セイレーンの涙。そいつを届けた先の貴族様は、それはそれは大層喜んだ。余命いくばくもない老体の貴族は、今生の最後の願いとして、一族の繁栄を願ってそれを飲み干した。 私の美貌に年甲斐もなく見惚れてしまい、あれこれ家宝を持ってきては好きなものを持って行けと目の前に並べていった。もちろん披露された数々の品の中から、いくつか頂戴したことは言うまでもない。これでまた私の財布が膨らんだというわけだ。素晴らしい! そしてチョロい。結構な値打ち物まで遠慮なし。 そんな老貴族の願いが聞き届けられたのかどうなのか。セイレーンの涙にはもう一つ効果がある。それは手に入れる幸せの対価が、見合わないくらいの不幸というやつだ。そして程なく私はそれが実際に効果があったんじゃないかと思うのよね。 何故って? おそらく老貴族の願いは、今の王国の中での一族の栄達だったと思う。でも皮肉なことにその王国そのものが別の貴族の反乱であっという間に滅んでしまい、すでに別の王家が君臨している。なんと不幸なことでしょう。残り僅かな人生で最後の願いを、秘薬を使ってまで叶えたと思って安堵したところ、死ぬ前に国の方が滅んじゃうなんて。 そして、一つ目の効果も、おそらくあったのだろう。王様が入れ替わって国名が変わっても、その老貴族の一族は引き続き新しい王国で取り立てられたのだとか。栄達できて良かったわね。そんなこともあって、老貴族は複雑な胸中を示すかのように苦笑いしながら息を引き取ったのだとか。これは幸福だったのか不幸だったのか。二つの効果はどちらもたぶんあった。これでまた一つ賢くなったわね、私。そして分不相応な願いごとなんて、するもんじゃないわよ、人間。 ◇◆◇ あの王国での反乱を、私はもちろん事前に知っていた。お葬式に花束を届けた際に、ちょっと耳を澄まして聞いてしまった小声での密談。反乱の首謀者は、おそらくあの仕事の依頼主に違いない。どさくさに紛れて当主を亡き者にしてその領地を乗っ取った挙句、その話が落ち着く間もなく反乱を起こして今度は王様に。手際だけは立派なものだと、私ですら感心する。 強引なやり方はだいたい反発を生むもので、暗殺者ギルドに顔を出してみれば、さっそく出ている暗殺依頼。もちろん新た
Last Updated : 2025-11-07 Read more