「ユージン、予知にある次の災厄は何?」千絵美の問いに、ユージンは静かに告げた。「次の災厄は、『王宮に仕える高
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第7話 毒殺の影

千絵美とユージンは、ユージンの予知した毒殺事件を未然に防ぐため、王宮に潜入した。標的は、国王に次ぐ権力を持つ高官ゼノン侯爵。「ユージン。侯爵の行動を予知で追える?」「ああ。彼の行動は、今夜の晩餐会まで細かく見える。毒は、彼が口にするスープに仕掛けられる」ユージンは静かに告げた。彼の瞳には、未来の映像が映し出されている。千絵美は、探偵としての直感を研ぎ澄ます。侯爵のスープに毒が仕掛けられる。だが、誰が、どうやって?晩餐会が始まり、豪華な料理が次々と運ばれてくる。千絵美はユージンとともに、侯爵の周りを注意深く観察する。侯爵は、周囲の人間と楽しげに談笑し、差し出されたスープを一口飲んだ。「ユージン! 今、飲んだわ!」千絵美が叫ぶ。だが、ユージンの表情に焦りはなかった。「落ち着いて。これは『仮の予知』だ。君の存在が、未来を変えたからだ」ユージンは、魔法で侯爵の体内の毒を無効化する。千絵美の存在が予知した未来を変化させ、毒は未遂に終わった。しかし、千絵美は違和感を覚えていた。「毒は、スープに仕掛けられたんじゃない。別のものよ」ユージンの予知は、正確ではなかった。なぜ?千絵美は、侯爵がスープを飲む前に口にしていたものに注目した。それは、侯爵が持参した、美しい銀の匙だった。「ユージン。あの銀の匙を調べて!」ユージンは千絵美の指示通りに魔法で銀の匙を鑑定する。すると、匙の表面に、ごく微量の透明な液体が付着していたことが判明した。その液体は、ユージンの知るいかなる毒とも異なるものだった。「これは…この世界の毒ではないな」「ええ。これは、日本の科学では『液体窒素』と呼ばれているものよ。ごく少量でも、金属を凍らせて脆くする効果がある。侯爵のスープの毒は、彼が匙をスープに入れることで、匙に仕掛けられた毒が溶け出し、スープと混ざる仕組みだったのよ」千絵美は、犯人の巧妙なトリックを解き明かしていく。しかし、液体窒素は、ユージンの予知には映し出されていなかった。千絵美の推理は、犯人がこの世界の魔法使いではないことを示唆していた。「ユージン。これは、私と同じ、異世界から来た人間の犯行よ」その言葉に、ユージンの無表情だった顔に、初めて明確な驚きと、そして警戒の色が浮かんだ。「この世界に、君以外にも『異邦人』がいるだと?」千絵美は、侯爵の身を守り
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第8話 もう一人のホッパー

千絵美の言葉に、ユージンの顔から完全に表情が消えた。その瞳の奥に、警戒の色が深く宿っているのが見て取れる。「……異邦人。私以外にもこの世界に来た者がいるのか?」「ええ。しかも、侯爵を狙った液体窒素のトリックは、その人物が現代の科学知識を持っている証拠よ」千絵美は、緊張でごくりと喉を鳴らした。侯爵の毒殺を未然に防いだ安堵感は、新たな敵の出現によって、一瞬にして恐怖へと変わる。「その者は、なぜこの国の王族を狙う?」ユージンの問いに、千絵美は首を横に振った。彼女の持つ知識では、答えは出ない。ただ、探偵としての直感が、この事件の背後には、ユージンが予知した「災厄」とは異なる、もっと個人的な理由があることを告げていた。「この事件は、私たちの手では解けないかもしれない……」千絵美は思わずそう呟いた。ユージンは静かに彼女の言葉を聞き、そして、意外なことを口にした。「いや。解ける」彼は、千絵美の肩にそっと手を置く。その手はひんやりと冷たいが、不思議なほど千絵美を落ち着かせる力があった。「私が魔法で過去を探り、君が現代の知識で犯人の思考を読む。私たちは二人で一つだ。必ず、その謎を解き明かす」ユージンの言葉には、彼女の探偵としての能力への絶対的な信頼が込められていた。翌日、二人は王宮を再び訪れ、王族と親しい人物たちを探ることにした。ユージンは魔法で彼らの心を読み、千絵美は会話の中に潜む矛盾や不自然な言動を探る。「ユージン。一人、気になる人がいるわ」千絵美が指差したのは、国王の護衛を務める、若く優秀な騎士だった。彼の目は、国王に絶対的な忠誠を誓っているように見えた。だが、千絵美の直感は、その忠誠心には別の感情が隠されていると告げていた。「彼は、故郷を戦争で失った過去がある。その故郷を滅ぼしたのは、国王の判断ミスだと彼は信じている。…復讐の機会をうかがっている」ユージンは魔法で読み取った彼の心の内を、淡々と千絵美に伝えた。「その復讐心と、現代の知識が結びついたら……」千絵美の脳裏に、一つの可能性が浮かび上がった。もし、彼もまた、ユージンと同じように、この世界に召喚された「異邦人」だとしたら?復讐を果たすために、現代の知識とこの世界の魔法を組み合わせ、王族を狙っているのかもしれない。千絵美は、ユージンとともに彼の故郷の歴史を調べ始め
last updateLast Updated : 2025-09-22
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第9話 復讐の騎士

