千絵美とユージンは、厳重な国境警備をくぐり抜け、神託の国アリアへと潜入した。アリアの街並みは、これまでの国とは全く異なっていた。豪華絢爛な装飾はなく、建物は簡素な石造り。人々は皆、同じような灰色のローブを身に着け、表情に乏しい。街全体が、何か巨大な信仰心に支配されているような、異様な静けさに包まれていた。「この国は、まるで大きな修道院だわ」千絵美は、小声でユージンに囁いた。「ああ。予言者が神として崇められ、その神託が国の法律となっている。ここで目立つ行動は厳禁だ」ユージンは、魔力を完全に隠し、千絵美の護衛として常に一歩後ろを歩く。彼は、この国で魔女を見つけ出すには、この国の情報が必要だと判断した。二人は、最も情報が集まりやすいであろう市場へと向かった。千絵美は、護衛の侍女として口を閉ざし、ユージンが物資を買い求めるふりをして、商人の会話に耳を澄ませる。「最近、神殿の予言者様の様子がおかしい。何か恐ろしい予言を見たらしい」「ああ、また災厄が起きるのではないかと、皆恐れている…」千絵美の耳に、商人のそんな会話が飛び込んできた。予言者。それが、彼女たちが追う「魔女」のことかもしれない。ユージンは、千絵美に気づかれないように、指先から微細な魔法の粉を放った。それは、周囲の会話を増幅させ、千絵美の聴覚へと送るための魔法だった。「神殿の予言者は、ここ数日、特定の薬草を大量に求めている」「あの薬草は、幻覚を引き起こすものだ。なぜ予言者様が…」その会話を聞いた千絵美の顔色が、一瞬にして変わった。「ユージン。薬草が幻覚を引き起こす?そして、魔女が求めている薬草が、それだとしたら……」千絵美の探偵としての推理が閃いた。もし魔女が予知能力を持っていても、それが絶対的なものではないとしたら?彼女は、薬草を使って無理やり予知のヴィジョンを見ようとしているのかもしれない。そして、その幻覚の中で見た「未来の災厄」を、石化毒という形で防ごうとした。「彼女は、予知に狂わされているのかもしれない」ユージンもまた、千絵美の推理に同意した。彼の予知も、完璧ではない。無理に未来を見ようとすれば、精神を蝕まれる危険性があることを知っていた。二人は、市場での情報を元に、アリアの中枢である神殿へと向かうことを決めた。魔女は、予知に狂わされ、ますます危険な存在になって
Last Updated : 2025-09-27 Read more