All Chapters of 探偵ホッパーは、未来を変える: Chapter 11 - Chapter 20

27 Chapters

第11話 黒幕の影

騎士の復讐を止めた千絵美は、ユージンとともに彼の身柄を確保し、ユージンの研究室へと連れて帰った。騎士は、自らの愚かさに気づき、憔悴しきっていた。「私は…私は、何のためにこの世界に呼ばれたんだろう……」彼は、涙ながらにそう呟いた。「なぜ、あなたも召喚されたの?」千絵美の問いに、騎士は静かに答えた。彼もまた、千絵美と同じように、ある日突然、見知らぬ場所に転移させられたのだという。そして、彼の前に現れたのは、ユージンとは別の人物だった。「その人物は、この世界を救うために力を貸してほしい、と言った。そして、私に、この国を滅ぼすための、未来の災厄を予知した…」騎士の言葉に、千絵美とユージンは顔を見合わせた。騎士を召喚した人物は、ユージンと同じ予知能力を持っていた。「その人物は、どんな姿をしていた?」ユージンの問いに、騎士は首を横に振った。「わからない。フードを深く被っていて、顔は全く見えなかった。…ただ、私と同じ、異邦人だと言っていた」その人物も、千絵美や騎士と同じように、現代の知識を持つ異邦人なのかもしれない。だが、その目的は、ユージンとは全く逆だった。ユージンがこの国を救おうとしているのに対し、その人物は、この国を滅ぼそうとしている。千絵美とユージンは、騎士の証言を元に、黒幕の行方を追うことにした。ユージンは、自らの予知能力を使って、その人物の居場所を突き止めようと試みる。しかし、ユージンの予知は、まるで何かに邪魔をされているかのように、その人物の姿を捉えることができない。「なぜだ……予知が乱れている。この人物は、私と同じ、いや、私を上回る予知能力を持っているかもしれない」ユージンは、焦りの色を浮かべた。彼の予知が通じないということは、千絵美の探偵能力だけが頼りだということだ。「大丈夫よ。ユージン。私が必ず見つけ出す」千絵美は、騎士の証言を元に、推理を始めた。黒幕は、なぜこの国を滅ぼそうとしているのか?そして、なぜ騎士を召喚し、彼を利用したのか?千絵美の探偵としての直感が、この事件の背後には、ユージンが予知した「災厄」とは別の、個人的な理由があることを告げていた。それは、ユージンの過去の失敗と、深く関わっているのかもしれない。千絵美とユージンの前に立ちはだかる、強大な敵。二人の運命は、今、クライマックスへと向かおう
last updateLast Updated : 2025-09-23
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第12話 予知の交錯

千絵美とユージンは、騎士の証言を元に、黒幕の行方を追っていた。ユージンの予知能力は、依然としてその人物の姿を捉えることができない。それは、相手もまた強力な予知能力者であることを示していた。「ユージン、相手は私たちの動きを予知しているわ。このままでは、罠にはまるかもしれない」千絵美の言葉に、ユージンは静かに頷いた。「ああ。だが、私の予知もまた、この国の滅亡を告げている。私たちは、この予知を覆さなければならない」彼は、自身の予知能力に逆らい、千絵美の直感と推理を頼りに、真の黒幕を追い詰めることを決意した。二人は、騎士の故郷が滅びた原因となった、国王の判断ミスについて改めて調べ始めた。すると、国王の顧問として、その判断に関わったとされる、一人の老賢者が浮かび上がった。「ユージン。この人物、予知で調べられる?」千絵美が尋ねると、ユージンは目を閉じた。彼の予知が、老賢者の過去を映し出す。老賢者は、元々はユージンの師匠であり、かつては国のために尽力した人物だった。だが、ある日、彼はユージンと同じ予知能力を手に入れる。そして、未来に起こるであろう災厄を予知し、それを防ぐためにユージンとは全く異なる道を歩んでいた。「彼は、この国の滅亡を予知した。そして、その原因は…私にある、と」ユージンの声が震えた。彼の師匠は、ユージンの失敗が、この国の滅亡を招くと予知し、ユージンとは別の方法で国を救おうとしていたのだ。「そんな…」千絵美は言葉を失った。黒幕は、ユージンの師匠だった。そして、彼は、ユージンの失敗を正すために、千絵美とは別の異邦人、つまり騎士を召喚し、ユージンが愛するこの国を滅ぼそうとしていた。それは、ユージンの過去の失敗と、深く関わっている、悲しい運命の物語だった。ユージンは、その真実を知り、激しく動揺した。彼は、自分をこの世界に閉じ込めたのが、かつて尊敬していた師匠だったことを知り、苦悩に満ちた表情を浮かべた。「ユージン、大丈夫よ。私たちが、この悲しい予知を覆してみせる。あなたと、私、そして、救った仲間たちと…」千絵美は、ユージンの手を強く握った。彼女の言葉は、ユージンの心に、諦めない勇気を与えた。二人は、師匠の居場所を突き止め、最終決戦の場へと向かう。「ユージン。これは、あなたの予知と、私の探偵能力、そして、あなたの師匠の予知の、最後の
last updateLast Updated : 2025-09-24
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第13話 もう一つの予言

