昇の住まいは会社から遠くなく、車で十数分の距離にある。家はそれほど大きくないが、隅々まで温かみのある内装だ。凛はリビングの大きなソファがことのほか気に入って、何度もごろごろと転がっては、起き上がろうとしない。彼女は、ねだるように尋ねた。「ママ、今夜、ソファで寝てもいい?」「いいわよ。お布団、持ってきてあげる」澪はそう応じると、部屋に布団を取りに行った。凛はもう一度ソファで転がると、大きな声で叫んだ。「昇おじさん、ありがとう!大好き!」澪は凛に目をやった。この子を連れてきたばかりの頃は、まだ怯えていて、いつも自分にぴったりとくっついていた。澪の姿が見えないと、すぐに不安になったものだ。このところ、よく食べてよく寝て、顔もふっくらと丸みを帯び、度胸もずいぶんついた。澪が忙しくしていると、自分から昇を探しに行くことさえある。「昇おじさんが好き?」澪は彼女の頬をつねった。凛はこくこくと頷き、母親の耳元に顔を寄せて小声で言った。「ママ、昇おじさん、ママのことが好きなんじゃない?」澪はわざと顔をしかめてみせた。「ママのことまで心配するようになったの?」しかし、凛はもう、母親がこんなことで本気で怒ったりしないことを見抜いている。ただ笑って顔を寄せ、すりすりと甘えるだけで、答えはしない。ただわがままに言った。「私も昇おじさんが好き!」澪は彼女をくすぐった。昇が布団を抱えて出てくると、母娘がソファで丸くなっているのを見て、思わず笑みがこぼれた。「昇おじさん、助けて!」凛は彼に助けを求め、くすくす笑いながら彼の方へ転がっていく。昇はそれを受け止めるように、彼女を抱き上げた。彼は尋ねた。「ママを怒らせるようなこと、何か言ったのか?」凛が彼の耳元で何かを囁くと、昇の笑顔が目に見えて輝きを増した。彼は澪の方を見て、意味ありげに語尾を伸ばす。「なるほどねえ!」澪は立ち上がり、大人びたことを言う凛を、何の迫力もなく睨みつけると、彼女に手を差し伸べた。「こっちに来なさい。顔を洗いに行くわよ」凛はすぐに昇の腕から降り、澪の手を取りに行った。「はーい、ママ!」澪はまず凛を綺麗に洗ってやり、彼女を部屋から出すと、自分の身支度を始めた。パジャマに着替えて出てくると、ソファの上
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