All Chapters of 夫のえこひいき: Chapter 11

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第11話

智成はその後も、番号を変えて何度も電話をかけてきたが、私はそのすべてを着信拒否にした。ただ、国内での彼の様子については、俊介が折に触れて知らせてくれる。俊介の話では、智成は私を追ってモルディブへ来ようとしていたらしい。けれど彼は立場が特殊で、海外へ出るのは簡単ではなかった。それでも、彼はあらゆる困難を乗り越えて私のもとへ来ようとしていた。しかし、その矢先、智成の仇敵が彼を嗅ぎつけたという。当時、彼が詩乃を生き地獄のように苦しめた。逃げ出した詩乃は、智成への深い憎しみを抱いたまま、その仇敵である坂本一族に身を寄せ、彼に関する多くの極秘情報を渡したのだ。坂本一族の当主はその情報を手に入れると、銀糸組の事業を次々に狙い撃ちにし、銀糸組は壊滅的な打撃を受けたのだと。「直近の抗争で、智成はひどい怪我を負った。片脚をやられて、もう二度と君のところへは来られないだろう」智成のことを口にしながら、俊介はどこか切なげに目を伏せた。長い付き合いの友人があんな形で転落していったのだ。心が痛まないはずがない。「雪織、君は本当はいい人だ。前に抱いてた偏見を謝るよ。前は色々誤解してた、悪かった。でも今はそれでいい。智成と離れた今の君なら、もっと幸せになれると思う」電話を切る直前、俊介はいきなりそう言ってくれた。海を見届けたあと、私はモルディブを発ち、新しい旅を始めることに決めた。そのため、翌朝早く、私は荷物をまとめてフロントへ向かい、チェックアウトを申し出る。「桐谷様、もうお帰りですか?」「ええ」これからは自分のために生きる。若いうちに、もっと多くの美しい風景を見届けたい。「承知しました。チェックアウトの手続き、完了いたしました」チェックアウトを終えると、フロントのスタッフが封筒のようなお届け物を差し出す。「こちら、お客様宛ての郵便物です。今朝、ホテルに届きました」私は少し驚く。誰が私に郵便物を?ここでの滞在先を知っているのは俊介だけ。彼からだろうか?「ありがとうございます」私はロビーの片隅に歩み寄り、手にした封筒をそっと開く。離婚協議書を目にして、私は一瞬、動きを止めた。最後のページをめくり、そこにある智成の署名を見つけた途端、涙が頬を伝い落ちる。悲しいわけではない。うれしかったのだ。ようやく、智
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