千絵美とユージンは、師匠の居場所を突き止め、深い森の奥にある古代遺跡へと足を踏み入れた。そこには、ユージンがこの世界に閉じ込められた原因となった、強力な魔法陣が描かれていた。「…師匠。なぜ、こんなことを…」ユージンは、悲しげな声でそう呟いた。ユージンの師匠は、静かに二人の前に姿を現す。彼の瞳は、もはやユージンが知る優しい光を失い、未来の絶望に囚われていた。「私は、この国の未来を見た。お前がこの国を滅ぼす、と。だから、私はお前とは別の未来を創るために、動いたのだ」師匠の言葉に、ユージンは震えた。彼は、自分が師匠の予知した未来を、知らず知らずのうちに招いていたことを悟った。「私が召喚した『異邦人』は、私と同じ、この国の王に復讐を誓った者だった。そして、彼は、お前が愛するこの国を滅ぼすだろう。…それが、お前が犯した過ちの代償だ」師匠は、冷たい声でそう告げた。彼は、この国を滅ぼすことこそが、ユージンに代償を払わせ、この世界を正しい未来へと導く唯一の方法だと信じ込んでいた。千絵美は、ユージンの手を強く握り、師匠に訴えかけた。「違う! ユージンがこの国を滅ぼす未来は、もうなくなったわ!」「…どういうことだ?」師匠は、千絵美の言葉に、わずかに動揺を見せた。「あなたが予知した未来は、もう変わったの。ユージンの予知能力と、私の探偵能力が合わさって、この国の未来を、私たちの手で、変えることができたから!」千絵美は、これまでの出来事を、師匠に語り始めた。連続宝飾品窃盗事件、そして、騎士の毒殺未遂事件。彼女は、ユージンの予知だけでは防げなかった事件を、探偵としての知識と直感で解決してきた。「あなたの予知も、ユージンの予知も、完璧ではなかった。でも、私たちの予知には、もう一つの可能性があった。それは、人の心に寄り添うことよ」千絵美は、騎士を救ったときのことを、師匠に伝えた。「私は、騎士の悲しみに寄り添うことで、彼の復讐心を解くことができた。彼の復讐心が消えた今、あなたが見た『未来』も、もう現実にはならないわ!」千絵美の言葉に、師匠は茫然とした。彼は、未来を変えるために、愛する弟子を犠牲にし、異邦人を利用したが、そのすべての計画が、千絵美とユージンの絆によって、覆されたのだ。「…馬鹿な。私の予知は、絶対に正しいはずだ……」師匠は、自分の予知能力に
last updateLast Updated : 2025-09-24
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第14話 恋の結末、そして始まり