千絵美は、ユージンとともに、若き騎士の故郷についてさらに深く調べていた。ユージンの予知は、彼が故郷を失った日の光景を映し出す。炎に包まれる村、逃げ惑う人々、そして、その光景を遠くから冷徹な目で見ていた国王。「…ひどい。ユージン、どうして?」千絵美は、その光景に胸を痛めた。ユージンの予知は、国王が村を救うための援軍を出さなかったという事実を示していた。「国王は、その村を捨てることで、この国の兵力を温存する道を選んだ。…騎士は、国王のその決断が、自分の故郷を滅ぼしたと信じている」ユージンは静かにそう語った。彼の声は、騎士の悲しみと怒りを映し出しているようだった。「だから、彼は国王への復讐を誓ったのね。私と同じ、異世界から来た知識を使って」千絵美は、騎士の行動に共感しそうになるのを必死に堪えた。復讐は、決して正当化されるべきものではない。だが、彼の悲しみは、千絵美にも痛いほど伝わってきた。二人は、騎士が次に起こす行動を予測し、王宮で張り込みを始める。「ユージン。彼は、国王が最も信頼を置く人物よ。どうやって毒を盛るつもり?」「予知では、彼は国王の食事に魔法で毒を仕掛けると出ている。だが、それは過去の予知だ。…彼は、君と同じ、現代の知識を持っている」ユージンは警戒を強めていた。もう一人のホッパーは、ユージンの予知能力をかいくぐるための、巧妙な罠を仕掛けてくるはずだ。その時、一人の侍女が、国王の食事を運んできた。千絵美は、その侍女の歩き方、視線の動き、そして、彼女が持つトレーに置かれたグラスに、違和感を覚える。「ユージン!待って! 毒は食事じゃない!グラスよ!」千絵美は叫んだ。侍女は、グラスに特別な細工をしていないように見えたが、彼女の持つグラスは、他のグラスよりもわずかに表面が曇っていた。ユージンは、すぐに魔法でそのグラスを調べた。すると、グラスの内側には、極めて薄い、見えないほどの薬品が塗られていた。それは、空気に触れると瞬時に毒へと変化する、現代の化学知識を応用した巧妙なトリックだった。「…見事だ、ホッパー」ユージンは、千絵美の鋭い洞察力に感嘆の声を漏らした。二人は、侍女を止めることなく、その毒を解毒する魔法を施した。その夜、王族は、騎士の復讐から救われたことを知る由もなかった。事件は解決した。だが、千絵美の心には、新たな
last updateLast Updated : 2025-09-23
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第10話 決着の刻

毒殺事件は未遂に終わった。しかし、千絵美とユージンの心には、安堵よりも、もう一人の異邦人に対する警戒心が深く刻み込まれていた。「ユージン。彼は必ずまた狙ってくる。次は、もっと巧妙な方法で」千絵美は、ユージンが予知した未来の映像を頭の中で再生し続けた。騎士は、復讐を果たすためなら手段を選ばないだろう。その夜、王宮の裏庭で、二人はユージンの魔法で、騎士の居場所を突き止めた。月明かりの下、騎士は一人、剣の稽古をしていた。その剣さばきは美しく、そしてどこか悲しい。「……ユージン、私に話させて。きっと、彼を止められる」千絵美は、騎士の悲しみを理解していた。彼もまた、ユージンと同じように、運命に翻弄された人間なのだ。ユージンは、わずかに首を傾げたが、千絵美の強い意志を感じ取り、静かに頷いた。千絵美は、騎士の前に姿を現した。「あなたは……誰だ?」騎士は、警戒しながら剣を構えた。「私は、千絵美。あなたと同じ、異世界から来た人間よ」千絵美は、彼の瞳をまっすぐに見つめた。彼の瞳には、故郷を失った悲しみと、国王への深い憎しみが渦巻いていた。「あなたが、侯爵を狙ったのね。なぜ、こんなことをするの?」「復讐だ! この国の王は、私の故郷を見捨てた。その代償を、彼らに払わせる!」騎士は、怒りに満ちた声で叫んだ。「でも、復讐をしても、故郷は戻らない。あなたを召喚した者は、あなたをただの道具として使っているだけよ」千絵美の言葉に、騎士の顔に動揺の色が浮かんだ。「黙れ! 私の目的は、あなたには分からない!」騎士は、千絵美に斬りかかろうと剣を振り上げた。その瞬間、ユージンが千絵美の前に立ちふさがる。彼の指先から、騎士の動きを封じる魔法が放たれた。「やめて!ユージン!」千絵美は叫んだ。彼女は、騎士の復讐心を理解し、そして彼の悲しみに共感していた。「彼は、この国の未来を脅かす存在だ」ユージンは冷たく言い放ち、さらに強力な魔法を放とうとする。だが、その時、千絵美はユージンの腕を掴んだ。「待って! 彼の悲しみは、あなたも知っているはずよ!」千絵美の言葉に、ユージンの魔法が止まった。彼は、騎士の過去の記憶を予知で見ていた。彼がどれほどの悲しみと怒りを抱えているか、誰よりも理解していた。「……あなたの憎しみは、私には痛いほどわかる。でも、どうか、これ以上
last updateLast Updated : 2025-09-23
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