だいたい人間という連中は、エルフには甘い。私のように誰が見ても、エルフの中でも飛び抜けて美しいとなれば、チョロい。それが世界の真理。世界は私を中心に回っているのだ。えっへん。 この大陸ではしょっちゅう戦争が起きる。あっちの川の水が欲しい、そっちの鉱山を寄越せ、そこの農地は豊穣だから手に入れたい。理由がなんであれ、まあ戦争というのは起きるのだ。人間というのはそういう生き物。そこに私の美貌は抜群に効く。 せめて私ほどの美貌がそれぞれの国にいれば、あっという間に口説いて止めさせることができるのに、残念ながら私のような美人はそうそういない。まさに絶世の美女とは私のこと。魔法はあまり得意ではないけど、あまりある美しさはすべてを解決するのだ。 そんなわけで、人間の国を渡り歩くのにたいていは苦労しない。誰もが美しさに息を呑み、女神と讃え、振り向いて目が離せなくなるのだから、国境を超えるなど造作もない。 燃えるように鮮烈な腰まで伸びる赤い髪、ルビーでさえ叶わないちょっと憂いを帯びた(ように見える)瞳、ついでに泣きボクロもポイント。 背は高く出るところは出て引っ込むところは引っ込むメリハリ抜群の体からすらりと伸びた傷一つない手足。つまり、私はどこをどう見たって美人さんなのだ。自画自賛しても神は怒らないどころか褒め称えてくれるに違いない。 ◇◆◇ 今日もつい半刻前に谷あいの哨戒塔の下を堂々と闊歩して国境を越えたばかりだ。イチコロとはまさにこのこと。誰何する人間などいない。やっぱり世の中見た目が九割、いや、十割。うーん、美貌も過ぎると罪よね。 今回の荷物は密書。まあ運び屋を使うなんてだいたい疚しい連中ばかりなのだから、料金はもちろんはずんでもらった。ちょっと上目遣いに見つめてやったら、依頼主はほいほい倍額出した。チョロい。チョロすぎるぞ人間。 空は晴れ渡りそよ風が気持ちいい。陽光は私の赤い髪をいっそう際立たせる自然の恵み。すばらしい旅日和。草原はこうでなくっちゃ。 私は運び屋。この密書に何が書かれているのかは知らないけど、どうせろくでもない内容なのだろう。また戦争が始まるのかと思うと、稼ぎ時の予感で胸が高鳴る。 ◇◆◇ 道中立ち寄る予定の宿で、実はもうひとつ仕事の予定がある。 表向きの仕事は運び屋。もう一つは殺し屋。魅力溢れまくりな美貌に油断
Last Updated : 2025-10-16 Read more