教室に辿り着くとそこには遊莉がいる。美穂はホッとした表情で彼女に近づいていく。周囲がどんな目で見ているかを知らない彼女は、ただただ目の前だけを見つめていた。基本教室で会話する事のなかった二人が向き合いながらクラスメイト達がその光景に釘付けになっていた。事情を知らない彼女達は二人から流れ出る異様な雰囲気に飲み込まれそうになっていく。 「……おはよう」 「……」 遊莉は美穂が話しかけているのに、誰もいないような素振りをする。話し合う事はしたくないと言う意思表示にも取れた。このまま何も言わずに今の状況を受け入れていくなんて出来る訳がない彼女は、何度無視されても諦める事をしなかった。 心が折れそうな美穂の瞳には沢山の涙が溢れている。少しでも気を抜いてしまうと溢れてしまいそうだ。周囲の視線が痛い。自分達が視線を集めていた事に気付くと、顔を見られないように教室を出ていく。どうやっても遊莉との関係性を戻す事が出来ないのだろうか。彼女と通わしていた心は、何もなかったように離れていく。 話も出来ないまま関係性が終わるのかと不安になる美穂がいる。遊莉の気持ちを考えずに、目の前にある事を優先してしまった自分が悪いのは理解しているが、それでもあんな態度は納得が出来ない。他に何かを抱えているのかもしれないと思うと、妙に納得出来る自分がいた。 彼女は知らない。自分の恋人の前で他の人を受け入れてしまった事を、催眠術にかかったようにあの時の記憶を手放し、日常の生活に戻ってしまった。美穂が遊莉の立場でも耐えれないはずだ。真実は彼女の見えない部屋へと仕舞い込まれ、美穂に伝わる事はない。 そんな様子を見つめているさゆりは彼女の表情を見ているとズキンと心に矢を射られたように痛む。自分の思い通りになっているはずなのに、そこには美穂の
Last Updated : 2025-10-19 Read more