師匠は、千絵美とユージンの力によって、未来の絶望から解放された。彼は、自らの過ちを悟り、ユージンに謝罪した。「ユージン…私は、間違っていた。未来は、予知するものではなく、自らの手で創り出すものだったのだな」師匠の言葉に、ユージンは静かに頷いた。「師匠。私たちは、この世界を救うために、これからも共に歩んでいきます」ユージンは、千絵美の手を握り、そう告げた。その言葉には、師匠への尊敬と、千絵美への深い愛情が込められていた。師匠は、その光景を静かに見つめ、微笑んだ。「…ユージン。君は、もう私を必要としない。君には、もう一人の『ホッパー』がいる」師匠は、千絵美に優しく語りかけた。「君は、ユージンがこの世界を救うための、最後の鍵だ。そして、君自身が、この世界を変える『奇跡』だ」数日後、王宮では、師匠の助言により、国王が過去の過ちを認め、騎士の故郷の再興を約束した。騎士は、復讐を捨て、故郷を再建するために、新たな道へと歩み始めた。そして、すべての事件が解決した夜。ユージンは、千絵美を、彼女が初めてこの世界に転移してきた場所に連れてきた。月明かりの下、ユージンは、千絵美の瞳をまっすぐに見つめ、静かに告げた。「千絵美。君を元の世界に戻す。…約束だ」ユージンの言葉に、千絵美の胸は締め付けられた。彼女は、もう、元の世界に帰りたいとは思っていなかった。彼と出会い、彼と共に数々の困難を乗り越え、彼を愛するようになった。「…ユージン。私、あなたと一緒にいたい」千絵美は、涙を流しながら、そう告げた。ユージンの瞳に、驚きと、そして喜びの色が浮かんだ。「千絵美…」ユージンは、千絵美をそっと抱きしめた。彼の体温が、彼女の心を温めていく。「君が望むなら、君はもう元の世界には戻らなくていい。…私と一緒に、この世界で生きてほしい」ユージンの言葉に、千絵美は満面の笑みを浮かべた。それは、魔法や科学では決して解くことのできない、二人の奇跡の物語の始まりだった。探偵JKは、未来を救い、そして、愛を選んだ。彼女の物語は、今、新たな章へと進んでいく。
last updateLast Updated : 2025-09-24
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第15話 私たちの未来

千絵美とユージンの関係は、この日から新たな段階へと進んだ。探偵と魔法使い、互いの能力を補い合うパートナーシップは、やがて、かけがえのない愛情へと変わっていた。 二人は、ユージンの研究室で共に暮らし始めた。千絵美は、異世界の生活に少しずつ慣れていき、ユージンは、彼女の好奇心と探究心に触れ、少しずつ人間らしい感情を取り戻していく。 ある日の午後。千絵美は、ユージンがこの世界に閉じ込められる原因となった、あの呪われた石を手に取っていた。 「ユージン、この石は、もう私たちには必要ない?」 「ああ。師匠が、石の呪いを解いてくれた。もう、誰もこの石に囚われることはない」 ユージンは、そう言って微笑んだ。彼の顔から、以前のような冷たさは消え、穏やかな温かさが感じられた。 「…ねえ、ユージン。私をこの世界に呼んだ人物は、本当に師匠だったの?」 千絵美の問いに、ユージンは首を横に振った。 「師匠は、君を呼ぶために私を幽閉した。だが、君をこの世界に導いたのは、師匠ではない。…私だ」 ユージンの言葉に、千絵美は驚きを隠せない。 「私が、無意識のうちに、君を呼んだのだ。私の予知能力が、君の未来と繋がった。そして、君は、私の人生を変えるために、この世界に導かれた」 彼の言葉には、運命という、魔法では解くことのできない、壮大な真実が隠されていた。 千絵美は、自分の手を見つめた。 それは、彼を救うために、そして、彼と共に生きるために、この世界に導かれた、特別な手だった。 「…ユージン。これから、私たちはどうなるの?」 千絵美の問いに、ユージンは、彼女の手をそっと握りしめた。 「私たちの未来は、もう予知できない。だから、私は君と、この手で、新しい未来を創り続けたい」 彼の瞳には、未来への希望と、千絵美への深い愛情が溢れていた。 この物語は、ここで終わる。しかし、探偵ホッパーと魔法使いの奇跡の恋は、今、新たな物語として、この世界で永遠に続いていく。 第1章~完~
last updateLast Updated : 2025-09-25
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第2章 プロローグ

