会議室には役員たちが勢揃いし、静寂に包まれていた。長年、私・夏川結菜(なつかわ ゆいな)と共に戦ってきた同僚たちの顔には、隠しきれない憤りと同情が浮かんでいる。会議室に足を踏み入れたばかりの私は、その光景に思わず足を止め、無意識に会議テーブルの上座に座る彰吾に視線を向けた。次の瞬間、私の瞳孔が激しく収縮した。「彰吾、こちらは?」私は眉をひそめ、会議テーブルの上座、彼の隣に座る女性を指さした。本来、その席に座るべきは、私のはずだった。十年前、桐生彰吾(きりゅう しょうご)の父が突然亡くなり、彼に残されたのは、莫大な負債を抱え、風前の灯火となった会社だけだった。密かに想いを寄せていた彼にもっと近づきたくて、私は海外での高給な仕事を捨て、迷うことなく彼の元へと馳せ参じた。当時、会社は多額の負債を抱え、社員は皆、逃げ出してしまった。私が、彼にとって唯一の従業員だった。秘書として、運転手として、コピーライターとして……会社のすべての業務をこなし、時には彼の身の回りの世話まで焼いた。言ってみれば、私がいなければ、今日の桐生グループは存在しない。ましてや、今のように輝かしい彰吾もあり得なかった。今や会社は上場を目前に控え、私も上場記念日に彼へプロポーズをしようと心に決めていた。それなのに、今、彼の隣には見知らぬ女がいて、本来なら私のものだったはずの席に座っている。一体、どういうこと?私の言葉が落ちると、会議室にいた十数人の視線が一斉に彰吾へと注がれ、雰囲気はことさらに重く、張り詰めた。彰吾は冷たい顔で、私の視線を避け、何でもないことのように言った。「結菜、こちらは我が社の新しい副社長、水瀬香織(みなせ かおり)だ。会議が終わったら、彼女を人事部に連れて行って、入社手続きを済ませてくれ。オフィスなんだが、悪いけど君の部屋を彼女に明け渡してほしい。その方が、俺の部屋から近くて、仕事の連携が取りやすいからな」私はその場に立ち尽くし、目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。副社長、しかも、私のオフィスを彼女に譲れ、と。私は、全社員が逃げ出した時から彼に付き従ってきた。表向きはマーケティング部長だったけれど、実質的にはずっと副社長の仕事をこなしてきた。十年もの間、心血を注ぎ、倒産寸前だった会社を、もうすぐ上場する
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