* * *数日後の早朝、シルヴィアはシルクのリボンでハドリーの髪を結ぶ。「で、殿下、出来ました」初めて認められた日からこうして時々髪結いを任されるようになった。ハドリーは自分に泣かれたら面倒だとでも思っているのか、出来上がった髪型について何も口にしない。不安で胸がざわつくけれど、時々でも指名されるということは、きっと大目に見てもらえている証拠なのだろう。こんなにも有難いことはない。「で、殿下はいい加減やめろ」「申し訳ありません……」謝罪すると、ハドリーはため息をつく。(また呆れさせてしまった……。それにしても、殿下の顔色がいつもより良くない気が……)(ここのところ公務でお忙しいようだから疲れているのかもしれない。何か疲れが取れる料理を作れたら良いのだけれど……)「私の顔に何かついているか?」「い、いえ」シルヴィアはすぐさま目線を逸らす。疲れが取れる料理を作ってどうなるというのだ。未だに一口も食べてもらえていないというのに。「今日の晩は遅くなる」「か、かしこまりました」(せめて、殿下の負担が少しでも減れば……)シルヴィアはそっと手を合わせ、心の中で祈るしかなかった。* * *午後、シルヴィアは邸宅の庭を箒で掃く。朝食はオムレツを作ったものの、いつものようにハドリーに一口も食べてもらえず、玄関で見送った後もハドリーの体調が気になって仕方ない。そのせいで、洗濯、掃除も手につかず、きちんとこなすことが出来ない自分を見かねてか、ベルに庭掃除を任される羽目に……。集中を切らすなどあってはならないことなのに、自分が情けなくて胸が張り裂けそう。ふと、庭の隅に咲く美しい花が目に入る。(あの花、もしかして……)シルヴィアは思わず箒を脇に置き、花に近づいてしゃがみ込む。間違いない、薬
Last Updated : 2025-10-22 Read more