すべてを終えた後、私たちの日常は、穏やかな光に満ちていた。 ユージンの研究室は、私にとって、もう一つの故郷になった。朝は、ユージンが魔法で淹れてくれる、香りのいいお茶で始まる。彼は、以前のような冷たさはなく、時折、柔らかな笑顔を見せるようになった。 私は、この世界の植物や昆虫、そして人々の行動を、探偵としての視点で観察するのが好きだった。小さな発見をユージンに話すと、彼は興味深そうに耳を傾けてくれた。 「この星の光は、地球の光よりも、ずっと温かいわ」 私がそう呟くと、ユージンは、私の手を取り、そっと握りしめた。 「ああ。それは、君が、この光を、心で感じているからだ」 彼の言葉に、私の胸は温かくなった。 もう、私は「ホッパー」というコードネームで呼ばれることはなくなった。 もう、ユージンの予知に頼る必要もなくなった。 私たちは、自分たちの手で、未来を創り続けることができる。 そう、信じていた。 その日の午後、研究室の扉が叩かれた。 「ユージン様! どうか、お力をお貸しください!」 扉を開けたユージンの前に、一人の青年が立っていた。彼の顔には深い絶望が刻まれており、その瞳は希望を失っていた。 「魔女の呪いによって、街の人々が次々と石にされているのです……」 その言葉は、まるで、平和な日々に投げ込まれた、小さな石のようだった。 そして、その波紋は、やがて大きな波となって、私たちの運命を、再び動かし始める。 これは、私たちが、まだ知らなかった物語。 私たちの、新しい旅の始まりだった。
last updateLast Updated : 2025-09-25
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第16話 石になった街

青年の言葉は、千絵美とユージンの心に、再び緊張感をもたらした。魔女の呪い、そして、予知能力を持つ者。それは、以前の事件を思い起こさせた。 ユージンは静かに青年を研究室に招き入れた。千絵美は、探偵としての直感を働かせる。彼の背負う感情は、ただの悲しみではない。それは、何か大きな出来事によって引き起こされた、深い苦悩だった。 「どうか、私たちの街を救ってください。……魔女の呪いによって、街の人々が次々と石にされているのです」 青年の声は震えていた。 ユージンは彼の話に耳を傾ける。青年の街は、ここから遠く離れた山間部にある小さな集落だという。そして、数日前から、人々が少しずつ、まるで生きているかのように石に変わっていく現象が起き始めた。 「魔女は、未来を予知する力を持つと言われています。そして、彼女が予知した通りに、災厄が次々と起こっているのです」 青年の言葉に、千絵美は既視感を覚えた。ユージンの師匠が、悲しい未来を予知し、それを止めようとしたように、この魔女もまた、未来に絶望しているのかもしれない。 「その魔女の予知能力は、ユージンの予知とは違う。きっと、彼女も私と同じ、異世界から来た人間よ」 千絵美はそう確信した。 ユージンは、魔法で青年が語る街の様子を再現した。 画面に映し出されたのは、活気に満ちていたはずの街が、静まり返り、人々がまるで彫像のように、その場で石になっている異様な光景だった。その表情は苦しげではなく、まるで眠りについたかのような穏やかさだった。 「彼らは、生きたまま石になっている。魔女が、彼らを呪ったのか?」 ユージンの問いに、千絵美は首を横に振った。 「違う。これは呪いじゃないわ。…これは、毒ガスよ。空気中に散布された毒ガスが、人々の体内に入り込み、徐々に身体を石化させているの」 千絵美の言葉に、ユージンと青年は驚きを隠せない。 「毒ガス? どうして、そんなことが…?」 「その毒ガスは、空気中の成分と反応して、特定の条件下で結晶化する。おそらく、魔女は、この毒ガスを使い、人々を石化させる未来を予知し、それを止めようとした。…でも、彼女の予知は、また間違っていた」 千絵美は、魔女がこの毒ガスを開発した人物だと推理した。 再び現れた、未来を予知する異邦人。 今度の敵は、果たして「予言者」か、それとも……。 千
last updateLast Updated : 2025-09-25
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第17話 石化の痕跡

