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夫のえこひいき

夫のえこひいき

By:  スネイルCompleted
Language: Japanese
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私が妊娠三か月のとき、極道の夫の黒川智成(くろかわ ともなり)の幼なじみ、月島詩乃(つきしま しの)が戻ってきた。もし三年前、彼女が突然彼のもとを去らなかったなら、智成の妻は私――桐谷雪織(きりたに ゆきおり)ではなかったと、誰もが囁いた。 そして今、詩乃が戻ってきた。私はその座を譲らなければならない。 どうやら、智成も同じ思いらしい。詩乃が幾度となく私を傷つけるのを彼は黙認し、ついには私のお腹の子さえ二人の愛の名のもとに犠牲にされた。 私はとうとう心を決め、彼のもとを去った。智成との絆も、そこで完全に断ち切った。 ところが、私が跡形もなく消えた途端、彼は取り憑かれたように私を探し始めた。

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Chapter 1

第1話

極道の夫の黒川智成(くろかわ ともなり)の二十八歳の誕生日の日、私――桐谷雪織(きりたに ゆきおり)は彼の好物であるマンゴーケーキを、自分の手で心を込めて焼き上げた。

けれど、ケーキを抱えて宴会場の扉をくぐった私の目に飛び込んできたのは、彼の幼なじみの月島詩乃(つきしま しの)がグラスを傾け、智成に艶めいた仕草で酒を口移しで飲ませようとしている光景だ。

周囲は一斉に沸き立ち、口々に叫ぶ。

「キス!キス!」

「兄貴、今こそチャンスよ!あんたが一番悔いてるのは、月島さんを女房にできなかったことだろ?今日はたっぷり仲良くしてもらわないと!」

どっと笑いが起き、人の波が二人の方へ押し寄せる。智成は両腕を壁際について人垣を押しとどめ、詩乃を胸にかばった。

詩乃の頬が赤く染まり、グラスの縁で頬をなぞりながら、甘ったるい声を零す。

「だめよ、雪織に見られたら、焼きもちを焼くわ。いまの奥さんは彼女なんだから」

智成は伏せ目がちに詩乃を見つめた。その眼差しは、私が一度も見たことのないほどの優しさを帯びている。

「月島さん、兄貴が本当に愛しているのはあなたなんだ。あの女はただの身代わりにすぎねえ。あんたが戻ってきた今、もう居場所なんかねえさ。あんたが頷きさえすりゃ、二、三日であいつを叩き出してやる!」

「そうだそうだ。どうやっても本物には敵わねえ。兄貴が彼女と結婚したのも、月島さんに似てたからってだけの話だろ?ただの代用品だ」

「偽物は偽物だ。どんなに取り繕っても本物にはなれねえ。兄貴があんなのを好きになるわけがねえ」

私はケーキの箱の取っ手を握りしめたまま、貼りつくように寄り添う二人を茫然と見つめる。

囃し立てる声に、智成は口元に薄い笑みを浮かべ、「もうよせ」と軽くいなした。視線は一瞬たりとも詩乃から離れず、まるで何よりも大切なものを守るように、彼女をしっかりと腕の中に抱き込んでいる。

こんなに優しい智成を、私は一度も見たことがない。

そして、こんな賑やかで親密な空気の中に、私が入り込める余地もないのだ。

彼が何ひとつ拒まなかったその瞬間、私はもう、この結婚が終わりへ向かっていると悟った。

そっと一歩を引き、ケーキを提げたまま踵を返そうとしたとき、詩乃が入口の私に気づいて、わざとらしく声を上げる。

「雪織、どこへ行くの?」

彼女は拗ねたような眼差しを智成に投げて、身なりを整えてこちらへ歩み寄る。

「雪織、誤解して怒って帰ろうとしたんでしょ?ただの王様ゲームで罰を受けてただけ。私と智成の間には、何もないんだから」

兄弟分たちは私の突然の登場に驚き、口々に言い訳をして散っていく。

智成は眉根を寄せ、うんざりした調子で言う。

「やめろ、雪織。たかがゲームだ。大騒ぎして、みんなの気分を壊す必要なんてない」

私はなすすべもなく、膨らみはじめた腹を思わずかばった。胸の奥には、鈍い痛みが波のように押し寄せてくる。

詩乃は口元をわずかに吊り上げ、得意げな眼差しで智成に甘える。

「智成、奥さんを怯えさせちゃだめよ。せっかく誕生日にケーキを持ってきてくれたんだから、そんなに怖い顔しないで」

彼女は当然のように私の手からケーキを受け取ろうとし、まるで正妻のような口ぶりで言葉を続ける。

「智成なんて張り子の虎よ。怖がることないわ」

私は思わずケーキの箱の取っ手を強く握りしめた――そのとき、詩乃が甲高い悲鳴を上げる。箱が傾き、ケーキがふわりと滑り落ちて、彼女のドレスを汚した。

「きゃっ、私のドレス!」

詩乃は瞬く間に涙目になり、頼りなげに智成を見上げる。

「智成、雪織はわざとじゃないの。怒らないであげて」

「文句があるなら俺に言え。詩乃を傷つけるな。お前ももう母親になるんだろう?どうしてまだそんなに我を張るんだ」

智成は詩乃をぐいと引き寄せ、私をうんざりしたように睨みつけた。

「よく考えて反省しろ。自分の過ちに気づかない限り、二度と俺の前に現れるな」

そう言い捨てて、詩乃を大切に庇いながら私の脇を通り過ぎる。

その刹那、脛に鋭い衝撃が走った。体のバランスが崩れ、私は脇の階段を転げ落ちる。

鋭い痛みが全身を襲う中、私は遠ざかっていく智成の背中を見つめ、声にならない悲鳴を絞り出す。

「智成、行かないで。私のお腹が……」
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松坂 美枝
松坂 美枝
極道の奥さんって権力あるはずだし側近も控えてると思うがこんな目に遭うんじゃやってられないよな 潰されて当然だし主人公は自由に幸せになって欲しい
2025-10-23 09:21:45
4
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ノンスケ
ノンスケ
どこが極道?ただの勘違いクズ男。本当に妹といいながら曖昧な関係を持ち、家庭を破滅させる男の多いこと。流産は悲しいけど、そんな男の子を産んでも大変なだけ。新しい人生を楽しんでほしい。
2025-10-23 23:28:56
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蘇枋美郷
蘇枋美郷
極妻でも夫が見下している相手(実際は違ったらしいが)を手下達がまともな対応するわけがない。クズ女の策略とはいえ、目が曇ってたのはクズ夫自信。自由を手に入れられて良かった!
2025-10-23 15:27:18
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