あの冷徹な男が薬を盛られたその夜――私は身を差し出すことなど決してせず、警察にセクハラの被害を通報した。そして、彼のスキャンダル写真が競売にかけられるのを、ただ静かに見届けた。彼が拘留されている間に、私はさっさと婚約を破棄し、彼の世界から跡形もなく姿を消すことを選んだ。前世では自ら身を捧げたというのに、彼は私が仕組んだ罠だと決めつけた。二十年もの間憎しみ続け、娘のりんにさえ「パパ」と呼ばせようとしなかった。そして、私が一生をかけて溺愛したその娘は、すべての罪を私に押しつけたのだ。「あんたさえいなければ、パパは香奈おばさんと別れなかったのに。私たちの人生をめちゃくちゃにしたのは、全部あんたのせいよ!」死後でさえ、りんは私の墓を暴き、あの二人を幸せな夫婦として合葬した。私の遺灰は、犬の餌に混ぜて無造作に捨てられた。ならば――人生をやり直せるというのなら、今度こそ彼らの望み通りにしてあげましょう――……温かく大きな手が私の体を覆い、服のボタンを探るように外そうとしている。男は暗い瞳を揺らし、喉を上下させながら、焦るように頭を私の首筋に埋めてきた。「責任は……取る」低く冷たい声が耳を打ち、私の意識は一瞬で覚醒した。私は深谷修(ふかや おさむ)に長年密かに恋い焦がれていたが、その想いを口にする勇気はなかった。だから前世で彼がこの言葉を告げたとき、彼も私に好意を抱いていると勘違いして喜んで受け入れた。まさかそれが、一生を台無しにする選択だとは夢にも思わず。今回は、絶対に同じ過ちを繰り返さない。男の体が触れようとした瞬間、私は力いっぱい彼の腕を振りほどいた。修は勢いよくベッドに倒れ込み、信じられないといった目で私を見つめた。「おまえ……」彼が口を開きかけた途端、廊下から慌ただしい足音が響き、部屋の外でぴたりと止まった。修は何かに気づいたようで、私を見る目に緊張の色が走った。額には細かい汗が浮かび、瞳はどんどん乱れていく。明らかに薬の効果で理性を失いかけている。私は冷ややかに彼を一瞥すると、期待に満ちた彼の視線の前でゆっくりと携帯を取り出した。「もしもし、警察ですか?通報します。セクハラを受けて――」修はがばっと顔を上げ、目に怒りの炎を燃やした。「綾瀬静香(あやせ しずか)、
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