ユージンの研究室から、青年が語る山間部の集落までは、魔法の転移陣を使ってもかなりの時間を要した。千絵美は、移動中もずっと「石化」の謎について考えていた。「ユージン。この毒ガスは、どうやって人々の体内で石になるの?」「この世界の魔法には、物質の組成を永続的に変化させるものがある。だが、呪いではなく『毒ガス』によるものとなると、私にも前例がない」ユージンは、眉間にしわを寄せた。彼の持つ知識や予知能力でも、現代の化学知識を応用した現象は、簡単には解明できない。「つまり、その魔女は、現代の化学知識を持っている異邦人。そして、彼女が予知した未来を防ぐために、この毒ガスを使った…」千絵美の探偵としての直感が、そう告げていた。集落に到着した二人が見た光景は、想像を絶するものだった。集落全体が、まるで時間の止まった美術作品のようだった。人々は、食事をしようとした瞬間、歩いている途中、笑い合っている最中に、その時の姿勢のまま、灰色の石になっていた。千絵美は、石になった人々の周りを注意深く観察する。「ユージン、見て。この人たち、苦しんでいないわ」石化された人々の表情は、恐怖や苦痛ではなく、一瞬の戸惑いや、穏やかな諦めのようなものが浮かんでいた。「毒ガスが、一瞬で意識を奪った、ということか?」ユージンの問いに、千絵美は首を横に振った。「いいえ。毒ガスは徐々に作用したはずよ。だけど、この表情…。きっと、彼女は、毒ガスを使いながらも、人々を眠らせる魔法か薬を併用したのよ」彼女は、魔女が持つ「予知」が、未来の絶望を知りながらも、人々を苦しませたくないという優しさから来ていると推理した。そして、千絵美は、地面に落ちていた小さな木片に気づいた。それは、この集落には自生していない、珍しい種類の木材だった。「ユージン。この木材、どこかの国でしか取れないものじゃない?」ユージンは、魔法で木片を鑑定すると、驚きを露わにした。「これは、遥か東の国『神託の国アリア』でしか採れない木材だ。そして、その国は…予言者を神として崇めている」その瞬間、千絵美とユージンの脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。魔女は、ただの異邦人ではない。彼女は、ユージンの師匠のように、予知能力を暴走させた悲劇の人物ではなく、この異世界の権力構造に深く関わる、巨大な組織の人間かもしれない。二人の新
last updateLast Updated : 2025-09-26
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第18話 神託の国の予言者

千絵美とユージンは、石化された集落から、ユージンの研究室へと戻った。「『神託の国アリア』…その国は、予言者を神として崇拝している。魔女がそこから来たのなら、彼女は単なる異邦人ではない。組織的な予言者だ」ユージンは、古文書を広げながら厳しい表情で言った。この国の平和を脅かす黒幕が、特定の国家の権力構造と結びついている可能性は、これまでの事件とは次元が違う。「そして、この石化毒の技術。現代の化学知識がなければ不可能よ。彼女は、私や騎士と同じように、現代日本から召喚された人物かもしれない」千絵美は、石化した人々の表情を思い出す。苦痛のない穏やかな顔。「彼女は、殺したくなかったのよ。ただ、未来の災厄から人々を隔離したかった。石化させることで、その災厄から免れさせようとした」魔女の行動には、歪んだ優しさが透けて見えた。それは、彼女の予知した未来が、非常に残酷なものだったことを示唆している。千絵美とユージンは、「神託の国アリア」へと向かう準備を始めた。アリアは厳格な宗教国家であり、他国の人間が簡単に入国することはできない。 「アリアへの入国は極めて困難だ。特に、魔法使いである私が入れば、即座に警戒されるだろう」「じゃあ、私がスパイとして潜入するしかないわね」千絵美は、自分のコードネームを口にして、少し笑った。これまでの活動は探偵の仕事が主だったが、今度こそ、彼女の真の"「ホッパー」"としての潜入能力が試される時だった。「潜入?危険すぎる。君には、まだこの世界の文化や常識で通用しない部分が多すぎる」ユージンは反対した。彼にとって、千絵美の安全が何よりも重要だった。「大丈夫よ。私の武器は、魔法でも剣でもない。観察力と論理よ。それに、ユージンがいれば、いつでも魔法で私をサポートしてくれるでしょう?」千絵美は、ユージンの手を優しく握り、彼の瞳をまっすぐに見つめた。彼の表情は、一瞬の葛藤を見せた後、静かに決意を固めた。「…わかった。だが、君には、アリアの文化や言葉を完璧に習得してもらう。そして、私と共に行く」ユージンは、千絵美を一人で行かせることを拒否した。彼は、自らの魔力を隠す魔法を使い、千絵美の護衛として、共にアリアへの旅に出ることを決めた。二人の運命は、今、魔女の予言を覆すため、神託の国へと向かう。 そして、その旅路は、二人の絆をさらに深める、新た
last updateLast Updated : 2025-09-26
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第19話 決意のキス

神託の国アリアの国境は、魔法の結界によって厳重に守られていた。ユージンが事前に用意した隠れ家は、国境から数キロ離れた、人気のない深い森の中にあった。千絵美とユージンは、アリア風の地味な旅装に着替えていた。ユージンは自らの魔力を隠す魔法を施し、千絵美の護衛という表向きの役割を演じる。夜。隠れ家の中は、ランプの微かな光だけが揺れていた。ユージンは、手に持ったアリアの地図を広げた。その表情は、かつてないほど厳しく、緊張しているのが見て取れる。「アリアは、予言者を神と崇める国だ。君の持つ探偵の知識や、私から教えた基礎的な魔法は、決して見せてはならない」「わかってるわ、ユージン。私はただの護衛の侍女。口数も少なく、目立たないように振る舞う」千絵美はそう答えたが、ユージンは地図から顔を上げ、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。「危険すぎる。君は、この国に残るべきだったのかもしれない」ユージンの声は、不安と後悔に揺れていた。師匠の件を乗り越えたとはいえ、彼はまだ、千絵美を危険に晒すことへの罪悪感を完全に払拭できていなかった。千絵美は、ユージンの手をそっと握りしめた。「私は、もうどこにも行かないわ。この世界で、あなたと一緒に生きていくって決めた」彼女は、彼の不安を打ち消すように、強い意志を持って告げた。「あなた一人で、この魔女と戦うなんてさせない。未来を変えるのは、あなたと私、二人よ。それが、私がこの世界に呼ばれた、本当の意味だもの」千絵美の言葉は、ユージンの心に深く響いた。彼は、彼女の愛と覚悟が、自分の予知能力をも超える奇跡の力であることを知っていた。ユージンは、千絵美の手を強く握り返し、地図を床に落とした。そして、ランプの光が揺れる中、彼は迷いを振り切るように、千絵美の唇にそっと触れた。静かで、しかし、決意に満ちたキスだった。それは、愛の確認であると同時に、これから立ち向かう困難への、誓いのキスでもあった。キスを終えたユージンは、千絵美の額に自身の額を合わせ、囁いた。「もう一度、言う。君は私の運命だ。…ホッパー、私から離れるな」千絵美は、その言葉に力強く頷いた。二人は、暗闇の中で、互いの愛と決意を確かめ合い、神託の国アリアへと続く、危険な国境へと向かっていった。
last updateLast Updated : 2025-09-26
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